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スクールアニマルFs  作者: 誠二吾郎
第二章.一学期
8/15

第七話「ナナ」

 靴箱から靴を出し、靴箱を後にして校庭を出ると、桜の花が散りゆく中、校庭からお見送りしてくれるような桜の木の存在は心強いものがある。

 僕は帰宅路を素直に歩いていると、公園の近くまで来た。そこで猫川と最初に会ったことを思い出した。

「この木の上に猫川が居たんだっけ」

 僕は木の上を見上げると桜の花びらが舞っていた。まるで春の妖精達が踊っているかのように。


「さすがにいないか。先に帰っていると思うし」

 僕は周辺にあったベンチに座った。首をベンチに置き、真上を見ながら一息入れた。そして、桜を見ながら以前飼っていたダックスのことを思い出していた。僕の右目から涙が1粒こぼれた。


「ダメだな。こんなの誰かに見られたら恥ずかしい……」

僕は目線をまっすぐ見ると、屈伸しながら座って背中を見せる猫川の姿があった。

 目が点になったのは僕なのだが、なぜこんなところにいる。完全に帰ったと思っていた。僕は涙目になっていた目を手で拭うと、猫川の近くに向かった。

「こんなところで何やってるんだよ?」

「ふぅニャン、はぁびっくりしたニャン。何の用ニャン」

 ビクッとなった猫川は僕の方向に身体を向けて目線を合わせ睨みを利かせてきた。背中の後ろには何かを隠しているようだ。


「あんたはさっさと帰りなさいよ。変態。あ、こら、だめニャン」

 僕は猫川を振り切って、隠していたものを見た。段ボールの中には3匹の子猫だった。

「可愛いじゃねーかよ。生まれたばかりなのか?」

 猫川はため息を吐き、頭を手の甲でかいた。そして諦めたかのように、僕に言った。

「ここに捨てられていたのニャン。この子達も私と同気相求だと感じてニャン」


「それじゃ飼っているんか?この猫たちを」

 僕はそう言うと猫川は頭をかきながら言った。

「家自体が学校寮だから飼えにゃいニャン。だけど、私と同じ、この猫ちゃんも捨てられてたからほっとけにゃくて」

「そうなのか、お前って……」

 こいつ……、猫川って意外と優しい奴だったのか。今まで、気まぐれのおちょくるのが好きな奴だと思っていたのだが。

「あ、余計なことを言ったニャン。……」

猫川は手で目を当てて考え込んでいた。そして、風が吹いたタイミングで口を開けた。

「あんたもわかってると思うけど、私は頭に猫耳が生えてるし、身体能力も人間以上。聞いたところ遺伝子変化で私は普通の人間ではにゃいニャン。当然、両親は自分の子ではないと思われたニャン。拒絶し、物後ことがつく頃には施設に預けられたニャン」

ため息を一息吐き、

「施設でもいじめられたニャン。結局、人間ってそういうもんだニャン。異質なものには杭を打て。私は好きでこんな姿になってないのに」

「…………」

「あんたも一緒ニャン。こんな姿、気持ち悪いと思ってるニャン。もう、嫌なことを思い出してしまったわ。ミルクもあげたし、今日は帰るニャン」

 猫川は、僕の目を見ずに公園を出て、交差点の横断歩道を渡るため歩き出した。


 僕は頭をかきながら、「猫川にそんな過去があったのか。それにしても親に捨てられたとか壮絶すぎるだろ」

 僕自身、猫川の気持ちを完全に理解することはできないが、泣きそうになっていた。

「あいつのこと誤解してたのかもしれないな」

 僕は、後を追いかけた。するとふと公園の外を見渡した。僕の目線で一台、ふらふら右往左往しているトラックが見えた。

「これ危なくないか?もしかして居眠り運転?猫川は気づいてるのか?おーい猫川!!」

 信号が青になり、猫川が交差点の横断歩道を渡ろうとした瞬間、猫川にトラックが突っ込んできた。

「ニャン!!きゃ_____」その交差点周辺に、猫川の悲鳴が聞こえた。



「…………。おい大丈夫か?おい?」

 目をつぶっていたが、身体の感覚があることに気付いたのか猫川は目を開けた。

「私、生きてるニャン」

僕は息を吐いた。

「よかった。助かって。間一髪だったわ」

トラックが猫川に突っ込んでくる瞬間に、僕は猫川のお腹をつかんで、向こう側に一緒にコケこんだのだ。


「どうして、あんたこそ危ないことやってんじゃにゃいわよ」

猫川は頬が赤くなり、目には一粒の涙が見えた。

「さっきの話を聞いてほっておけるわけないだろう。それに人間が全員、偏見で見ているって思われちゃ気分も悪いからよ」

「バカニャン、バカニャン。あんたはバカニャン」

涙をぽろぽろと猫川は流している。

「ああ、なんだって言え。だけど、人間がお前を差別するのなら、僕が人間を代表して僕が猫川を守ってやる。仲間になってやる。なんなら、そいつを殴って痛みを合わせてやる」

 僕は公園で過去を話している、猫川の姿を見て思ったのだ。人間相手だったから、気を強く持とうと無理していた。そんな過去があったから、自分の感情を押し殺していたのに違いないと。普段は優しい、ちょい猫風の優しい普通の女の子だということに。


「なな……、猫川ナナ、ニャン」

 猫川は僕に目線を向けずにそう言った。

「お前の名前か?ナナっていうのか」

 意外な豹変に僕は開いた口を閉じることが出来ないでいた。

「勘違いしないでよね。あんたニャンかに、……守ってもらうほど私は弱くないニャン。だけど、……、さっきは……、りが、……がとう」

「なんだって?」

「ありがとう!!」

 そう言うと猫川は背を向けながら、姿を消した。今まで不愛想だった顔が、名前を聞いた直後は、目元がウルウルしながら真っ赤な顔していたのが印象的だった。今まで猫川ナナの中で一番可愛かった。

「さて僕も帰るか」

そう携帯を見た瞬間、さっきの衝撃で画面にヒビが入っていた。

「結局か……」

 家に帰らず、先に携帯ショップに直行することになった。ただ、僕にとって今日の出来事は、春の嵐が舞い上がる直前、猫川と少し歩み寄れた1日だった。

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