第三話「不思議な空間」
なんでこんな状況になっているのだろうか。僕が知りたい。なぜ入学早々、教室に入った瞬間に猫娘といがみ合っているのだろう。
「この男があたしのパンツ見たのよ。エロい顔をしてたニャン」僕を下目で見つめている。
教室から感じる白い目が痛い。くそ、僕が何をしたというのだろうか。窓から見える桜を見ながら、僕の春はもう散ったことを確信した。
僕と猫娘がにらみ合っていると、隣から声が聞こえてきた。
「まぁまぁ落ち着けよ。これから一緒のクラスなんだからよ」
その声は男の声だった。しかし、何かが変だった。僕自身、手汗がいつもよりびっしょりになっているのに気付いた。
そいつは、見た目は男子高校生なのだが、頭には耳、目の周りには黒いクマがあった。ズボンのお尻の周りには尻尾が生えており、シマシマな感じだった。
「お前は?誰だ?」なぜか、こいつに限っては猫娘とは違った危険さを感じてしまっていた。なぜだろう、僕の本能的なものがこいつから逃げろと言っている。
「まあ、落ち着けよ。猫川も、それに君も。ちなみに俺の名前は御手洗アライだ。挨拶代わりって言っちゃなんだが、お前のiPhone手洗い、水洗いでピカピカにしてやったぜ」
「…………」
ん?今なんて?俺のiPhoneがなんだって?僕は、額から汗を一滴ぽとりと落とした。
「この俺にかかればいちころよ。汚れてたからよ。これに免じてここは御開きと……」
「うおりゃぁあああああああ」僕の渾身の左ストレートは御手洗アライの腹にクリティカルヒットした。猫川という猫娘とのストレスを込めて。動物愛護団体の職員に見られたら、確実に抗議文が届くだろう、そう思いながらやった。後悔はない。
アライはというと教室の床で寝そべっていた。
「ぷークスクス。やっちゃたニャンね。これはいけニャンいんだ。いけニャンいんだ」
僕をあざ笑うかのように僕を下目で見ていた。僕はその言葉をスルーして自分のiPhoneを手に取って確認した。
「よかった。防水仕様にしてて、助かった」僕は早々の出来事に冷や汗をかいたが、結果に関して、胸を下した。ただ、僕はこの環境に不思議な印象を抱いた。
「ニャンにゃの。無視、あたしの話を聞いているの?」
「おい猫娘、……いや、猫川、お前、この教室なんか不自然と思わないか?」
「ん?ニャンにか不自然なところ?そんなのはキミの行動だニャン」
僕はこの教室を冷静になって見渡した。僕の通学鞄がコトンと前に倒れた。僕の目がおかしくなったのではと、口から垂れてくる唾をゴクリと飲んだ。この教室にいる生徒全員が動物っぽい人間の姿をしているのだから。
その瞬間、校内放送が鳴った。それは女の人の声だった。それも結構キーが高い。聞き取れるがうるさいと思うほどに。
「ピンポンパンポン、校内放送です。それでは今から入学式を準備が整いましたので、新入生の皆様、体育館にお集まりください。ただし、Fクラス出席番号005……何て読むんだ、まあいいや、ジョン君は校長室に来てください」
僕の名前を呼ばれなかったことに対しては微かなショックがあったのだが、それは僕のあだ名だよ。そう心で思いながら僕は肩を落とした。
「ニャ~ン、アライ君をぶっ飛ばしたことがバレちゃたのかもね」
手の甲で頭をかいている猫川が僕に言ってきたが、それよりも不自然のことが気になってしまう。
「クソ、どうなっているんだ。この教室は」
僕は周りを見渡すと、無言でこの教室を出た。春一番の風が吹き、桜が散っている幻想的に思う暇もなく。