スニーカー
パートの帰り。
夕方でも夏の日差しが残る頃、家に着いた。
「ただいま~」
鍵を開けると玄関に見覚えのないスニーカーが目に映り、サァっと血の気が引いていく。
両親は共働きでこの時間には帰ってこない。
兄は同棲を始めたので家に居ることはない。
壁のせいで陰る玄関。あまり明るくないいつもと同じ玄関が、その日はなぜが暗く感じた。
……誰の靴。
お世辞にもきれいとは言えないその靴は、踵が潰れていた。
恐る恐る中に入ると、まず最初に洗面所。
それからお風呂場とトイレ、寝室、リビングと足音を立てないように見て回り、最後に子供部屋。自分の部屋だが兄と一緒に使っていたので子供部屋と呼んでいる。そっと覗くと誰も居ない。
マジで誰なの、誰の靴?
自分しか居ないことを確認すると、気を紛らわすためにテレビをつける。
興味もない政治の話が流れる間、兄にメールを送った。
Re:
20xx年8月12日 5時16分
家に知らない靴あんだけど、お兄ちゃん知らない?
10分後、兄から返信がきた。
Re:
20xx年8月12日 5時27分
それ俺の、後で取りに帰るから
「なんだ お兄ちゃんのか。良かった〜ってか、靴ぐらいちゃんと履けっての!」
新たにメールを送信すると、ぐぅ〜とお腹が鳴って
「安心したらお腹減ったな、お菓子でも食べよーっと」
ぽいとソファーに携帯を投げると、お菓子の入った棚を開けた。
***
仕事帰り、もうすぐ9時になる頃。俺は家に着いた。
「ただいま〜」
「お帰り、ご飯できてるよ。それともお風呂先入る?」
彼女の七海が出迎えてくれた。
「あぁ〜…汗かいたし、先フロ入る。」
そう言って俺は脱衣所へと向かう。
「あー…疲れたぁ〜」
今日の仕事もきつかった。
変な客のクレーマーの対応に変な上司の難癖や嫌味。
「ちょーヤダ、次こそぜってー辞めてやる。」
何度目のセリフだろうか。
嫌なことを忘れるようにばしゃばしゃと乱暴に顔を洗った。
てか明日休みだわ、何すっかなー。
ふぅと息を吐きながら鼻まで浸かると、妹のメールを思い出す。
あれ?そういやあいつ…何だっけ?あぁそうだ、
俺、踵潰さねーけど。
………誰の靴?