表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

ドジとオーガ(2)


 夕日に輝く、立派な二本角。

 見上げるほどの巨躯が、地面に大きな影を落としていた。

 路地裏の暗がりには、表通りの喧騒も届かない。

 ゴミの詰まったドラム缶。ガラス片。動物の死骸。

 影の主であるドガは手首の関節を鳴らした。目線はまっすくゴブリンたちに向いている。標的の数はざっと見て十人ちょっと。依頼者が「集団」と言っていたからもっと大掛かりなグループなのかと予想していたが、どうやら違ったらしい。

 ――だが、やることは同じだ。

 ドガは丸太のように図太い脚をのしのし動かして、ゴブリンたちの前に躍り出た。

 二十数個の瞳が闖入者に向けられた。

「ナ、何ダ!」

「消エロ!」

「痛イゾ!」

 ゴブリンたちの表情は友好的とは程遠い。気の弱い人間であれば尻尾を巻いて逃げ出してしまっただろう。邪険な雰囲気を醸し出している。しかし、ドガは人間でもなければ、気も小さくない。小山のような巨体をどっしり構えたまま、ゴブリンたちをじろりと睥睨した。

「一応、確認する」

 相手の頭上に疑問符が浮かんだ。

 いつものことながら、この瞬間に相手の底が知れる。

 強者はすぐに動き出す。戦うなり、逃げるなり。仲間を呼ぶなり……。ある程度、場数を踏むと危機を察するようになる。それとは対照的に、雑魚たちは足を止める。困惑して、こちらの次の言葉を待つ。

 ――また雑魚か。

 ドガは肩を落とした。

 しかし、仕事は仕事である。

「三日前の深夜。長靴通りで若い人間を痛めつけたそうだな」

 ここまで話せば、流石のゴブリンたちでも事態を呑み込めたらしい。

 さっとゴミ箱の上から飛び降り、臨戦態勢に移った。オーガとゴブリンは体格にかなり差がある。しかし、数だけなら向こうのほうが圧倒的に上だ。十対一。ゴブリンたちは「やれる」と判断したようだ。粗末なボロ布の下からナイフや短剣を取り出した。

 切っ先はドガに向けられている。

「夜警、カ……?」

「違う」

「復讐カ……?」

「その代行だ」

「マ、マサカ……殴リ屋ノ鬼、カ?」

 ドガは凶器の切っ先を見下ろしてから小さく笑った。

 それだけで十分だった。

「来い」

 その一言によって火蓋が切って落とされた。

 意味不明な喚き声をあげながら最初の一匹が突進してくる。だが、ガタイが違いすぎる。ドガは素早く腕を伸ばして、ゴブリンの頭を片手で上から掴み取った。そのまま力任せに握り潰すこともできたが、殺しは依頼に含まれていない。

 ドガは紙くずでも捨てるように、無造作にポイッと後ろへ放り投げた。

 その間にも、次から次へと新手が殺到してくる。

 これがゴブリンの戦い方なのだろう。

 多少の犠牲は織り込み済みで、勢いに任せてとにかく一気に攻め立てる。多少の力量差なら誤魔化せる。雑魚相手なら一方的に嬲り倒せるだろう。悪くない戦法だ。しかし、相手が悪すぎた。

「ヌルい」

 ナイフを振り上げた一匹を蹴り飛ばし、腰だめに短刀を構えた一匹を上から叩き潰す。

 横から回り込もうとした数匹をまとめて横なぎに薙ぎ払う。その過程で巨大な掌にナイフが刺さったが、傷は浅い。ナイフを引き抜き、民家の壁に力任せに突き刺した。

 ケタが違いすぎる。

 瞬く間にゴブリンの半数が叩きのめされ、地面に伏している。

 ここにきて、ようやく彼我の戦力差を思い知ったらしい。まだ傷を負っていないゴブリンたちはさっと踵を返した。ここで逃がしてなるものか。ドガは身を低く屈めた。

「ふっ、」

 一息吐いて、地面を蹴った。

 まずもって、歩幅が違いすぎる。たった三歩で最初のゴブリンの背中に手が届いた。首を掴んで、投げ飛ばす。すぐにまた次の獲物を捕まえて投げ飛ばす。掴んでは投げ。掴んでは投げ。十歩も走らぬうちに、最後の一匹が宙に打ち上げられた。

「こんなものか」

 地面でのたうち回るゴブリンたちを見下ろして、ドガは唾を吐いた。

 ――つまらない仕事だ。

 手応えが無さすぎる。もっと骨のあるヤツと血肉踊る戦いを繰り広げたい。

 ドガは民家に挟まれた路地裏から見える小さな夕空を見上げた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ