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きみの黄泉路に花はない  作者: 味醂味林檎
幕間

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37/45

親愛なる友へ贈る手紙

 ――親愛なるアウルくんへ。




 こんにちは、いや、こんばんはだろうか? 書きだしって何が正解なんだろう。

 今、聖火師団の宿舎で、これを書いているんだ。明日には王都を出発するから、しばらく挨拶もできないしね。

 ああ、でも何分、こうした手紙というのは本当にあまり書いたことがないんだ。きっと綺麗な手紙にはならない気がするが、許してほしい。


 さて、これを読んでいるということは、たぶん俺は死んでいるのだろう。うん、これは遺書というやつさ。明日出発するっていうのに、俺はきみに「行ってきます」としか言わなかっただろう? 本当なら「さようなら」を言っておくべきだったのに。いくら裏方の技術少尉だからって、生きて戻れる保証なんかないんだから。


 俺は立場上、基本的には裏方だけど、俺の家の魔術が死霊術である以上、全く戦場に立たないということはない。だってこれほど戦争向きの魔術はなかなかない。これを使いこなせば、敵の死体を操って、敵の本拠地に奇襲だってしかけられるんだからね。悪趣味といわれるかもしれないけど、俺たちクレー家の魔族は、死んだ人の尊厳なんか考えないのさ。魔術師としてより高みを目指すうえで、代々先祖の死体だって研究資料にしてきたような一族なんだよ。どうでもいいことだけど。


 ああ、でも一応弁明すると、俺たちは死者の尊厳を踏みにじるが、自分たちが死ぬことも忌避しない。俺自身、これから死ぬかもしれないと思いながら、どこか興奮してさえいる。死ぬそのときこそ、死に一番近づき、死霊術の研究が完成するんだからね。死の世界を覗くのが今から楽しみだよ。気持ち悪いと思ったらごめん。


 それで、俺が言いたいのはね、きみにお願いがあるってことなんだ。万が一、俺が生きて戻れなくて、きみがこの手紙を読んでいる場合に。


 もし俺が帰らなかったら、あるいは帰ったときにむくろであったら、そのときは俺の研究資料を、俺の財産をきみに全て譲りたいんだ。


 クレー家の死霊術は世間でいうところの悪趣味な魔術だけど、俺にとっては誇らしい技術で、俺の代で絶やしてしまうのはつまらない。しかしながら、魔術師として頼りがいのある親戚というのもいないんだよね。

 それに、研究資料の中には、ナイトオウルの設計とかの話もある。俺がいないとナイトオウルを管理する人がいなくなっちゃうから、その辺りはきみに任せてしまいたい。きみが一番信用のおける人だと思うから。

 元々俺がいない間預かってくれるって約束だっただろう? その期間がちょっぴり長くなるだけさ。ナイトオウルが壊れるその時まで、きみが彼の持ち主になってくれたらいい。

 ナイトオウルはナルシスイセンにご執心っぽいから、可能なら決着をつけさせてやってほしいな。親としては心配もしているけど、羨ましいとも思うよ。俺個人には宿敵ってやつはいなかったからね。


 それから、メグ嬢のこともよろしく。彼女は言っちゃなんだけど友達が少ないし、きみが気にかけてあげてほしい。勿論俺のことなんかいなくなったって彼女の人生には何の影響もないだろうけども、しばらくは落ち込みそうだ。彼女はよく涙を隠すけど、友達の不幸に対してきちんと悲しめる程度には優しいんだ。健気で可愛い女の子だよねえ。


 なんだか冗長な手紙になってしまって、失敗したなあと思う。書きなおしているほど時間の余裕がないから、仕方なくこのまま封筒に入れてしまうよ。

 本当は読んだらすぐ燃やしてほしいんだけど、一応これ遺書という体裁だから、俺の遺産を引き継ぐまでは持っていてね。法的処理のためには、いかに雑な手紙でも、これが残っているほうが都合が良いだろうから。




 ――きみの愉快な友達、クラフト・クレーより。




 追伸。ナイトオウルに魔宝石を増設したけど、彼の器には魔力が多すぎるから、適度に魔術を使わせるように。放置すると溢れた魔力が結晶化して、人形としての機能に支障が出る。

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