彷徨記
舞台は中世以前のどこか、ということで。
都より北方の山中へ行くと山村があった。この山村、田畑乏しく、隣村から食物を運び、又隣村へ材木を運んでいた。この山村はその運ぶ荷車が頻繁に賊に襲われることで有名であった。
ある年、新たな領主が任命される。この領主、一計を案じる。一つの運ぶ衆を囮とし、それを襲う賊を兵を以て一網打尽にするという策である。この策、見事成功する。
捕えられた賊の態は、痩せこけ、骨と皮のみではないかと思うほどであった。領主は賊の皆に食物を鱈腹与えた。
領主、捕えた首領を自らの部屋に招き言う。
「貴様の罪過は重大だ。貴様の所業により失われたものも少なくない。」
首領、領主の顔を確と見て言う。
「私は許されぬことはわかっている。されど、私の妻子や部下たちは――」
「許せと?」
領主の怒気を含む声にも首領は動じない。一呼吸おいて領主は更に言う。
「貴様らが貧しい家の出であることはわかる。貴様らが襲う荷車は常に貴族への貢物。それを売っては貧しい家に金を配る。」
領主は溜息を吐く。
「義賊のつもりかね?」
「…悪いか。」
首領は一瞬返事を迷った。領主の胸中を計りかねていた。死を覚悟して領主の部屋に入ったというのに、部屋には領主と首領の二人のみでその気配が一向にないのである。
「余程苦労したのだろう。貴様は自らの罪を悔いることができる者だ。さもなくば、先の様に返事を渋ったりせぬ。故に貴様に地位を与えよう。貴様の罪を償うことのできる地位を。」
領主が拍手をして合図をすると、部屋の奥から武装した侍従が厳かに出てきた。この時、首領は生かされたことを察し、又贖罪の機会を与えられたことへの感謝からその首を深々と下げた。
ある年、この首領は部下を率い荷車を襲う賊を捕えたと言う。その者は御三としてよく首領の妻子共々働いていた。
漢文によくありそうな話になってしまった。