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光のもとでⅠ 第六章 葛藤  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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28 Side Soju 01話

 たまきと研究室で昼食を食べているときのこと――。

 携帯が知らせる翠葉の脈拍が恐ろしく高い数値になっていた。

「蒼樹? 携帯見て何血相変えてるんだよ」

「い、いや……とくには別に……」

「あ、この間のかわいい子からお別れメールとか?」

 かわいい子、とは簾条さんのことを指しているのだろう。

「違うし……。簾条さんはあくまでも妹のクラスメイトであって、それ以上でもそれ以下でもないよ」

「なんだ、それなら俺モーションかけようかな? あの子よく梅香館利用してるんだよね」

「……それはよしませんかね、環くん」

 環は椅子を後ろへ傾け、絶妙なバランスでぶらぶらとしている。

「ふ~ん……やっぱり蒼樹はあの子が本命なわけだ」

 にやり、と意味深な笑みを向けられた。

 それ以前に、だ……。翠葉のこの数値はどう説明してくれようか……。

「だから、おまえさっきから何見てんのよ」

 ひょい、と携帯のディスプレイを覗き込まれる。

「何それ……」

「……翠葉――妹のバイタル」

「……はぁ? なんでそんなものが表示されんの?」

「……妹、ちょっと身体弱くてさ。秋斗先輩が作ってくれた装置なんだ」

「……先輩、相変らずあれこれ開発してるんだ? でも、率先してそういうのやる人じゃないでしょ?」

 そうなんだ。だから問題っていうか、助かってるっていうか、心配っていうか――。

 自分の心情ばらっばら……。誰かきれいにまとめてほしい。

「で? なんでそんな悩ましい顔してるんだよ」

「……昨日から、秋斗先輩と翠葉付き合い始めたんだ」

「はぁっ!? 年の差いくつだよっ。おまえ、よく許したなっ!?」

 環が言うこともわからなくはない。

 年の差は俺以上に離れているわけだから……。

 さらに環と先輩は生徒会を通して付き合いがある。

 その間に秋斗先輩の人となりは十分すぎるほどに理解しているだろう。

「おまえの妹が秋斗先輩に入れあげるのはわからなくもないけど、あの先輩がプライベートで人に関与するなんてまずないだろ?」

 そう言われても仕方がない。

 秋斗先輩は高校のときも大学のときも、それほど人と親しく付き合うことはなかったのだから。生徒会のメンバーに対してだってどこか一線を引いて接していた。だからこそ、「おまえの妹が入れあげるのはわかるけど」という言葉が出てくる。

「環……それ、若干逆なんだよね」

「何が? どこが逆?」

「……つまり、入れあげてるのは翠葉じゃなくて先輩のほうって意味」

 確かに翠葉だって先輩のことは好きだろう。

 でも、想いに重さがあるとしたら、先輩のほうに秤は傾くと思う。

「それ冗談?」

「いや、冗談じゃなくて……。先輩、本気みたいでさ。だから俺も牽制するのはやめたんだけど」

「……そら人様の妹ながらに俺が心配になってきた」

 それはありがたいようなありがたなくないような……。

「……環、この脈拍どう思う?」

 そこには明らかに上昇している血圧と脈拍が表示されていた。心なしか体温も少し上がっている。

「……よくわからないけど、血圧ってこんな低いっけ? 脈拍はすごいことになってるけど」

「あぁ、うちの妹、普段の血圧が上八十くらいなんだ。冬になれば九十近い数値をキープできるんだけど、今はもっと低い」

「……つまり、今はいつもよりも血圧の数値も脈拍も高いってこと?」

「そのとおり。しかも、翠葉、今秋斗先輩と一緒にいるんだよね……」

「……手、出されたんじゃね?」

 的確な指摘が入る。

「……やっぱそう思う?」

「……先輩も男だし、もしも本当におまえの妹が好きなら手くらい出すだろ」

 俺は大きなため息をついて机に突っ伏す。

「おまえ、相変わらず妹溺愛してんのな? どんだけかわいいんだよ。この間の……簾条さんだっけ? あの子とどっちがかわいい?」

 簾条さんと翠葉かぁ……。はっきりいってふたりはタイプが異なる。

「どんだけ美人なわけ? ……ま、おまえがその顔だしな」

「俺とはどうだろう? 目元が似てるとはよく言われるけど……」

 言いながらパソコンから画像を呼び出す。

 今まで誰にも見せたことがない翠葉の写真。

 葵が翠葉を知っていて環が知らないのはちょっと申し訳なく思ったから。

 俺と葵と環は高校からの友人だ。それは今も変わらない。

「ピンクのドレス着てるのが妹」

 ディスプレイを環に向けると、

「……めっちゃ美少女!? 秋斗先輩が本気になるのもわかる気がする。この子、あと数年したらすっごいきれいになるんじゃないっ!?」

 環はディスプレイに釘付けになり、ほかの写真をクリックしていく。

「笑った顔なんて殺人級……。おまえが今まで写真も何も見せてくれなかった理由はわかった気はするけど――シスコン。このシスコンシスコンシスコンっ」

 自覚してるし、連呼されたところで痛くも痒くもない。

 環から携帯のディスプレイに視線を移すと、数値がもとに戻っていた。それはもう、何事もなかったかのように。

「これこそあり得ない……」

 環が携帯のディスプレイに視線を移すと、

「おっ、普通に戻ったじゃん」

「いや……翠葉、秋斗先輩とふたりでいてこんなに平常心でいられるほど男に免疫ないから」

「……なるほど。それ、間違いなく秋斗先輩が何か仕掛けたんじゃね?」

「やっぱそう思う?」

「……システムに何か組み込むのなんて秋斗先輩にとっちゃ朝飯前だろ?」

 そうだよなぁ……。

「翠葉、大丈夫かな……」

 実のところ、今すぐにでも電話して確認したいくらいだ。でも、ふたりは付き合っているわけで……。

 過剰に俺が口を出すことじゃない。

 わかっていても心配なのはどうしてか――。

「蒼樹、携帯前に戸惑ってんの?」

 会話に入ってきたのは聖和きよかず。先日カフェで簾条さんに声をかけて断られた人間だ。

「みどりは? すいは? って女? なんなら俺が通話ボタン押してやろうか?」

「いや、いい……ショック受けたくないからやめておく」

 携帯をしまおうとしたら、

「何? 修羅場になりそうなん? 面白いからその話聞かせろよ!」

「いやさ、こいつの妹――」

 と、喋りかけた環の口を押さえる。そして、ノートパソコンはすぐさまディスプレイを閉じた。

 聖和に見られた日には紹介しろとうるさく言われるに決まっている。秋斗先輩よりも性質が悪い。

 今日の帰りは何がなんでも早く帰ろう――。

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