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光のもとでⅠ 第六章 葛藤  作者: 葉野りるは
本編
32/59

32話

 ゲストルームに着いてすごく助かったのは、

「秋斗先輩はあっち」

「秋斗さんしばらく立ち入り禁止」

 と、蒼兄と若槻さんが秋斗さんの入室を却下してくれたこと。

「ほぉ……人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られるって知ってるか?」

 秋斗さんは応戦する気満々だったけれど、それよりこっぴどく客間への入室を却下したのが蒼兄と若槻さんだった。

「で、今日の一時前頃、何があったのかな?」

 引きつり笑いで蒼兄に訊かれる。

 一時前――。

「あ……――えと……」

「「うん」」

 蒼兄と若槻さんがふたりしてベッドに乗り出してくる。

「……秋斗さんの家へ移動するとき、どうしても抱っこされるのが恥ずかしくて――秋斗さんがお部屋を片付けに行っている間に高崎さんに運んでもらってしまったの……」

 その一言で若槻さんがうな垂れた。

「ひーめー……そりゃ、あの人落ち込むっていうか怒るかも」

「……すごく怖かったです」

 蒼兄は額に手を当て、深いため息をつく。

「俺、先輩の本気の相手って見たことないからさ、こんなに嫉妬深いとは思いもしなかった」

「それは右に同じくですけど……。あの人、午後の時間を融通できるように、午前の仕事量半端ないから」

 仕事の内情を知る若槻さんが教えてくれる。

「……やっぱり、おうちで仕事をするよりも図書棟にいたほうがお仕事しやすいんですか?」

「いや、そうじゃなくて……。リィをかまいたいから午後の仕事を少なくするために午前に詰め込んでるの」

 喉に何かが詰まるような感じがした。

「でも、怒るっていっても怒鳴るような人じゃないでしょ?」

 若槻さんに聞かれてちょっと困った。

 ふたりは詰め寄るような体勢はすでに解いていて、あぐらをかきつつ話を聞いてくれる感じ。

 でも、お仕置きの内容を話すのはものすごく恥ずかしい。

「あの……あのね……。あの――」

 不思議そうな顔をしている蒼兄に対し、若槻さんはひとりため息をついた。

「リィ、いいよ。どうせキス攻めにされたかなんかでしょ? リィが相手ならそれが関の山」

 サラッと当てられてしまう。

 恥ずかしく思いながらも蒼兄の顔色をうかがう。と、

「翠葉……かわいそうなくらいに顔が真っ赤。それじゃ、『はい』って言ってるのと変わらない」

 言われてさらに顔が熱くなる。

「はぁ……あの人、禁欲生活始めてどのくらいなんだろう?」

「……俺が知る範囲だと五月半ばから、かな」

「なるほどね」

 全く話の中身が見えない。

「約一ヶ月か。意外と耐えてるじゃん」

 若槻さんは面白そうに口にしてラグの上に転がった。

「だって、俺にキス以上のことはしないって言った手前あるし」

 秋兄の言葉に絶句する。

「それ、冗談とかじゃなくて?」

 若槻さんがむくりと起き上がり笑みを消した顔で尋ねる。

 蒼兄は、「うんうん」と首を縦に振るけど――。

「それ、取り消させてくれる? って言われたのだけど、どうしよう――」

「「はあああっ!?」」

 ふたりはまたしてもベッドにガバリと乗り出してきた。

「どうしよう……。お付き合いするのって、怖いね……?」

「リィの場合は相手が悪い」

 即答する若槻さんに対し、蒼兄はひたすら苦い笑いを浮かべていた。

「でもね、私に合わせてくれるって言ってた……。それでもすごく怖い……」

 そう言って蒼兄に身を寄せると、蒼兄はいつもみたいに背中をゆっくりとさすってくれた。

 ベッドマットがギシリと音を立て、頭に若槻さんの手が伸びてきた。

 若槻さんに視線を移すとクスリと笑う。笑いながら頭を撫でてくれた。

「あーぁ……泣いちゃうくらいに怖いか」

 コクリと頷くと、

「そんなに怖いものでもないんだけど……。でも、やっぱ初めての女の子は怖いのかなぁ……」

 と、若槻さんは天井を仰ぎ見る。

「でもね、あの秋斗さんが我慢するほどにリィは想われているし、大切にされてるんだよ?」

「え……?」

「あの人、どうでもいい相手ならその場の雰囲気で手ぇ出すから」

 その言葉にさらに体を強張らせると、蒼兄に背中をポンポンと叩かれた。

「翠葉、こういう話を兄からするのもどうかと思うんだけど……。人間の三大欲求って知ってるか?」

「食べることと睡眠と――性欲」

「そう。で、先輩は取り分け性欲が突出してる人」

 蒼兄の言葉に若槻さんが吹き出した。

「あんちゃんわかり易すぎ」

 吹き出すだけでは足りないのか、ベッドの足もとに転がりお腹を抱えくつくつと笑っている。

「だからさ、その人が一ヶ月も我慢してるってすごいことだと思うんだ」

 そうは言ったけど、蒼兄は私から顔を背け小さく付け足す。「もっと我慢しろとは思うけど……」と。

「でも、怖いものは怖い……。普通にお話するだけじゃだめなの? 側にいるだけじゃだめなの?」

 訊くと、蒼兄は「うーん」と唸ってしまった。

「リィのは恋かもしれないけど、秋斗さんとはステージが違うんだよなぁ……」

「ステージ?」

 若槻さんの方へ向き直り訊いてみる。

「そう、ステージ。あのさ、リィのは小学生の恋。秋斗さんのは大人の恋。ね? いる場所が全然違うのわかるだろ?」

 わかる、わかるけど――。

「私、高校生です……」

 不服を口にすると、間をあけずにさくりと返される。

「恋愛偏差値の問題」

 なるほど……。私は恋愛偏差値なんてないに等しい。秋斗さんは――考えたくない……。

「私、やっぱり誰かとお付き合いするのは無理かも……」

「どうして?」

 若槻さんに顔を覗き込まれた。

「だって……許容量オーバーです。それに、同級生が相手だったとしても、私は小学生で相手は高校生なのでしょう? 到底そのレベルには及びません」

 それが正直な気持ちだった。

「でもさ、恋愛をしないとレベルアップはしないよ?」

 まるでゲームか何かのように話してくれる。

「それでも……怖いから、これ以上先には進めない」

 シーツの一点を見つめて答えると、蒼兄から声がかかった。

「翠葉、とりあえず深呼吸」

「……え?」

「身体、すごい力が入ってる」

 自分では意識してなかったけど、さっき一度身体に力が入ってからずっとそのままだったみたい。

 若槻さんに肩のあたりを触られてビク、とする。

「あ、ごめん……」

「ごめんなさいっ――なんか、ちょっと……ごめんなさい」

「ううん、いいよ。俺とあんちゃんは違うし……。それに、今は身体に触られること事体が怖いんじゃない?」

「……そうかも――でもっ、若槻さんが嫌いとかそういうことじゃなくて――」

 慌てて弁解すると、

「ありがと。でもって、秋斗さんのことも嫌いだから嫌なわけじゃなくて、怖かったり恥ずかしかったりするだけなんでしょ?」

 コクリと頷くと、ドアがノックされ開かれた。

 そこに立っていたのは司先輩。

 濡れ鼠はきれいなサラサラの黒髪に戻っていた。

「これ、なんの集会?」

 私たちは顔を見合わせ、「兄妹会議?」と声を揃える。

「あぁ、そう。じゃ、俺は邪魔ね」

 司先輩はすぐに部屋のドアを閉めた。

 そのあとの若槻さんの一言。

「彼、淡白だよね?」

 妙な空気に包まれた部屋が、司先輩の訪問により一転して笑いに包まれる。

 私、こうやって笑ってお話したいだけなんだけどな……。

 その先へ進まなくてはいけないのだろうか……。

 みんなは――桃華さんや飛鳥ちゃん、理美ちゃんに希和ちゃんはどうしているんだろう――。

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