橋間彰宏のとりとめのない日々4
マギダンに行くのはたいてい深夜、だけど遅くとも四時ぐらいにはうちに帰るから、ハイジんとこに泊まるって言い訳はできない。
そういうときはこっそり忍び出るのだ。
一応母さんが見に来たときのために、「今コンビニ行ってる。心配しないで」って紙をベッドの上に置いてるけど、うちの両親は眠りが深いので気づかれたことはない。マジで空き巣とか入り放題なんじゃないかという気がする。うちセコム入ってたっけ?
一方、マギダンの裏手はセキュリティ完備だ。暗証番号を押して戸を開けると、すでにチームの主要メンバーと験也さんが揃っていた。あとはXgeekの安井堅悟待ちだ。
「橋間の召集だから来たけど、Xギークってなんなの?」
三森の問いに、そういえばハイジしか知らなかったっけと気づく。
「あー、情報屋みたいな。それ以上のこともするけど」
「そうそう、リーダーの兵賀さんって人が凄いんだよねぇ。超チート人間で」
「チート? ずるい奴なの?」
三森が不正の匂いに反応すると、ハイジは苦笑して違う違うと首を振った。
「俗語だよぉ。反則なぐらい凄いってこと。あの人頭も良くて顔も良くてぇ、運動神経――はどうなんだろ、わかんないけど人望もあって――」
「橋間とハイジもそうでしょ」
「橋間はともかく俺はねぇ……まぁそう見せるのが上手いだけだよ。できるって言っても、平均よりは上って程度。兵賀さんは違う、飛び抜けてんの。――そうだなぁ、例えば」
ソファに寄りかかり、ハイジは周りを見渡した。
「俺たちがこうやって話してるのを、兵賀さんが近くで見てるとするでしょぉ。予備知識はなぁんもない。それでもあの人は俺たちの関係性とか過去とか自分でも意識してなかった感情とかを読みとることができる。兵賀さんにわからないことはないんだぁ。俺が知る限り神様に一番近い人間だよ」
ハイジの説明はかなり的確だった。三森は首を傾げているが、確かに兵賀は人間離れした能力の持ち主なのだ。あれで周りのことなんか知らんという性格なら楽だったのかもしれないが、なまじっか繊細に生まれついたばかりに色々苦労している。物事が見えすぎるってのも問題なんだよなぁ。
兵賀が善悪どちら側につく人間なのか見極めようとハイジに質問を繰り返す三森と違い、圷と遠藤は興味なさげにあらぬ方向を向いている。
圷は多分元々知ってたんだろうな。遠藤は、マジで興味ないっぽい。
「遠藤、久しぶり」
声をかけると、じっと俺を見つめ、黙って頷いた。
遠藤美木は、俺たちのチーム『神国』の中心メンバーの中では珍しく、わかりやすい不良ルックの強面だ。
逆立てた金髪に切れ長の釣り目、ドクロがプリントされたパーカーにだぼついたジーンズ。喧嘩の時には尖った犬歯を最大限有効活用し近づいた相手の肉を噛みちぎることから、「狂犬」というあだ名がついた。
でも普段はおとなしくてあんま喋んねぇ。邪魔にならないように隅っこで雑誌見てたり、ぼーっとしてたりする。最近はそもそもマギダンに来さえしなかったので、存在を忘れかけていた。
「お前、瀬田さんとこにいたのか?」
尋ねると、またこくりと頷く。顔は怖いけど仕草はなんとなく可愛い。
もうちょっと打ち解けたら弟みたいになんねーかなーと兄弟のいない俺はこっそりもくろんでいるのだが、遠藤は始めから瀬田さんラブなので難かしいだろう。
マギダンに来るのだって瀬田さんがそう命令したからなのだ。遠藤は基本的に瀬田さんしか見てない。それは瀬田さんが俺に遠藤を紹介した時、すぐにわかった。
初対面の時の遠藤はめっちゃ警戒してて人見知り半端なくて、俺もまだよく遠藤の性格わかってなかったからこいつ超キレてるこえーとか思ってたけど、今ならわかる。あれは多分怯えも入っていた。
「面倒見てあげて、橋間」
そう言うと、瀬田さんは遠藤を置いてそっけなく去っていった。
相変わらずクールな人だと思いながら遠藤を見やると、我慢するようにぎゅっと目を瞑っているのがなんだか気の毒になってしまって、その瞬間俺は、あぁ面倒見てやろう、と心に決めたのだった。
「お前甘いの好きだっけ。ジュース飲む?」
「……ん」
少しだけ嬉しそうにする遠藤に、これは餌付けいけるかもしれんと席を立って勝手にカウンターの奥の冷蔵庫を開ける。何故なら験也さんはハイジと三森の会話に加わっていてあてにできなかったのだ。
「Xギークなんて初めて聞いたな、最近できたのか?」
「最近っていつまでのことなんかわかんないですよ~。兵賀さん、最初は金取ってなかったし。今みたいな形――つまり会社みたいになったのは、一年前ぐらいかなぁ」
「へぇ。さっきの話聞いてると、相当凄い奴らしいな。一度会ってみたいもんだ」
「私も」
「事務所行けば会えますよぉ。依頼ないのに行く人あんまいないけど」
「性格悪いのか?」
「そうじゃなくてぇ」
ハイジはゆるりと笑う。
「だれだって全部見透かされるのは嫌でしょ」
験也さんはちょっとつまって、ちゃかすように言った。
「占い師にでもなればいいんじゃないか?」
「洒落になんないんですよね、それ。兵賀さんが言ったこと全部当たっちゃうから。だから兵賀さんは受ける依頼は選ぶんですよ。なるべく部下にやらせるし」
「そうなんだ。微妙だけど、悪い人じゃなさそうだね」
三森の中で蹴りがついたようだった。三森の判断基準は、『良い』か『悪い』かしかない。兵賀はとりあえず合格のようだ。
グラスについだオレンジジュースを遠藤の前に置くと、「ありがと」と所在なさげにお礼を言い、両手に持って飲みだした。
俺は適当にビールの缶を持ってくる。ほかの奴らの分はない。だってみんなもう酒飲んでるしな。遠藤の前にも酒っぽい液体が入ったグラスが置かれていたが、こいつは酒が飲めないのだ。
スプリングの効いたソファに沈みくつろいでいると、携帯が鳴った。
「こんばんはー。俺今裏口にいんだけど、どうすればいいです?」
安井だった。今開ける、と言ってローテーブルに置いてあったリモコンを操作する。
かしりと鳴る音で開錠を察したらしい、間髪入れず扉が開いた。
「わぁ、みんないるんだ。俺遅かった? ごめんねー」
そのまま古着系ファッション雑誌にでも載りそうな格好をした安井が入ってくる。すげー珍しい形のズボンだな……あれどういうつくりになってんだ。
「依頼人は橋間くんですよね。早速値段交渉だけど」
爽やかな笑顔で直球を投げてくる。
「三万でいい?」
「二万じゃ駄目か」
一応三万持ってきてはいるけど。
「え~、どうしよっかなぁ」
安井は考え込むように手を顎に当てた。
「お前眼鏡欲しいんだって? 今のやつ度が合わねぇの?」
「いや、ファッション。ロイド眼鏡ブームなんすよ俺の中で」
「ロイド?」
「丸眼鏡です」
「へぇ」
丸眼鏡なんて古くさいイメージだけどなぁ。お洒落好きの考えることはよくわかんねぇ。
ハイジがグラスを傾けながら、魅惑的な笑顔で言う。
「ならさぁ、俺の知り合いの眼鏡屋に言って三割り引きさせるよぉ。どぉかな?」
「のった」
ハイジのアシストで交渉はまとまり、安井はカウンター席に座った。
「兵賀さんじゃなくて悪いけど、ちゃんと調べてきたから安心してください」
黒縁眼鏡のフレームをくいっと押し上げ、安井は手早く資料をテーブルの上に並べた。
「今回の事件の発端は、賀藤組傘下で知能派ヤクザとして知られる堅桜会の幹部の愛人が、奈河川組傘下武闘派ヤクザの十亀組のチンピラに殺されたことにあるんですよ。痴情のもつれってやつですね。堅桜会としてはそりゃ黙っていられないわけですが、元々幹部はそんなに愛人に執着してはいなくてね、十亀組が詫び入れて、なんかの取引でちょっと譲るってところで話は収まったんです。ところが先日恵登くんが見つけた死体、これが十亀組長の奥さんのものだった」
「復讐?」
三森が聞く。
「でも幹部は怒ってなかったんでしょ」
「そうです。そこが不思議なところで。堅桜会にとってみれば『お詫び』のおかげでかえって得ができてラッキーって感じなんすよね。だから多分、十亀組長の奥さん殺害に堅桜会は関わってないと思うんですよ。まぁ先走った下っ端がって線もなくはないですが、それだったら堅桜会もすぐ犯人を差し出してるでしょうし」
安井は資料の一枚をひらひらと揺らした。十亀剛という名前の上に熊のようながっしりした男の写真があった。これは直に見たら相当怖いだろうなぁ。まぁ恵登を問い詰めたのは部下だろうけど。
「ここに聞き込み相手の名前と話の内容を書いときました。必要なら録音したものも渡します。さて、えぇと十亀組長の方は残念ながら愛妻家で知られていて、堅桜会との話し合いじゃ収まりがつかなかったようです。いま組長は烈火の如く怒り狂い、方々調べ回ってます。第一発見者である恵登くんのところに来るのは、まぁ道理ですよねぇ」
同情するように言い、安井は話を終えた。
「なるほどな、そういうことか」
験也さんはだいぶ軟化した態度で言う。
「ならしょうがねぇなぁ。疑って悪かった」
「ほんとだよぉ、俺らそんな悪さしてないもーん」
笑いながら言うハイジに、「なに言ってんの、悪いことなんて全然してないでしょ」と三森がかぶせる。
「あ、じゃあ俺これで仕事終わりっすかね」
「そうだな。資料もらっていいか?」
「もちろん、どうぞどうぞ。またなんかあったら声かけてくださーい」
にこやかに立ち上がる安井に、財布から一万円札を二枚出して渡す。今度会うときには丸眼鏡かけてんのかな。いや、すでに飽きててコンタクトにしてるかもしれない。
予想通りとはいえ、俺らに全く関係ない話で本当に良かった。
安井がマギダンから去ったので、解決したってほかの奴らにメールしなきゃ、と携帯を開いた時、近くでトン、と音がした。たいして大きい音でもなかったが、ちょうど誰も喋る者がいなくて静かだった空間に、妙に響く。
見ると、それまで空気のように振る舞ってひたすらちびちびと飲んでいた圷が、グラスをローテーブルに置いた音だったようだ。
「事件の背景が見えてよかったですね」
低く単調な声で言う。
突然圷が喋ったことに、みんなが驚いた顔をした。こいつは喧嘩もしないし、煙草も吸わないし酒も飲まないという、何故不良チームに属してるのか全然わからない地味な男だ。
一回も染めたことのないような黒い髪、おとなしそうで淡泊な顔、平均よりちょっと小柄な体型。どうしたってカツアゲはされる側であり、間違ってもする側には回れないだろう。
だからほとんどの奴は圷のことをパシリかなんかだと思ってる。チームの誰かにいいように使われてるんだろって。
でも俺にはとてもそうは見えなかった。
俺だって圷について詳しいことを知ってるわけじゃないけど、あいつが単なるいじめられっこじゃないことぐらいはわかる。
圷は、なんというか、異質だった。
言われたとおりジュースとかパンを大量に買ってきてみんなに配っているときさえ、ちっとも惨めには見えない。
こいつには何かどうしてもやりたいことがあって、そのためにはほかの全てどうだっていいのだ。感情の伺えない黒い瞳は、そんなことを感じさせた。
「験也さん、すみませんが恵登くんに会わせたい方がいます」
承諾を必要としない断定口調だった。
験也さんは顔をしかめる。
「誰だ? つーかなんでいきなり」
「その方が望まれたからです」
「だからその方ってなんだよ、気味悪ぃな」
「『神国』のトップ、瀬田百雨様です」
「……はぁ?」
験也さんは呆気にとられたように口を開けた。
「このチームのリーダーは橋間だろ」
「違います。確かに橋間くんは皆さんをまとめてらっしゃいますが、序列的な意味では瀬田様の方が上です」
「そうなのか?」
俺を振り返った験也さんに頷いてみせる。一年前、あの暗く苛烈な眼をした不思議な人と対峙したとき、俺は心から敗北を認めたのだ。この人に勝てることは一生涯ないと。
喧嘩で負けた訳じゃないから、別に悔しいとは思わなかったし追い抜いてやりたい気持ちもない。ただ、これからはこの人の言うこときかなくちゃなんないかなぁと漠然と思っただけだ。
でも予想に反して、俺を負かした後も瀬田さんは何か命令してくることはなく、接触と言えばたまに連絡をよこしたり遠藤を紹介したりぐらいのものだった。
そのあとハイジと三森も瀬田さんに従うことになったということで合流し、今の形になった。験也さんには世話になってるけどあんまりチームのことをちゃんと話したことはないから、俺がトップだと勘違いしたのも無理はない。チームの中でも知らない奴は大勢いる。
験也さんは深くため息をついた。
「知らなかったな……まぁどんな立場だろうと俺には関係ない。恵登はまだショックを受けてるんだ。わけのわかんねぇ奴に会わせるわけにはいかねぇな」
「そうですか。瀬田様の悲願に関わる大事な用件なのですが」
「俺には恵登の方が大事だ」
突っぱねるように言う。験也さんの眼光は徐々に鋭くなっていくが、圷はまったく怯まずにじっと見つめ返していた。
緊迫した空気が流れる。事情はわからないが、瀬田さんがらみの話で遠藤が何も言わないってことは、圷の言ってることは本当なんだろう。それだったら、験也さんと恵登には悪いけど我慢して貰うことになる。
験也さんはゆらりと立ち上がった。やばい、と俺はハイジに目配せをする。験也さんは実は結構短気だ。しかも昔とった杵柄とかでかなり強い。圷じゃとてもかなわないだろう。いざとなったら止めなきゃ、と俺も立ち上がりかけたそのとき。
「……あの、俺いいよ」
小さく少年らしい声がした。え、まさか。
声の方を見るとカウンターの陰からおずおずと恵登が出てくる。いつからいたんだお前。
「恵登! なんでお前――寝たはずじゃなかったのか!」
験也さんが慌てて駆け寄る。ごめんなさい、と謝る恵登に、三森が厳しく言った。
「立ち聞きしてたの? 駄目だよ」
「うん……」
「あと、ちゃんと寝ないと大きくなれないからね? 私たちはもう成長期終わったけど、恵登はこれからなんだから」
いや、俺たちもまだ終わってないぞ……多分。
しかし恵登は素直にしゅんとして、頭を下げた。
「ごめん……どうしても気になっちゃって。みんなが危ないことに巻き込まれてないか心配だったんだ。それでね、今……あの、誰か俺に会いたがってるって――」
言い淀んだのは圷の名前が思い出せなかったせいだろう。大丈夫、ハイジと三森だって覚えてるか怪しいもんだ。験也さんは確実に覚えてない。
影の薄い男・枳殻圷は、気にした様子もなく、はい、と答えた。
「瀬田百雨様が是非いらして欲しいとのことです。恵登君のご都合が悪ければこちらにいらしてくださるとまで仰っています」
「そっか。俺、知らないとこ行くの怖いから、できれば来てもらえると嬉しいんだけど……」
「恵登!」
験也さんが叫んだ。
「またそうやってあっさり……もうちょっと警戒心ってものを持て! いいか、お前、もしその瀬田って奴が来ても俺は追い返すからな!」
瀬田って奴、のところで遠藤がぴくりと耳を動かした。瀬田さんが悪く言われてるようで気になったんだろうな。これ以上験也さんがヒートアップしないといいけど。キれた遠藤を止めるのはなかなか大変だ。
「お好きになさってください」
圷は平然と言った。
「僕はただあの方のお望みをお伝えしただけです。あなたがどうなさるかは興味ありません。結局のところあの方がご自分の意志を通されないことなどないのですから」
どういうことだ、と眉をひそめる験也さんを尻目に、では僕はこれでと圷は飲み物の代金を置いてさっさと帰っていった。
あとには過去最高に不機嫌になってる験也さんと、ぽけっとしている恵登と、どう説明したものかと考えあぐねている俺たちだけが残される。
験也さんはカウンターに寄りかかり、不審気に尋ねてきた。
「……いったい何者なんだ、その瀬田って」
「俺たちもよく知らないんだよねぇ」
ハイジが肩をすくめる。
「知ってるのは顔と名前ぐらい……あと、『力』」
「力?」
「異能、かな。説明しようがないし、したって多分信じないから言わなぁい」
「なんだそりゃ」
ますます眉間のしわを深める験也さんに、急いでフォローを入れる。
「そんな悪い人じゃないですよ。圷も言ってたけど、心配してもしなくても結果は同じですからあんま気にしない方が」
「あくつってさっきのあいつか? あいつもわけわからん……なんなんだ最近の学生は。俺が高校生のときはもっと単純だったぞ」
あんななよっちいくせに妙に落ち着きやがって、と験也さんは渋い顔をする。
「まぁ恵登も大丈夫って言ってるんだし、気楽に待ちましょうよ」
「うん、俺平気だよ。その人がどんな怖くたって多分ヤクザよりはましだし! それに橋間たちの仲間なら悪い人じゃないって!」
恵登は右手でガッツポーズを作った。童顔なくせに一生懸命きりっとした顔を作ろうとしているのが微笑ましい。
験也さんを安心させようとしてんだろーな。二人は赤の他人なのに兄弟みたいに仲がいい。験也さんは恵登をすげぇ可愛がってるし、恵登は験也さんをめっちゃ慕ってる。
俺もなるべく二人を安心させてやりたいんだけど、瀬田さんはちょっと規格外な人だからなー。あの人がすることでなんか問題が起こっても、天災だと思って諦めるしかないっていうか。でもこんなの普通に説明したってわかってもらえねぇだろうし。
困ったな。
頭をかいて考え込んでいると、今まで黙っていた三森が口を開いた。
「験也さん、一回瀬田さんに会ってみればいいですよ。それで恵登に会わせるか決めればいいんじゃないですか?」
まっすぐ曇りのない強い瞳で験也さんをみつめる。三森のこの目線に耐えられる奴はあんまりいない。験也さんは嫌そうにしていたが、ついには折れて、そうだな、と言った。
「ただ俺が気に入らなくて追い返してもお前等文句言うんじゃねーぞ」
「言わないよぉ」
ハイジが笑う。
「そんなの験也さんの自由だもんねぇ」
「あぁ」
三森とハイジは、とりあえず今は瀬田さんの異様さを説明せずに常識的なことを言ってやり過ごすことにしたらしい。
まぁそれしかないよな。瀬田さんも兵賀と同じく、いやそれ以上に、会ってみないと凄さがわからない人だ。特別ガタイがいいわけでも美形なわけでもないんだけど妙に威圧感があって、圷みたいに平凡って感じはしない。見れば明らかに人の上に立つ人なんだってわかって――あれ?
なんだっけ……なんか言わなきゃいけないことがあったような……。『神国』のトップ……不良のトップ……
「あ」
俺は唐突に思い出した。
「そういえば今日さ、俺の名前、不良のトップと同じって話を友達から聞いたんだけど」
「げっ。マージーでー」
ハイジががくりと肩を落とした。
「だから通り名でも何でも作って本名出すなっつったのにぃ」
「俺、違う名前で呼ばれても多分わかんねぇしさ」
「お前はぁもー」
困ったように眉じりを下げているハイジを不思議そうに見て、三森は尋ねた。
「前から思ってたんだけど、どうして隠してんの? いいじゃん、別に悪いことしてるんじゃないし」
「喧嘩してるってだけで周りの印象は超悪くなんよ。橋間は普段好青年なぶん逆ジャイアン現象もありそうだしぃ」
「逆ジャイアン? えーと、普段いい人そうだからちょっと悪そうなことしただけで驚かれるってこと? そっか。確かに私たちのチームのことちゃんと知らない人からすれば、ただの不良だもんね」
いや、ちゃんと知っててもただの不良だと思うけどな。特に三森はやってることだけ見れば俺より不良っぽいだろ。
ハイジは少し考え、携帯を取り出しキーを打ち出した。
「こーいうのは、ほかの奴に話すなっつっても絶対どっかから漏れる。むしろ禁止すんのは逆効果だ。いらねぇ詮索招くかんな。だからフェイクの情報バラまいて、どれがホントかわかんなくする」
あぁ、なるほど。ハイジは女の子の知り合い山ほどいるもんな。女子の間ではあっという間に噂話が拡散する。
「『神国』の橋間のこと知ってる奴らには通用しなくても、学校での橋間しか知らないような一般人には十分だろー」
おおぉ。さすがハイジ。有能だ。
「ありがとなー。俺、一応もうちょっと気をつけるわ」
「そうしてくれ。つか一応かよ……」
呆れたように言うハイジに、わりぃなともう一度謝って、自分の中の危機感を上げようと学校で俺が不良ってバレた時のことを考えてみる。
遠巻きにされて、声かけただけでびくっとされて、先生に呼び出されたりして。うーん。実際そこまでなるかわかんねぇけど、まぁ可能性はある。そんなことになったらやっぱ悲しい。
喧嘩は楽しいから止めたくないが、学校での友達だって失いたくはない。ハイジの言うとおり、ちゃんと気をつけるべきだな.まぁもしバレちまったとしても手間さえかければ平田達を説得できる自信はあるけど、面倒はないに越したことはない。
しばらく暴れんの自粛しとこう。




