三森綾野の有意義な日々3
実行委員には、私と、もう一人ギャル系の明るい子が立候補してなった。中条姫。緩いウェーブがかかった髪をハニーブラウンに染め、つけまつげとマスカラ命とばかりのデカ目メイクを欠かさない。でも結構行事ごとは真面目にやる子だから、きっと学祭も頑張って盛り上げてくれるだろう。
姫と仲がいい子たちが「お前ができんのかよー」とかからかい半分にやじを飛ばしてくるのに対し、「できるよバカにすんなしー!」と頬を膨らませているのが可愛い。
「姫、手先器用だから飾り付けとか作るの上手いんじゃない? 一緒に頑張ろーね!」
手を取ってにっこり微笑んだら、「うわーんみもりんわかってくれるー!」と抱きつかれた。
あ、良い香り。香水かな? そういえば私も、前の誕生日にお父さんに高いの貰ったんだった。大事にしまいこんでたけど、たまには使ってみるかな。
先生が私たちを教卓の前に呼び寄せ、うぅんと唸る。
「もう一人ぐらい欲しいところだな。まぁ三森がいるなら大丈夫か? 大変な仕事だが、やりがいはあるぞ。しっかり頼む。中条、お前は宿題も忘れないように」
「はぁい」
姫は神妙に返事した。
「鈴木、お前は去年実行委員だったよな。いろいろ教えてやれ。じゃあ実行委員は決まったとして、あとは肝心の出し物だな。もちろん兼ね合いがあるから希望通りとはいかないが、みんなで意見を出し合ってくれ」
出し物かぁ。何がいいだろ。真理子達とも話したけど、やっぱり飲食店系が定番だよね。でもやるとしたらちょっと変わったものっていうか、みんなが驚くような工夫があるといいな。
自分でも考えを巡らせながら、姫と一緒に教壇に立って進行役をする。
みんな悩んでるようだったけど、お化け屋敷、コスプレ喫茶、射的、焼きそば屋台と、最終的に十以上の提案が出て、ホームルームは終わった。
わくわくした気持ちのまま解散となり、部活に向かう。一応バレー部のエースなのだ。強豪校との練習試合が近いから、みんな気合が入ってる。私もチームに貢献できるように頑張らなくちゃ!
部活に熱中してるとあっという間に時間がたつ。気づいたら七時を過ぎていた。
特に仲良くしてる、ボーイッシュなショートカット少女のなみちゃんと自転車置き場に向かいながら、部活の興奮冷めやらぬままに会話する。
「三森、最後のスパイク凄かったよー!」
「なみちゃんもレシーブ上手くなってた! 試合、絶対勝とうね!」
「うん! あ、三森電車だっけ。遠くて大変だね。なんか最近危ないみたいだから気をつけてね。三森可愛いから心配だよ~」
「私は鍛えてるから大丈夫。なみちゃんこそ、家が近いからって油断しちゃだめだよ、なみちゃんに何かあったら私泣くからね!」
「あはは、うん、気をつける。じゃあまた明日ね」
「うん、また明日」
手を振って別れる。マフラーにうずめたなみちゃんの鼻の頭がうっすら赤く染まっていて、もうすぐ冬だなぁと思った。
まっすぐ家に帰り、作り置きしておいた夕食を食べてから、動きやすい服に着替えてマギダンに向かう。
昨日はミニスカだったけど今日はスキニーのジーンズだ。転んだ時ジーンズだったら膝にかすり傷作らなかったかもなーと反省したので、これからしばらくはジーンズにすることにしたのた。
いくらスパッツはいてるとは言えスカートは若干心許ない。でも可愛さに負けてちょくちょく着ちゃってたんだよね。せめて抗争の時は止めとこう。
前回マギダンに集まってからまだそんなたってないのに、なんで召集かけたかというと、ノヴァヘッジ討伐の報告をしたかったからだ。別にわざわざ会ってまで知らせるようなことじゃないんだけど、最近不穏なことが続いてるし、たまにはみんなで楽しい気分になって飲めたらいいなって。
幸い験也さんの許可も下りた。最近験也さんは瀬田さんのことで不機嫌になってたから微妙かなって思ったんだけど、元気を取り戻した恵登が口添えしてくれたみたいだ。それに験也さんは、本人いわく「若かったころやんちゃしてた」らしく、私達が着々とこの辺りを掌握しつつあるのをおもしろがってるような節がある。
ってことで、主要メンバーにはメールで召集をかけた。
遠藤以外はみんな、行くよって返事してくれた。マギダンはそんなに広くないから、下位メンバーまで集めるわけにはいかないけど、ノヴァ制圧で頑張ってくれた子たちとはまた別の店で祝杯をあげよっかな。
厚手のカーディガンを羽織って、かっちりした黒のブーツを履く。歩きなれた道は夜でも間違えたりしない。しんとした通りを抜け、マギダンの裏手に回――
「ええぇ?」
な、なんでこの人がここに。
マギダンの裏口は、目立たせないために暗くなっても灯りを灯さない。だから本当に傍まで近づかないと気づかなかったのだが、そこにはふんわりシフォンのワンピースをひらめかせた栗毛美少女と、ゴス系メイクにパンク系の黒っぽい格好をした黒髪美少女が立っていた。
黒髪の子は知らないけど栗毛さんは、もしかしなくても涙夜さん……!
「あ、三森ちゃん! 久しぶりだね~」
また会えて嬉しいなぁ、と邪気のない笑顔で涙夜さんは言う。
「アキくんいるかな?」
アキくん? あ、橋間のことか。
「いや私も今来たばっかなんで」
「あ、ごめんね。私たち入るの邪魔しちゃってる。どうぞどうぞ~」
ドアの前からどいて、涙夜さんはにこやかに私を見る。えーと、開けたらこの人達も入れないわけにいかないんだろうな……いいのかな、涙夜さんお嬢さんっぽいのに。
ていうかなんで来たんだろう。橋間に会いに? だよね。こないだ会ったとき言ってた「アキくんのやんちゃなとこが知りたい」ってヤツか。どうしよ。『神国』に関わると敵対勢力に狙われるかもですよって言っとくべきかな。……まぁいいや、橋間がなんとかするよね。キーを打ち込んで中に入ると、橋間とハイジがすでにくつろいでいた。私の後ろに続く二人の女の子を見て驚いたように立ち上がる。
「え、涙夜?」
「えへ、来ちゃった。ごめんね、アキくん」
涙夜さんは可愛くはにかむ。それと対照的に、黒髪の子は全く笑わず少しだけ頭を下げた。
「俺涙夜にここの場所教えたっけ……こーいうとこ来ると、おばさんが心配するぞ」
「アキくんがいるから大丈夫でしょ? 真夜中まではいるつもりないよ。迷惑なら帰るし」
確かに今はまだ深夜じゃない。九時ぐらいだから、人によってはまだ塾に通ったりしてる。だけど外はとっくに真っ暗になってるし、涙夜さんは私と違って護身術を身につけてるわけでもなさそうだ。問題がないとは言えない。
橋間は不思議そうに首を傾げた。
「前から思ってたんだけど、なんでお前はここに来たがってたんだ? 酒飲みたいわけじゃねぇんだろ?」
「お酒は二十歳になってから。そうじゃなくて、アキくんの違う一面を見てみたかったんだけど……あんまり変わらないねぇ」
涙夜さんは残念そうに言う。そしてはっと後ろを振り返り、居心地悪げに立っていた黒髪の子を紹介しだした。
「あのね、この子花菱恋華ちゃんていうんだって。私の二個下なの。前にアキくんに痴漢から助けてもらったらしいよ。この店の前で会ったから、じゃあ一緒に入れてもらおっかって話してたの」
おぉ、痴漢から救出。さすが橋間。知らないうちにかっこいいことしてるなぁ。
二個下ってことは、恋華ちゃんは中学生か。よく見れば確かに幼い顔をしている――ような気もするけど、キツめの化粧でよくわからなかった。でも性格は悪くないんだと思う。涙夜さんのフレンドリーさに、どうすればいいのか戸惑ってる感じだ。
「へぇ、橋間またモテてんだぁ。羨ましーねぇ」
からかうような口調でソファに寝そべってるハイジが言った。黒いライダースが腹立つほど似合っている。
ハイジ――桐津羽衣児は、私と橋間が通ってる高校よりも一つ上のランクの進学校で生徒会書記なんかやってる優等生だ。
成績はもちろん良く、明るく人気者、教師からも信頼されていて、生徒会には推薦されて入ったらしい。推薦入試とか就職のとき有利そうだから引き受けたけど、責任のある会長は絶対やらないといつだったか宣言していた。
うちのメンバーの中では多分ハイジが一番裏表が激しい。悪いことしてるわけじゃないから私とやりあうことはないけど、お互いあまり関わらないようにしてる。
そういえば験也さん見えないな、とカウンターを覗いていたら、「今表にいる」って橋間が教えてくれた。正規の店のほうか。験也さんがこの場にいたら涙夜さんに何か言うだろうに珍しいな、と思ったのだ。いないなら何も言いようがない。
涙夜さんは橋間を見に来たと言ったわりには早々に橋間の傍から離れ、私に話しかけてきた。
「綾乃ちゃん、お話しよっ。前は時間がなくてあんまり話せなかったから、また会いたいって思ってたんだ」
「そ、そうですね。私も、涙夜さん素敵な人だなって思ってました」
「え、ほんと? わーい、ありがと~。私も綾乃ちゃん可愛くて好き!」
至近距離でくらう美少女の微笑みは、大層な破壊力だった。
この女の子らしくかつ嫌みのないふわーとした風情、女子なら誰もが憧れるだろう。こんな人に好かれてるのに嬉しげな風でもない橋間ってなんなんだろう。
「私ねー、三森ちゃんとは絶対気があうって思ってたの! 前に会った時、イフラムのワンピース着てたでしょ? あれ私も凄く好きなんだ」
「あ、いいですよね。可愛いけど着やすくて」
「ねー。あとは、そうだなぁ、牧野ヨウとか聴く?」
涙夜さんは今流行ってるR&B系の歌手の名前を挙げた。
「いや、私どっちかというとロック系とか」
「わ、かっこいいね! アキくんもロックの方が聞くって言ってたな。オススメあったら教えて~。私マリア・リーンぐらいしか知らないの」
「ああ、可愛いですよね、マリア。ロックっていうかカントリーですけど。今はシャイスってバンドの曲よく聞いてます」
へぇー、と感心したように言った涙夜さんは、鞄から取り出した可愛い手帳に私が教えたバンドの名前を書きつけた。しばらく、好きな作家とかよく行くお店とかのとりとめもない話をして、私が、涙夜さんって何のためにマギダンに来たんだっけとわからなくなりだした頃、涙夜さんはさらっと聞いてきた。
「そういえば、綾野ちゃんって、アキくんのことどう思ってるの?」
少し不安げに、窺うように私を見上げる。
あ、もしかして私、橋間狙いだと思われてる? うわ、めんどくさ。
「普通に友達ですよ。私今まで好きな人とかできたことないし」
「えっ、そうなんだー。なんか意外、綾野ちゃんそんなに可愛いのに。モテるでしょ?」
自分の方がよっぽどモテそうな顔をしていながらそんなことを言う。涙夜さんの全方位好感度MAXぶりときたら完璧である。
「まぁ……少しは」
私は端的に答えた。嘘は嫌いだ。
「でもしょうがないですよね、好きになってくれるのは嬉しいけど、こっちも好きじゃなければつきあっても申し訳ないので。涙夜さんは橋間が好きなんですよね?」
聞くと、涙夜さんは驚いたように目を見開き、しかしすぐにえへへーと照れくさそうに笑って上目遣いで私を見た。うっ。可愛い。
「……わかる?」
「凄くわかりやすいです」
断言すると、やだぁと頬を染め、品よく手を口元に当てた。
「なんか、駄目だね私、恥ずかしいなぁ。ね、じゃあバレちゃったついでに、綾野ちゃん協力してくれないかなぁ? あ、もちろん無理にとは言わないけど。ていうか、そういうの抜きにしても私綾野ちゃんと友達になりたいの。それと、気になってたんだけど、高二、だよね? 同い年なんだし、敬語とかやめよ?」
「そ、うだ、ね」
随分とぎこちない返事になってしまった。お姉さんぽいから年上かと思ってたけど、同い年だったのか。
「ありがとぉ。今日はいきなりお邪魔しちゃってごめんね。実は、アキくんが危ないことやってるんじゃないかってちょっと心配だったの。でも思ってたより落ち着いたお店だし、綾乃ちゃんがいるなら安心だよね。もうここには来ないけど、綾乃ちゃんとはまた会いたいな。あ、メアド交換してくれる?」
断る理由もなかったのでお互いに赤外線で携帯のプロフィールを送りあう。
その後少しだけハイジともあたりさわりない会話をした涙夜さんは、十時ごろに恋華ちゃんと共に橋間に送られて帰って行った。
うーん、なんか……善良かつ魅力的な人なんだけど、妙に違和感があるような……? 性格を偽ってるふうには見えない。でもなんというか、話してるとちょっと疲れる。そんな変な会話してたわけじゃないのに、と考えて、はっと気づいた。あの人何回「アキくん」って言った? やたらめったら聞いた気がする。不自然じゃない程度に、絶妙に会話に織り交ぜてきてた。やっぱり橋間のこと凄く好きなんだなぁ。私は恋愛事とか興味ないから無意識のうちにうんざりしてたのかも。ごめんね涙夜さん。
それにしても長年の幼なじみ(美少女)とドラマチックな出会い方をした中学生(美少女)に迫られてるっていうのに、恋愛イベントを総スルーする橋間はなんなんだろう。
私は、自分が誰ともつきあいたくないとか言ってるのを棚に上げて橋間を責めるつもりはない。だけどつきあわないならつきあわないで、もっとこうはっきり断ってもいいんじゃないかな。それともマジで気づいてないんだろうか。
恋華ちゃんは感情を表さない性質なのか、あんまりあからさまな表情はしてなかったけど、橋間の近くにいて離れなかった。なにせ彼女にとって橋間は痴漢から助けてくれたかっこいい男の人なわけだし、そりゃ好きになっちゃうのも無理はない。
橋間彰浩は、天然の人たらしだ。
本人も無意識のうちに相手のツボをつく言動をして、いつのまにかどんどんファンを増やしている。あの掴みどころのないハイジさえ橋間には懐いてるみたいだし、無愛想な遠藤も橋間の前だと少し雰囲気が和らぐ。
私だって橋間の器の大きさというか、懐の深さには感心することが多い。頼りがいがあるように見えるので、男女問わず惹かれる人が多いのはよくわかる。
うちのチーム最強は瀬田さんだけど、まとめるのはやっぱり橋間じゃなくちゃだめだ。瀬田さんがあまり表に出てこないっていうのは、そのことをわかってるからなのかもしれない。
橋間、私、ハイジが瀬田さんに勧誘されて『神国』に入ったのはだいたい一年ぐらい前のことだ。それなのに、いまだもって瀬田さんの正体は誰も知らない。下っ端は姿すら見たことがない、てゆーか多分橋間がトップだと思ってる。桐津はあの人には深入りしたくないって言うし、遠藤は遠藤自体が正体不明だし、私はちょっと苦手なんで避けてる。
唯一、よくパシられてるおとなしそうな――なんだっけ、ダサオって呼ばれてる前髪長い子だけは結構瀬田さんと絡んでるみたいだけど、一度「瀬田さんって何者なの」って聞いたら即座に「あの方は神です」とだけ答えて恍惚とした表情で虚空を見つめだしたので、それ以来話しかけたことはない。キモいっての。新興宗教の教祖様か。
でもまぁ、あの人ならマジで教祖になってもおかしくない。澱んで底の見えない目。感情の欠落した顔。そしてあの……不思議な力。
どうやってあんなことができたのか、今でもわからない。手品? 催眠術? でもそんなはずはないって、自分が一番よくわかってる。
私が一番望む、圧倒的な力。有無を言わせぬ『絶対』。あの人が進む道が正しければいいんだけど。もし悪の道を歩むとしたら、とてつもなく恐ろしいことになる。
幸い今のところそういう兆候はない。あんまりあれこれ命令してくるような人じゃないし――問題といえばこのあいだ、恵登死体発見事件の関係で、験也さんと仲が悪くなったりしたぐらいのものだ。
橋間からちらっと聞いた限りでは瀬田さんそんなに悪いことをしたとは思えないんだけど、験也さん恵登に関しては過保護だからなぁ。
まぁ恵登可愛いし、結構繊細だから守ってあげなくちゃって思うのはわかるけどね。
「みもりーん、ノヴァ潰したってマジぃ?」
ぐでんとソファの背に寄り掛かってるハイジが、赤い顔を後ろに反らして私と目を合わせた。
「その呼び方やめて。マジだよ。私あんま活躍できなかったけど」
「え~、俺が聞いた話だとぉ、副総長の顔がぐっちゃぐちゃになってたってぇ」
「それは私」
「やっぱなぁ……」
はは、とハイジは酔っ払い特有のへらっとした笑みを浮かべグラスをあおった。
「もう止めれば。言っとくけど私、自業自得な奴の介抱はしないから」
「辛辣ぅ。まだへーきだよぅ」
酔っ払いの言いそうなことだ。ボトルを取り上げてやろうかと一歩踏み出した時、がちゃりと後ろのドアが開いた。
「橋間、戻ったんだ」
「あぁ、まだ三森の話聞いてなかったからな。ノヴァに勝ったんだろ?」
「電話でもよかったのに」
「まぁせっかくだからさ。涙夜が邪魔しちゃって悪かったな」
「いいよ、別に。もう来ないって言ってたから、抗争に巻き込んじゃうこともないでしょ」
あんなに無防備な人が襲われでもしたらひとたまりもない。私がなるべくみんなに恋人とか連れて来て欲しくないのは、恋愛のごたごたを避けたいのはもちろんだけど、危ないからなのだ。抗争が続いてるうちは、敵に弱みを見せない方がいい。
「ただ、涙夜さんいい人なんだけど、なんでか友達になれそうな感じがしないんだよねー」
なんでだろ、と首を傾げていると、橋間はお前にしちゃそーいうの珍しいなぁと笑った。
「善良であればあるほどお前のタイプだろ。ま、涙夜とお前の価値観まるっきり違うからな。あいつは物事をぼかすのが上手い。白黒はっきりつけたがるお前が受け入れらんねぇのも無理ねぇよ」
――あぁ、なるほど。そういうことか。橋間の言葉を聞いて、やっとすっきり腑に落ちた。
涙夜さんって「悪いことしてもおんなじ人間なんだから許しあわなくちゃ」って言いそうなタイプなのだ。善良な性格だから守る対象ではあるけど、私とは絶対に相容れない。
「でもさ、三森。良いものと悪いものを分けるのって、お前が思ってる以上に難しいことなんだぜ?」
「……そうかな?」
「あぁ」
そのうちわかるさ、と橋間は微笑む。私にとって世界はこの上なく明瞭なんだけどな。橋間の見ている世界は違うんだろうか。白でも黒でもない世界には、何があるんだろう。
正義か悪か以外に大切な基準なんて、この世には存在しないのに。




