ある晴れた日の午後。
久しぶり、あんまり会いに来れなくてごめんね。最近仕事が忙しくて時間がなくて。
やっと軌道に乗り出したってとこかな、仕事も。
昔はあんなに社員でひーひー言ってたっていうのにね、今じゃ僕が会社作って自分でやってるだなんて、笑えるくらいの転職だよね。あの頃は毎日君にダメだ僕なんてって愚痴ってさ。
そういうたびに、人のせいにして逃げようとしないで、全部自分のせいにして凹むのは感心だって笑って話を聞いてくれたよね、懐かしいなぁ、本当。
そんな柔い性格だから、自分で何かを始めたことが功をなしたのかもしれないけどさ。
・・・あの部屋も引っ越したんだ。弟が今、部屋使ってくれてる。仕事場も遠くなったっていうのもあるからさ。ずいぶん一緒に住んだ部屋だったからちょっと寂しかったけどね。
こないだ、君からの手紙が届いたよ。
見た。ちゃんと。
ラブレターとかいつの時代だよってツッコみたかったけどね。君らしいかもしれない。
高校の時から手紙をしょっちゅう投げてきてさ、男友達はにやにやするわ、女子はきゃーきゃー言うわで面倒だったからね、本当。
変に美人だったからな、君は。中身は子供なのに雰囲気は大人びてたし。
友達にも羨ましがられてたよ、よく。
昔みたいなまるっこい字でさ。手紙にいろんなこと書いてたよね。
色々、本当に思い出した。楽しかったことばっかりだった。君がきっと優しくしてくれたから。
でも、最後のお願いの答えはNo。
それには答えられない。
「私のことを忘れてください。幸せになってください」
僕は一生君を忘れない。だって、人生で一番幸せな思い出だからだよ。
幸せは君といた時間だけで十分だから。
・・・そろそろ、行くね。少ししか居られなくてごめんね。また来るよ。
「社長、どこ行ってたんですか?」
「秘密。大切な人に会いに、かな」
「もぉ、ずっと独り身な癖に。しかもスーツに線香の匂い付いてますよ?これから取引先と会うっていうのに」
「気にしない。って言うとまたあいつに怒られそうか」
嬉しそうな顔をしながら、彼はジャケットを脱いだ。