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図書館の栗鼠  作者: 我夢
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きっかけ

初投稿です。駄文ですいません。

 ここは物静かな図書館。


 僕は別段本が好きだという訳ではない。寧ろそんなに本を読まない方だと思う。活字はそんなに得意じゃない。

 しかも、今は夏休み真っ最中だ。普通の学生なら青春を謳歌しているだろうが、僕は謳歌するほどの青春環境を持ち合わせていない。

 しかし、僕は夏休みがはじめって以来、毎日この図書館にお天道様に皮膚をじりじり焼かれながらも、惜しげもなく通っている。

 何故そんなことをするかと問われたら、理由はただ一つ。ある少女に会うためだ。


 

 彼女に出会ったのもこの図書館だった。

 ここは街外れの小さな市立図書館。この図書館の利用者はほとんどいない。以前はここはもっと栄えていた。図書館というのはいつの時代も夏休みの学生の避暑地である。元々この市にはこの図書館しかなかった。だけど、つい2年前あたりにに大きな県立図書館ができたのだ。市街地にあるということでその利便さから皆、県立図書館に移行していった。それに伴って市立図書館の利用者は衰退していって今に至る。


 僕が彼女に出会った時のことを話そう。

 僕は友達がとても少なかった。昔から身体が弱くてあまり学校に行けなかったから、人とどう接していいかわからないのだ。そうして僕は小学校、中学校を卒業していき、人づきあいが苦手なまま高校に入った。友達がいなかった僕は、やることも無いので四六時中勉強していた。友達がいないような僕みたいな根暗は馬鹿じゃいけない、そんなような気もしていたから。友達がいなくて、勉強もできないじゃ最悪だろ。それ故、高校は公立のそこそこ名のある共学校に進学できた。でも、高校に入学したからといって人づきあいが急に克服できるというわけでもなく、高校でも根暗なまま、クラスという集合体から浮遊していた。そのまま時が過ぎ、気付いた時はもう入学して4ヶ月が経とうとしていた。7月も中盤。もうじき夏休みだ。今までの夏休みは僕にとって苦痛でしかなかった。課される宿題は大抵7月中に終わり、8月頃は本当に何もすることがなくなる。毎週日曜の夕方に放映している国民的アニメに登場する少年の、夏休み最終日になって血眼になって宿題をするというあのイベントに対し、羨望すら抱くくらいだ。僕は予期した。今年の夏も変わらない、また同じ苦痛が僕を襲うのだと。そうして、僕の夏休みが始まった。


 だが、その予期した未来を大いに改変する出来事が起きた。


 七月二十三日、夏休み三日目の午前中。僕は自分の部屋で毎度のごとく学校の課題に勤しんでいた。もちろんだが、勉強ばかりしているからって勉強が好きなわけではない。勉強が好きな学生なんているもんか。ここまでの流れは至って例年通り。この後、アノ本を見つけるまでは。

 

 

 その日の正午。僕は夏休み三日目にして課題の2/3を終わらせてしまっていた。物事において、ものおぼえと要領はいい方だと自負している。猫背態勢で課題に取り組んだせいでで身体が痛い。僕は椅子から立ち上がり、大きく身体を伸ばした。伸ばすとともにパキポキ音が鳴るのがとてつもなく快感である。僕が身体を伸ばした時に聞こえた音は、骨の関節内の圧力変化で潤滑液に気泡が発生しそれがはじける音だけでなく、何かが物理的に落ちる音も聞こえた。それは本棚から本が落ちた音のようだ。伸びた際、本棚に手がぶつかって落ちたらしい。僕は落ちた本をゆっくりと拾う。その本をよくみてみると僕の本棚の住人ではなかった。

 表紙に《図書館の森》と書かれた本。 裏表紙の背表紙をめくってみると、図書館の貸出カードが挟まっていた。名前欄には誰の名前も書いていない。今の時代の図書館のほとんどは、バーコードで本を管理している。未だに貸出カードを使って管理しているとなるとかなり古い図書館の本だろうか。貸出カードの名前欄の上に“八月朔日市立図書館”と書かれていた。八月朔日市とは、「ほづみし」と読み僕が住んでいる市の名前である。初めてここを訪れた人は大抵読めない。八月朔日市には図書館が二つある。一つは大きな県立図書館で、もう一つは小さな市立図書館。この八月朔日市立図書館とは、たぶんその小さな図書館のことなんだろう。正直のところ、僕はその市立図書館にいったことがない。県立の方は出来た当時一回行ってみたが、学生の多さに驚愕して圧倒されて何もできずに帰ってきた。そう考えるとそれ以降、僕は図書館に行ったことが無かった。何故こんな本が僕の部屋にあるのだろう。まぁいいや、と貸出カードを本に戻そうとした時、ふとカードの端の文字が目に入った。そこには手書きで、「忘れないで」と書いてあった。丸く小さい文字。女の子が書いたのだろうか。その文字を見ていると、何か大事なことを思い出しそうになる。昔、何か大切な約束をしたような気がする。でも、思い出せない。こみあげてくる何かは、自分の口あたりまで登ってきているのだけれど、どうしても頭まで届かない。このむしゃくしゃする感じ。心のささくれを取れない歯がゆさ。


 ――――自分でも気付かない間に、僕の足は市立図書館へ向かっていた。

 

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