第1話 明日から本気出す
俺の名前は高橋 直人。
ニートである。
いや、厳密に言えば数日前までは社会人として二ヶ月間働いていた。
大学を卒業し、晴れて社会人としての仲間入りを4月に果たした俺は、これから始まる輝かしい人生に胸を躍らせていた。
エンジニアの就職先が決まったときは、家族も喜んでくれた。
まぁ、友達は誰もいなかったが……
これで俺も立派な大人の仲間入りだ。
毎朝スーツを着て出勤し、仕事を覚え、給料をもらい、休日には趣味を楽しむ。
そんな、ごく普通の社会人生活を送るはずだった。
……だったのだが。
現実は、俺の想像を遥かに超えていた。
週五日、夜勤。
それが俺の新卒社会人生活だった。
昼に出勤し、朝に帰宅する。
寝て起きれば、また出勤。
15時に出勤し、翌朝9時に退勤する。
拘束時間は18時間。
食事休憩と仮眠休憩をそれぞれ1時間取るため、実働16時間。
それを週5日。
帰宅して寝れば、あっという間に次の出勤時間がやってくる。
そんな地獄の中を過ごし、休日は疲労の回復に費やされ、気がつけば次の出勤日がやってくる。
次第に、太陽の光を浴びる機会は減り、曜日の感覚は徐々に失われていった。
そして、入社から二ヶ月。
「こんな仕事やってられるか!!!!!!!!!」
俺は退職した。
別に仕事ができなかったわけではない。
いや、できたかどうかを判断されるほど長く働いていないのだが。
とにかく、このまま続けていたら心身ともに壊れる。
そう判断した俺は、会社を辞めた。
退職する際にも、「責任感はないのか!?」「人としてどうなの!?」と散々罵倒された。
いや、知らんがな。
こっちは人としての尊厳より先に、睡眠時間を確保したいんだよ。
そして、退職した日の帰り道、俺は不思議と晴れやかな気分だった。
これでようやく解放された。
明日からは自由だ。
ゆっくり休んで、次の仕事を探せばいい。
まだ二十二歳。人生はこれからだ。
そう考えていた。
……それから数日が経過した。
午前十一時三十七分。
俺は自室のベッドの上で、スマートフォンを片手に天井を見つめていた。
カーテンは閉じたまま。
床には脱ぎ捨てた服。
机の上には、いつ買ったのかも思い出せない空き缶。
そして、俺の頭の中には、ひとつの重大な問題が浮かんでいた。
――今日、何をしよう。
退職直後は、やりたいことがたくさんあった。
積んでいたゲームを遊ぶ。
気になっていたアニメを見る。
部屋の掃除をする。
しかし、いざ自由な時間を手に入れてみると、驚くほど何もする気が起きなかった。
ゲームを起動するのも面倒。
アニメを見るのも面倒。
部屋の掃除に至っては、もはや考えるだけで疲れる。
結局、俺はスマートフォンを操作しながら、意味もなく時間を浪費していた。
「……まあ、まだ退職して数日だしな」
誰に向けたわけでもない言い訳を口にする。
そうだ。今は休養期間だ。
二ヶ月間も頑張ったのだから、少しくらい休んでもいい。
これはサボりではない。
次の人生に向けた準備期間なのだ。
……我ながら、便利な言葉を思いついたものだ。
俺は満足げにうなずき、再びスマートフォンに目を落とした。
画面には、求人サイトの広告が表示されていた。
『未経験歓迎! 新しいキャリアを始めよう!』
「…………」
俺は無言で広告を閉じた。
今じゃない。
そう、今じゃないのだ。
もう少し休んでから。
生活リズムを整えてから。
気持ちが前向きになってから。
そうやって先延ばしにしているうちに、気がつけば一日が終わっている。
そして明日も、きっと同じことを考えるのだろう。
――俺は、この先どうなるんだろう。
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
だが、答えは出ない。
出ないものは仕方がない。
「……昼飯、どうするかな」
ベッドから起き上がった直人は、財布を確認する。
財布の中には数千円しか入っていない。
銀行口座には、最後の給料が入る予定。
「……まあ、しばらくは大丈夫だろ」
根拠のない自信を持ってコンビニへ向かう。
久しぶりに昼間の外を歩き、平日の昼間から働いている人たちを見かける。
スーツ姿のサラリーマン。
工事現場で働く人。
自転車で配達をしている人。
それを見た直人は、ふと思う。
「……みんな、よく働くよな」
感心する。でも、自分も働こうとは思わない。
「いや、俺だって二ヶ月は頑張ったし。もう十分だろ」
誰に言い訳しているのかも分からないまま、コンビニに入る。
どうも、重音です!!!!!!!!!!!!!
処女作として書いてみました。
一週間に二話くらい更新できるように頑張ります。




