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呪いの過密ビスチェにバキバキの腹筋を締め付けられた細マッチョ美少年(18)、不慮の肉体衝突(天災)で魔王軍を実存的に壊滅させる  作者: あめたす


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第1話:初期ステータスのバグと、漆黒の緊縛

第1話:初期ステータスのバグと、漆黒の緊縛


 不条理とは、常に物質的な質量を伴って目の前に現れる。


 地下3階。初心者用『試練の祠』の最奥は、摂氏12度まで冷え切った湿気で満ちていた。

 結露した花崗岩の壁面から、一定の周期で水滴が床に垂れ、硬質な音を立てている。その横に転がっているのは、経年劣化で赤錆の浮いた鉄格子の扉と、先ほどまで宝箱の形状を模していたミミックの残骸だった。


「待て。開けるなと言ったはずだ、アオイ」


 聖騎士カルラ(32)が、重厚な鋼鉄の戦鎚を構えたまま、低く鋭い声をあげた。彼女の額からは、過酷な探索による塩分を含んだ汗が流れ落ち、冷たい鎧の胸当てを濡らしている。


 すべては遅かった。


 パーティの最前面に立っていたアオイ(18)の手元では、すでに『それ』が起動していた。


 異世界への転生直後、初期ステータス割り振りの全リソースを「魔力付与筋トレ」という過剰な自傷的肉体負荷に費やした少年。衣服の奥には、岩石のごとき硬度を持つ大胸筋と、縦に深く溝を刻んだ腹直筋――いわゆるシックスパックを隠匿している。だが、その輪郭自体は、完成しきっていない細い手首の骨格と、息を吸うたびに深く沈む鎖骨の窪みによって、極めて脆弱に見えるという生物学的バグを抱えていた。


 そのアオイの肉体に、光の粒子が収束する。


「……あ」


 アオイの口から、短い呼気が漏れた。

 瞬間、彼の五体を覆っていた初期装備の麻の衣服が、分子レベルで分解される。代わりに定着したのは、悪意の遺物『ウェスティス・オブ・ディスペア』。


 それは、光を一切反射しない漆黒のビスチェ、および大腿骨の中央部までを容赦なく露出させる同色のミニスカートであった。


「な、何よそれ……。何が発生しているの!?」


 大剣使いのエレナ(20)が、若くして前衛リーダーを任されたプライドをかなぐり捨てて叫んだ。彼女の指先が、大剣の柄を過剰な力で握り締め、白く震えている。


「システム的エラーを確認」


 魔導情報士のセシル(26)が、度の強い眼鏡の奥の瞳を急速に収縮させた。


「視覚的情報と、個体名アオイの生物学的性差の間に、致命的な因果律の乖離が発生しています。あれは――完全に、極めて高度に設計された、可憐なるゴスロリドレスです」


 定着した遺物は、アオイの意思を完全に無視して、その二次的機能を起動させた。


【特性4:強制過密】。


『ギチ、ギチギチギチ……ッ!』


 高密度の繊維と硬質なボーンが、アオイの肋骨を外側から強烈に圧縮していく。大気の流入を拒絶するような、不条理な締め付け。


「く、っ……ガ、ハッ……!」


 アオイの細いうなじが後方へと反り、白い皮膚に青い静脈が微かに浮き上がった。

 肺活量を極限まで制限されたことにより、アオイの呼吸は浅い胸式呼吸へと強制移行する。衣服の上からでも、過密な布地を押し戻そうとする大胸筋のキレと、限界まで絞られたウエストの奥で割れる腹筋の質量が、狂おしいほどの陰影を伴って立体化していく。

 少年は、男らしく強がろうとした。


「な、んてこと、ない……っ。こんなもの、俺の筋力で、引きちぎって――」


 だが、過密なビスチェの裏地が、彼のバキバキに引き締まった外腹斜筋を容赦なく圧迫する。


「ひゃんっ……!?」


 アオイの口から、彼自身の意思とは無関係な、高音の可憐な悲鳴が漏れ出た。

そのビジュアルは、最高に整った美貌の少女が、狂気的な衣装に身を包まれながら悶絶している絵面そのものであった。しかし、衣服の隙間から覗くのは、鋼鉄の密度を持つ雄の骨格である。


 その瞬間、背後にいた3人の観察者たちの脳内で、何かが物理的に破裂した。


「――っ!?」


 カルラが唐突に、両手で自身の下腹部をギチギチと押さえつけた。

信仰と理性を32年間コントロールしてきたはずの聖騎士の腹部が、深い部分でキュウゥゥッと激しく収縮する。耐えがたい疼き。体温の急激な上昇。


「これが……これが神の、実存的な、試練……っ!」


 カルラは戦鎚を床に落とし、激しい金属音を響かせながら、冷たい石畳の上に膝をついた。そのまま身悶え、のたうち回り始める。


「心音の周波数が……計算に合いません、合いません、合いません!」


 セシルが眼鏡を歪ませ、生身の心音とアオイの皮膚に浮かぶ汗のきらめきを凝視したまま、絨毯のように苔むした床に貼いつくばった。知性派の脳内回路が、圧倒的な肉体 的ノイズによって完全ショートしている。


「ちょっと、硬っ……硬いって何が!? どこがどうなってんのよ!」


 エレナはパニックに陥り、顔面を極限まで紅潮させながら、自分の腹部を抱えて床をゴロゴロと転がった。


 理性をバイパスされた3人の女傑たちが、祠の床で同時にのたうち回るという、地獄のような空間が完成する。


 しかし、彼女たちの脳内安全装置は優秀だった。生命維持の危機を感じた瞬間、強制的なシャットダウンが行われる。


「スン」


 一瞬だった。

 スイッチの切れたおもちゃのように、3人の力が完全に抜けた。さっきまでの赤面とのたうち回りが嘘のように、冷徹な真顔スンへと移行する。


「カルラさん、セシルさん、エレナ……? 一体どうしたんだ、みんな」


 アオイが、過密ビスチェに細い腰を締め付けられ、前かがみの姿勢のまま首を傾げる。白く滑らかなデコルテが、薄暗い祠の中で不自然に発光しているように見えた。


「問題ありません。フォーメーションを変更します」


 真顔スンのセシルが、機械的な動作で立ち上がった。


「これ以上の視覚的エラーの摂取は、精神の不可逆的な変容を招く。直列に並べ」


 カルラが冷たい声で指示を出す。

 彼女たちが瞬時に結成したのは、【ド○クエ型・直列防衛フォーメーション】。

 アオイの背後に、寸分の隙間もなく1列にピッタリとくっつく。前を歩く者の背中に胸を押し当て、視界からアオイの顔面とビスチェの破壊力を排除する配置。


「よし、進むぞ……」


 アオイが1歩を踏み出した。

 だが、ここは幅1メートル未満の極狭1本道。さらに、キャラクター同士のコリジョン(当たり判定)が絶対にすり抜けない仕様である。

 アオイが歩幅を緩めるたびに、ドミノ倒しのように後ろの3人が物理的に追突する。


『ゴリッ』


 エレナのフロントアーマーが、アオイのドレス越しに見える広背筋に衝突した。衣服の繊維が擦れる微かな音。布地を透過して伝わる、18歳の熱く密度の高い体温。


「ひぅっ……!


 エレナの腹部が再びキュウウゥと収縮する。


「硬っ……背中、信じられないくらい硬い……っ!」


 その振動は、エレナの身体を媒介して、後ろのセシル、さらにカルラへとドミノ倒しのように伝達された。アオイの心音の距離、背筋の不条理な質量が、彼女たちの肉体にダイレクトに響く。


「っ……神よ……!(デレ)」


「スン」


「計算が……周波数が……っ(デレ)」


「スン」


 壊れたメトロノームのように、3人は【デレ ➔ スン ➔ デレ ➔ スン】の超高速反復横跳びを開始した。直列に並んだまま、真顔と悶絶を秒間5回のペースで繰り返すカオス。


「みんな、本当に大丈夫か? なんだか後ろがすごく騒がしいんだけど……」


 アオイが振り返ろうとする。


「振り向くなアオイ!!」


 3人の絶叫が、冷え切った試練の祠に虚しく響き渡った。

 結露した岩肌から、水滴がまた1つ、『ピチャン』と床に落ちた。

世界は彼女たちの理性を救済しない。ただ、圧倒的な衣服の硬度と、少年の筋肉の質量だけが、そこに実存していた。

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