第1話 出会いは崩壊の音とともに
この世界には、獣人族、昆虫族、幻獣族。
様々な種族が存在し、それぞれの種族が国を持っている。
あらゆる種族が混ざり合い、同じ街で働き、暮らしていた。
だが、たった1種族、人間だけは別だった。
人間は、自分たちの国を持たない。
歴史の中で国家形成に失敗し、各国に散らばって生きるしかなかった。
その結果――どの国でも“よそ者”扱いされ、特に獣人族からの差別は苛烈だった。
- 「弱い」
- 「役に立たない」
- 「すぐ死ぬ」
そんな言葉を浴びせられ、暴力や搾取の対象にされることも珍しくない。
それが、この世界の“普通”だった。
それでも人間は生き残ってきた。
適応力と判断力、そして折れない心で必死に生き残って来た。
そんな世界の中ただ一つの国【アニマリア統合国】は特別だった。
アニマリア統合国は、多種族平等に扱う。そんな人間たちが唯一“普通に暮らせる”国だった。
しかし――その国も今、崩れ始めている。
アニマリア統合国。
多様性は強さであると同時に、最も大きな火種でもあった。
- 強種族による支配
- 弱種族への搾取
- 能力差による差別
- 犯罪組織による種族能力の悪用
- 軍と警察の腐敗
- 反政府勢力の台頭
- 他国からの干渉
多種族平等に扱う国家であるがゆえに、問題は複雑に絡み合い、アニマリア統合国は静かに崩れ始めていた。
軍と警察も腐敗し、能力差による差別や癒着が横行していた。
そして政府はついに、国防大臣直属の即応対策局と即応部隊を創設する。
現在のアニマリア統合国をまとめよう。
アニマリア統合国の“最後の砦”
国防省
軍と警察を統括する巨大組織だが、腐敗が深刻。
- 武器横流し
- 強種族優遇
- 汚職
- 情報漏洩
- 反政府勢力との癒着
内部に裏切り者が潜んでいる。
その中で、即応対策局だけは国防大臣直属の“例外組織”。
腐敗を嫌った者たちが集まっている。
アニマリア統合国軍
世界唯一の多種族軍隊。
- 種族ごとに能力差が大きく、編成が複雑
- 強種族が優遇され、人間は最下層
- 腐敗した上官が多く、武器横流しが横行
- 反政府勢力との戦闘で疲弊
1人目の主人公”不死川 龍志ふしがわ りゅうじ”は、人間でありながら小隊長まで上り詰めた“異例の存在”。
差別と嫉妬を受けながらも、部下からの信頼は厚い。
アニマリア統合国警察
アニマリア唯一の法的執行捜査機関の文民警察。
国防省の管轄なため軍隊並みの強力な装備を保有しており、多種族社会の治安維持を担うが、こちらも腐敗が深刻。
- 強種族の犯罪を見逃す
- ギャングと癒着
- 人間の被害は軽視される
- 内部差別が横行
2人目の主人公”九条 葵くじょう あおい”は、人間でありながら警察の中でも特殊警察に所属する稀有な存在。
差別を受けながらも実力で黙らせてきた。
【都市部】
朝の光がビルの谷間で濁っていた。
この街は、もう正常じゃない。
”九条 葵くじょう あおい”は警察の突入班として、ギャングのアジト前に立っていた。
「突入まで三十秒。準備しろ」
隊長の声が震えていた。
恐怖ではない。
“何かがおかしい”と、彼女は気づいている。
彼女は閃光弾のピンに指をかけた。
(今日も、誰かが死ぬかもしれない。でも、私は仲間を死なせない)
合図と同時に、扉を蹴り破る。
閃光弾が炸裂し、白い光が視界を焼く。
だが、彼女は目を細めるだけで前に出た。
最初に飛びかかってきたのは、腕が4本あるカマキリ種のギャング。
葵「来る……!」
四本の腕が同時に襲いかかる。
普通の人間なら反応できない速度。
葵(速い……!)
彼女は一瞬で判断した。
警棒で一本の腕を叩き折り、タクティカルナイフで別の腕の腱を切り、残りの二本は身体をひねって避ける。
ギャングが悲鳴を上げるより早く、彼女は喉元に拳銃を突きつけた。
葵「動かないで」
その声は冷たく、静かだった。
だが
敵はまだいた。
天井から、蜘蛛種の男が糸を垂らして降りてくる。
(蜘蛛種……厄介)
腕に絡みつく粘着糸。
引き寄せられる。
(まずい――)
だが、彼女は自ら前へ飛び込み、蜘蛛種の懐に潜り込む。
「人間が……近づくなッ!」
葵「近づかないと勝てないので」
脚の関節を切り裂き、蜘蛛種を制圧する。
葵(……やっぱり、情報が漏れてる)
胸の奥に、冷たい疑念が沈んだ。
敵の配置が妙に“こちらの動き”を読んでいた。
胸の奥に、重い疑念が沈む。
床に落ちた金属片が目に入った。
見覚えのない武器パーツ。
葵(ギャングが使うには……洗練されすぎてる)
彼女はそれを拾い上げ、ポケットにしまった。
【沿岸部】
海風は荒れ、波は鋭く砕けていた。
”不死川 龍志ふしがわ りゅうじ”はアニマリア海兵隊の小隊長として、海賊船を追っていた。
龍志「距離、八百。動きが不自然だ」
海賊船は逃げるでもなく、挑むでもなく――
ただ“誘うように”進路を変えた。
(罠だな)
龍志「全員、散開! 射線をずらせ!」
直後、銃撃が始まる。
彼は身を低くし、拳銃で正確に応射した。
次の瞬間
石のような甲殻を持つアルマジロ系の海賊が飛び出してきた。
銃弾が弾かれる。
だが、彼は一歩も引かない。
龍志(甲殻種……関節が弱点)
海賊が腕を振り上げた瞬間、彼は懐に飛び込み、ミリタリーナイフを関節に突き立てた。
「ッ……!」
石の皮膚が割れ、海賊が膝をつく。
龍志「動くな」
彼は割れた部分に銃口を押し当てた。
だがその直後、甲板の奥から低い唸り声。
大型の狼種の海賊が姿を現す。
「人間が……俺の仲間を倒したってのか」
龍志「倒したというより、止めただけだ」
「どっちでも同じだッ!」
狼種が突進してくる。
(速い……!)
彼はロープを蹴り上げ、狼種の足に絡ませて転倒させる。
背後に回り込み、銃口を押し当てた。
龍志「動くな。お前の脚力で暴れられたら、船が壊れる」
狼種は悔しそうに唸りながらも、手を上げた。
海賊の装備を確認すると、そこには見覚えのない武器パーツがあった。
(……こいつらの装備も、やっぱりおかしい……軍の規格に近いものもある)
胸の奥に、冷たい疑念が沈む。
【都市部:警察署内】
現場処理が終わり、彼女は装備を外していた。
「……お前、また無茶したな」
振り返ると、彼女が唯一信頼している上司――
”特殊警察隊長・ハルド(獣人族・狼種)”が立っていた。
葵「仲間を守るためなら、仕方ないですよ」
「言い訳は聞いてない。……だが、よくやった」
ハルドは声を潜めた。
それと同時に、1つの紙を差し出す。
「国防省から通達だ。お前を“即応対策局”に出向させる」
葵「……即応対策局?」
「軍と警察の腐敗を嫌った連中が作った新組織だ。お前みたいな“汚れてない奴”が必要らしい」
ハルドは彼女の肩を叩いた。
「行け。お前なら、どこに行っても仲間を守れる」
その言葉は、彼女の胸に静かに響いた。
【沿岸部:海防艦内】
海風がまだ荒れていた。
彼は装備を整えながら、背後の足音に気づいた。
「……無事で何よりだ」
振り返ると、彼が心から信頼している上官
**海兵隊中佐・ミレイ(獣人族・鷹種)**が立っていた。
龍志「中佐の判断、完璧でした」
「完璧だったのはお前だ。部下を1人も死なせなかった」
ミレイは封筒を差し出した。
『急な命令になってしまい済まない。お前を国防省直属・即応対策局への出頭を命ずる』
「軍と警察の垣根を越えた新組織だ。お前の“胆力”と“優しさ”が必要になる」
龍志「……行ってきます、中佐」
「誇りに思うぞ。お前なら、誰かを救える」
その言葉は、彼の背中を静かに押した。
【国防省】
アニマリア統合国・国防省地下。
新設された即応対策局の会議室には、軍・警察の高官、トカゲ種族の分析官、甲虫系の通信士が並ぶ。
「……軍と警察の腐敗は、もはや隠しきれん」
「ギャングの武器が軍規格に近い。内部の誰かが流している」
「海賊の装備も同じだ。反政府軍にも同型のパーツが確認されている」
「つまり――敵は外だけではなく、内にもいるということだ」
国防大臣が口を開く。
「だからこそ、即応対策局を作った。軍と警察の“確実に汚れていない者”だけを集めた精鋭部隊だ」
参謀が資料を置く。
「第一陣として、4名を召集した。」
不屈の精神と肉体を持つ軍所属の男。”不死川 龍志ふしがわ りゅうじ”
破壊工作、状況判断共に優秀なを警察所属の女。”九条 葵くじょう あおい”
そして――」
資料には、異種族の名が並んでいた。
- 《レイヴ・スケイルズ》:トカゲ種。潜入・偵察のスペシャリスト
- 《グラント・アーマー》:アルマジロ種。重装甲の盾役
「この4名が、即応部隊の初期メンバーとなる」
国防省地下のフロアへ続く廊下。
彼はミレイの言葉を思い返しながら歩き、彼女はハルドの言葉を胸に刻みながら歩いていた。
そして――同じ扉の前に、同じタイミングで辿り着く。
互いに気づき、足を止める。
葵「……あなたも、呼ばれたんですね」
龍志「そうらしいな」
短い沈黙。
だが、その沈黙は気まずさではなく、“相手を測るための静けさ”だった。
彼女が先に口を開く。
葵「軍の人ですよね。歩き方でわかります」
龍志「警察の人間に言われるとはな。観察が鋭い」
葵「仕事柄、どうしても。……あなた、今日の海賊戦で怪我は?」
龍志「かすり傷程度だ。慣れてる」
葵「慣れてる、ですか。そういう人ほど、突然倒れたりするんですよ」
龍志「心配してくれるのか?」
葵「……仲間になるかもしれない人ですから」
彼は少しだけ目を細めた。
その言葉に嘘がないとわかったからだ。
龍志「君は? 突入任務だったんだろう。無事か」
葵「ええ。こちらも慣れてます」
龍志「人間なのに、よくやる」
葵「あなたも人間でしょう?」
龍志「まあな。でも、俺は獣種の部下に“弱いくせに前に出るな”ってよく言われる」
葵「私も虫種の同僚に“反応速度が遅い”って言われます」
二人は、ほんの少しだけ笑った。
その笑いは、“同じ痛みを知っている者同士の笑い”だった。
彼がふと、彼女の腰のホルスターに目をやる。
龍志「その拳銃……改造してるな」
葵「ええ。反動を抑えるために。人間の腕力じゃ、純正のままだと扱いづらいので」
龍志「わかる。俺もナイフの重心を変えてる。強種族向けの装備は、どうにも合わない」
葵「……あなた、戦い方が丁寧そうですね」
龍志「君は判断が速そうだ」
葵「褒めてます?」
龍志「事実を言っただけだ」
彼女は少しだけ頬を緩めた。
葵「……変な感じですね。初対面なのに、こんなに話せるなんて」
龍志「戦場を知ってる者同士だからだろう」
葵「そうかもしれません」
再び静寂が落ちる。
だが、今度は温度のある静寂だった。
彼が扉に視線を向ける。
龍志「この先に、何が待ってると思う?」
葵「わかりません。でも……腐った国を少しでもマシにできるなら、やる価値はあります」
龍志「同感だ」
彼はゆっくりと息を吸い、彼女は拳を軽く握りしめた。
龍志「行くか」
葵「はい」
2人は同時に扉へ手を伸ばした。
扉が開き、2人は中へ入った。
壁の色がゆらりと変わり、レイヴ・スケイルズが姿を現す。
レイヴ「……人間が二人。珍しい組み合わせだ」
葵「トカゲ種のあなたに言われたくはないですね」
レイヴ「事実を言っただけだ。人間は、こういう任務に選ばれにくい」
葵「それでも選ばれたんです。あなたと同じように」
レイヴはわずかに尾を揺らした。
そこへ、床を揺らす足音。
「おーいレイヴ、また壁に溶けてたのか?」
グラント・アーマーが入室する。
レイヴ「お前の足音がうるさいだけだ、グラント」
グラント「お前の存在感が薄いだけだろ」
レイヴ「……否定はしない」
彼が吹き出す。
龍志「仲いいんだな、お前ら」
レイヴ「仲良くはない」
グラント「仲良くはないぞ」
二人が同時に否定した。
だが、その声には“長い付き合いの気安さ”が滲んでいた。
グラントが彼と彼女を見下ろす。
グラント「で、人間の二人。俺たちを守れるのか?」
彼女が即答する。
葵「守るつもりはありません。あなたたちと並んで戦うつもりです」
グラントは豪快に笑った。
グラント「ガハハハッ。いつも人間は守りますっていうんだが、気に入った!」
レイヴも静かに頷く。
レイヴ「……悪くない。人間の中では、強い方だ」
静寂の中4人の視線が交わる。
その静寂を破るように、部屋の奥から重い足音が近づいてくる。
灰色の狼種――鋭い金色の瞳を持つ男が姿を現した。
アニマリア統合国 国防省 即応対策局 局長。
カシアン・ヴォルクナー。
カシアン「揃ったな」
低く、よく通る声だった。
レイヴ・スケイルズがわずかに姿勢を正す。
グラント・アーマーは腕を組んだまま、興味深そうに指揮官を見た。
彼と彼女も自然と背筋が伸びる。
カシアンは4人を順に見渡し、静かに言葉を続けた。
カシアン「まずは名乗っておこう。私はカシアン・ヴォルクナー。この即応対策局の責任者だ」
皆が小さく息を呑む。
軍と警察の間で“伝説”と呼ばれる人物だったからだ。
カシアンは続ける。
カシアン「お前たち4人は、軍と警察の中でも“汚れていない者”として選ばれた。能力だけではない。判断力、倫理観、そして――折れない心だ」
グラントが鼻を鳴らす。
グラント「褒められてるのか、俺たち」
レイヴ「事実を述べているだけだ、グラント」
レイヴが淡々と返す。
カシアンはわずかに口角を上げた。
カシアン「仲が良いようで何よりだ」
レイヴ「仲良くはない」
グラント「仲良くはないぞ」
レイヴとグラントが同時に否定する。
彼と彼女は思わず笑いそうになった。
カシアンは2人に視線を向ける。
カシアン「君。名は」
「……はい。不死川 龍志です」
カシアン「お前は?」
「九条 葵です」
カシアンは深く頷いた。
カシアン「お前たち2人は、日々の任務で“判断力”を示した。強種族相手に怯まず、状況を読み、最小の被害で制圧した。それは訓練では身につかない。経験と覚悟の証だ」
彼女は少しだけ目を伏せる。
彼は静かに息を吸った。
カシアンは続ける。
カシアン「だが――アニマリア統合国は今、崩れかけている。軍も警察も腐敗し、犯罪組織は武器を強化し、反政府勢力は勢いを増している」
レイヴが口を開く。
レイヴ「内部に裏切り者がいる、ということですか」
カシアン「いる。確実にな」
カシアンの声は低く、重かった。
カシアン「だからこそ、お前たちを選んだ。軍でも警察でもない、“新しい力”が必要だった」
グラントが腕を組み直す。
グラント「で、俺たち4人で何をするんだ?」
ヴォルクナーは4人を見渡し、はっきりと言った。
カシアン「お前たちが――アニマリア統合国即応部隊の第一陣だ」
静寂が落ちた。
だが、その静寂は恐れではなく、崩れゆく国家の呼吸の中で、四人の物語が、静かに動き始めた。




