9.ステラへの思い
間が開いてしまいました。本日もどうぞよろしくお願いいたします。
父と話した後、アーネストの鍛錬はますます自分を追い込むものになった。特に政治について父と話し合うことが増えた。
ヴィクターはアーネストが9歳になると王都での謁見や商談、他の貴族との社交に連れて行くようになった。息子の覚悟と実力を知り、ならばできるだけ支えていこうという親心からだ。
結果、王都でもどこでもアーネストは注目された。
「アーネスト君は魔力が多いそうだね。何でも他国の魔法についても研究しているとか。若いのに大したものだ。どうだい、何か興味深いものなどはあるかな?」
などと、試すつもりでアーネストに話しかける大人も多かった。だが。
「そうですね、面白いのは東方の魔法でしょうか。
東方のものは我が国のものとは使い方が違います。国防など武力だけではなく、農業や食に関しても使われることが多い。
例えば東方は香辛料の種類が非常に多いのですが、その生産でも、土に魔力を流す魔法が使われています。微妙な魔力の調整でそれぞれに合うよう土を改良しているとのことです。
私もその方法について学んでいるところで、今後は我が領の香辛料の種類や生産量も上げていきたいと考えています」
「し、しかし、それには膨大な魔力が必要になるのでは?」
「それも含めて努力してまいります」
「それは…頼もしいことだな」
「お褒めに預かり光栄です。
そう言えば、辺境が東方と始めた交易で入ってきたものも流通が広がっています。最近、王都でも異国風のメニューを提供する店が増えているでしょう。あれがそうです。
機会があれば味わっていただきたいと思います。黒胡椒とはまた一味違った辛さがいろいろ楽しめます。
甘い香りの中の辛味や酸味との組み合わせ、コク、上げればきりが無いですが」
「…楽しみだ…本当に」
子どもだと思ってアーネストに興味本位で話しかけた相手が、話すうちに引き込まれいることもしばしばであり、同時に『何なんだ、あの気味の悪い子は』という評判も広まった。
中には『子どものくせに大人に混じって』と直接嫌悪をぶつけてくる者もいた。当然、辺境伯が無礼にならない場所を選んで連れてきているのだが、通じない相手もいるものだ。
そういう時でもアーネストは毅然と振る舞った。だが、平気なわけではなかった。
自分自身の成長とそれに伴って周りから向けられる視線、それに含まれる自分への恐怖を受けながら送る日々。アーネストは孤独だった。
それは彼の1度目の人生とあまりにも違っていた。
アーネストは1度目の人生では誰からも愛される子どもだったから。
メルヴィンと一緒に学び、剣の練習をし、イタズラをして兄や大人たちから叱られた。だが辺境伯の次男である彼は大切にされるべき存在だったし、本人もそれをわかっていたから、矢鱈なことはしでかさなかった。毎日が楽しかった。
なのに2度目の人生では努力をしているだけなのに好奇や嫌悪を向けられる。国のため、彼らのためにこんなにも苦労しているのに、誰もそれを理解しない。いや、そもそも起きていないのだから当然だ。しかし、それを起こさないための努力だ。
…日々、鍛錬に明け暮れ、その隙間には堂々巡りの自問自答。
最初に畏れと嫌悪の感情を向けられた時から、アーネストはそんなことは百も承知のつもりだった。それでも、1度目の記憶があるアーネストだからこそ、今の孤独は堪えるものだった。
日々積み重なっていく鍛錬の疲労と、他人からの視線に疲れ切ったアーネストは、いつしか今の自分の状態を1度目のあの時の彼女の姿に重ねた。
「小さな頃のステラもこんな気持ちを抱えていたのだな」
魔眼のせいで気味悪がられ、友人も出来ず、一人ぼっちだったステラ。
小さなステラがそれをどう受け止めていたか。
巻き戻り、今を生きているアーネストにはよく理解できた。そして胸に抱いたのは。
『早くステラに会いたい』
という思いだった。
アーネストは、同じ境遇のステラであれば、自分のこの気持ちを受け止めてくれる、と信じるようになっていった。
ステラに会う前から彼女に恋をしていたというのが正しい。
かくして、まだ会ったこともない女の子に恋情を抱く、中身は成人、見た目は9歳のスパダリが誕生したのだった。
お読みくださりどうもありがとうございました。アーネストが困った感じに育ってきました。目力令嬢ステラはどこへ行ってしまったんでしょうか…そのうち登場しますのでよろしくお願いします。
途中、不幸があったり風邪をひいたりでしたが、最後は花粉症で苦しい毎日です。皆様はいかがですか。




