7.メルヴィンの決意
本日もありがとうございます。第7話目になりました。
ようやく父親に名前がつきました。よろしくお願いいたします。
アーネストは1度目の人生で3ヶ国語を理解していたが、2度目の人生ではそれに加えてこれから貿易をすることになる東方と北方の言葉を学んだ。
1度目の人生では通訳を探すのに苦労した。自分が話せるのであればそれに越したことはない。
それに東方はこことは違う魔力の使い方をする人々が住んでいる。
1度目の人生でそれを知ったのは学園でのことで、そこでアーネストが修行をするには魔力も時間も技量も足りず、学園での心残りの一つだった。
今ならそれも叶う。なるべく早く身に着けたかった。
メルヴィンも東方の言葉は学んだ。ウェリントンでは珍しい自分の黒髪だが、東方では多いと聞いたからだ。
「うちは先祖が遠くから流れて来たって話だけど、もしかしたら東方からかもしれないしさ」
一緒に学ぶうちにメルヴィンもだいぶ単語を覚え、魔力の使い方も上達した。
「アーネスト、俺もすごいだろう?」
「ああ、メルヴィンはすごい。一緒に頑張ってくれるメルヴィンがいてくれて嬉しいよ」
アーネストの言葉にメルヴィンは目を輝かせた。
「もっと褒めてもいいんだぞ。俺はお前の第一の従者になるからな!俺には何だって言えよ?」
「ありがとうメルヴィン」
優しく微笑むアーネストを見ながら、メルヴィンは『まだまだか』と思ったが、二カッと笑って胸を張った。
誰にも言わない秘密を抱えたまま、アーネストたちは8歳になった。
彼は、身につけた5ヶ国語と魔力を使って自分の知り得た情報を元に、東方との貿易について、また国の政治について、父親である辺境伯、ヴィクター・ウェリントンに質問した。
「父上、王家は三公爵家と適度な距離を保ちつつ政治を行っていますが、フォード公爵家は不満に感じているようですね。
特に兄を追い落として後継者の座についた現当主には野心が感じられます。商会と直接の取引が多い下位貴族との関係重視、これは彼らの懐具合を探っているのでしょう。
健全な経営の支援だけなら良いかもしれませんが、彼らに何かしら後ろ暗いところがあれば、それにつけこまれてフォード寄りにならざるを得ない。
問題が経営のことならば外部からも手は打てますが、個人的な弱みであればどうにもならなくなります。
例えば国にはまだ知らせたくない開発や投資、犯罪スレスレの取引、もしかすると個人的に外には言いづらい趣味嗜好なども考えられます。
そういったことを念頭にした動きがフォード公爵には感じられる。このままではいつかフォード公爵家は力を持ちすぎる。そしてそれを狙っていると私は思います。
父上はフォード公爵についてどうお考えですか?」
父親は8歳の息子の洞察力に驚きつつも公爵家の危険性について意見を交わした。
そして次の日。
妻に昨日のアーネストの話と自分の考えるアーネストのこれからについてを伝えた。
その後、執務室にメルヴィンと彼の父親であり軍の第3部隊の副隊長でもあるウォーレン・パッカーを呼んだ。
「メルヴィン、いつもアーネストと頑張っているな」
「はいっ、ありがとうございます」
「ところで、お前は、アーネストが怖くはないのか?」
メルヴィンはハッとした。領主が言っている意味がよくわかったからだ。
アーネストから漏れ出る魔力、8歳とは思えない剣の腕前と異常な知識量。その辺の大人より余程冷静で立派な口調。
遠く及ばないとわかっているため、同じくらいの歳の子は最近ではアーネストに近寄りもしない。姿が見えれば逃げ出すのだ。逃げ出さずとも彼をできるだけ避けるのは子どもだけではない。
「正直に言って良い」
領主に言われて口を開く。
「…怖い時もあります。だってアーネストは本当にすごいから。でも…」
メルヴィンは少し考えていたが、
「でも、アーネストは最初からすごかったんじゃなくて、ものすごく頑張ってすごい奴になった…んです。
アーネストは誰にも言わないけど、何か理由があって頑張ってる。多分だけど、俺はそう思ってて」
ヴィクターたちはメルヴィンが話すのを待った。
「だから、頑張りすぎてすごくなりすぎちゃって…魔力とか…だからそこは確かに怖いけど、アーネストはアーネストのままで変わってないと思う…思います」
息子の強さを認めつつも本人を恐れていないその言葉にヴィクターは問いかける。
「…このままアーネストが鍛錬を続けたら、もっと強くなる。差は開く。
メルヴィン、当然お前よりも、若い兵士よりも、お前の父、いや、私よりも。
誰も追いつけないくらい強くなるだろう。頭も良く、何を考えているかわからなくなるかもしれない。
そうなってもお前は同じことが言えるか」
領主の言葉にメルヴィンは、ちらと自分の父親を見た。
父親と領主はまだ若い。前領主が亡くなったのは病が原因だったが本当のところはわからない。だがそのせいで若くして後継者となった領主は年齢に関わらず尊敬される人だった。
そしてずっと領主を支えてきた父親のことが息子は大好きだったし、二人の関係は子どもながら憧れでもあった。
その父親は黙って自分を見つめている。
メルヴィンは父親を見つめ返した。そして子どもなりに精一杯答えた。
「先のことはわからないけど、アーネストは、今、一人で頑張ってます。
俺は横で自分の鍛錬をしてるだけ、同じ場所にいるだけで、アーネストと鍛錬しているわけじゃない。ついていくのも無理だし。
…あいつは俺に何も言わないんです。俺にだけじゃない。だまって鍛錬している。
友達もいなくなって、遊んだりもしなくて。あんなの平気なはずないのに。
でもあいつはやめないんだ」
メルヴィンは鍛錬中のアーネストの姿を思い出す。吐くほど鍛錬して、それから勉強に向かうアーネスト。
「あんなに頑張る理由を聞きたいけど、訊いても本当のことは教えてくれないと思う。
きっと俺に言ってもどうにもならないから。
けど、いつかは俺にその理由を話してくれるって思ってるし、そうなってほしいんです」
一緒にバカなことをして笑い合ったことを思い出す。鳩時計の鳩を打ち損じて悔しがったアーネストも今のすごいアーネストも、どっちも大事だ。
「俺、アーネストに『あいつになら話してもいい』って思ってもらえるように頑張るって、ずっと前に決めたんです。
いや、足りないことばっかりで、呆れられても、あいつがあきらめて話してくれるまで、俺はアーネストの側にいる。
そして話してもらえたら、その時俺はアーネストの本当の、1番の従者になれるって思ってます」
力の差も努力の差も明らかだけど、『一緒に頑張ってくれて嬉しい』というあの言葉は嘘ではないとメルヴィンは思う。あの笑顔は同等の者に向けるものではないけれど。今はまだ。
メルヴィンの言葉を聞いて、父親たちは頷く。
「メルヴィン、アーネストの良き従者、そして友であってくれ。頼んだぞ」
領主の言葉にメルヴィンは力いっぱい頷いた。
父親はそんな息子を真面目くさった顔で見ていた。
お読みくださりどうもありがとうございました。
短編の時はヤンデレ+スパダリだったアーネストですがなかなかそこに辿りつきません。すみません。周りにいないからかな?頑張ります。




