4.アーネストとメルヴィン
4話になりました。来てくださりありがとうございます。
巻き戻りを密かに受け入れたアーネストのそれからの努力は、辺境伯として厳しい生き方をしてきた両親も驚くほどだった。
「そこまでにしなさい」
「いえ、もう少し!」
魔力を使い切る寸前まで制御の練習をする。父親に習っている剣にも魔力を乗せる。これは1度目の人生ではもっと後になってから知られるようになった技だ。でもアーネストはこれが公になるのを待つつもりはなかった。そんな時間はないと、すぐに自分の鍛錬に取り入れた。
『あの時のステラの魔力量に勝るためには、今のままではダメだ。もっともっと努力をしなければ』
そう思いながら鍛錬を積むアーネストの姿は5歳ながら周りを圧倒した…などということはなく、まだまだ幼い可愛らしいものだった。
父親は最初こそ止めたが、実際に彼の魔力量が上がり、剣技も上達していることがわかってからは黙って見守った。
いや、剣に魔力をこめる技については真似て自分もやり始めたし、自領の兵士たちにも取り組むようにさせた。内心『魔力量の上昇もやりたいくらいだが年齢的に難しい』と残念に思っていたくらいだ。
実のところ皆が寝静まった夜中に訓練場でやってみて倒れ、家臣に寝室に運ばれた時に、妻から
「歳を考えなさいませ」
と言われて悔しかったが、再び面倒をかけるわけにもいかないし、領地の経営に問題も出そうなので諦めたのだった。魔力をギリギリまで使うというのはそれくらい大変なことだった。
こうして息子の並外れた努力を身を持って知った父親は、これだけ大変なことをしようと自分を追い込むようになった息子に何があったのかと心配した。
同じように母親も5歳の息子の急な変化には気付いていたが、その真剣な様子に、両親は話し合い、今は見守りながら付き合うことにしたのだった。
両親の理解を得て、アーネストはまだ小さい身体で諦めること無く鍛錬を続けた。
「まだ続けるのか?もう疲れたよ〜。ちょっと休もうぜ」
「うん、メルヴィンは少し休むといい。僕はもう少しだけ」
乳兄弟のメルヴィンもアーネストの鍛錬に付き合って毎日ヒィヒィ言っていた。しかしアーネストの変化を両親以上に感じていたのが近くにいたメルヴィンだった。
時期当主として教育は受けていても、自分とは時折バカみたいに走り回ったり、イタズラをしていたアーネストがこれだけの努力をするようになったのには、それなりの理由があるのだろうとは5歳ながらに理解していた。
「ああもう〜仕方ないなぁ。じゃあ俺もやるか。終わったらおやつもらおうっと」
一生仕えることになるだろうアーネストに見限られては困る。それに主より能力がずっと低い従者なんてカッコ悪い。そんな気持ちがあった。軍でそれなりの地位にいる父親に叱られるのも癪だった。
そうは言っても相手は元々優秀なアーネストだから、メルヴィンは全部の鍛錬についていくことはできなかった。途中でへばって座り込み、「がんばれー」と応援に回ることも多かった。
アーネストはメルヴィンの応援に『ありがとう』とでも言うように笑顔を返し、鍛錬を続けた。剣を振り続ける姿に、疲れすぎて時々蹲る姿に、メルヴィンは『一体何を考えてるんだ?』と思っていた。
そんなある日の鍛錬中のことだった。
アーネストが手合わせをしていた辺境伯(父親)の足元に剣からの魔力を叩きつけ、土を弾いた。辺境伯は舞い上がる土に視界を遮られ、後ろに飛び退った。そこに一撃。
もちろん辺境伯に当てることはできなかったが足元スレスレに入った剣が地面に刺さっていた。
「やっぱり父上はすごいな。うん…まだ身体が小さい分、戦い方を工夫しないと」
そう言ってアーネストは剣への魔力の込め方やその放出の仕方を辺境伯に尋ねた。二人の手合わせを見ていたメルヴィンの視線は答える辺境伯の額の汗に向いていた。
子どもながら、そんな訓練を毎日続けていれば結果が出るもので、メルヴィンもたまの手合わせでは同じ年頃の子どもに勝つのはもちろんのこと、そろそろ軍の予備試験を受けようかという少年たちに追いつけるくらいの力を身につけていった。
あの日、辺境伯に汗をかかせたアーネストを見てからメルヴィンは軽口を叩きながらも鍛錬に真面目に取り組むようになった。遥か先を行くアーネストを真剣に見るようになった。
そしてアーネストが剣や魔力の増強だけでなく、勉強もしていることを知った。吐くほどの鍛錬の後の勉強。メルヴィンはアーネストが何か自分だけの秘密をもっているのだと気付いた。けれどアーネストは何も言わない。
いつかその秘密を打ち明けてもらえるように、信頼を勝ち得るように、努力するしかないと幼いメルヴィンも心に決めたのだった。
お読みくださりどうもありがとうございました。
明日(24日)も投稿できるよう頑張ります。どうぞよろしくお願いいたします。




