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出会い

「おい、おい! 大丈夫か」


 温かな手が、自分の肩を掴むのを感じて、サキはそっと目を開けた。秋の風に身体が冷えていたらしい。肩の温もりがとてもありがたいものに思えた。


「うっ……」


 呻きつつ、背を預けていた岩肌から身を起こそうとした。が、力が抜けて、がくっと倒れ込んでしまった。ついにそのまま失神したらしい。目の前が真っ暗になった。

 


 ヨルザは、半ば呆然として倒れ伏してしまった少女を見ていた。下ろした腰を再びあげ、隣のシニエを窺う。


「死んだか?」

「馬鹿。こんくらいで死ぬはずないだろ。けど、体が冷えてるから、穴に引っ張らなかったらこのまま死ぬぜ?」

「そうか。そうだな。行くか……うん?」


 岩肌に沿って少女の体が、滑り落ちたせいで髪を結っていた紐が緩んだのだろう。解けた髪の先に、晴れた海の群青がうっすらと見える。毛先に地毛と違う色がある人間は巫子しかいない。ヨルザはシニエと顔を見合わせた。同胞として、この娘をこのまま放っておくわけにはいかない。

 二人はちょっと腕を捲って少女を担ぐと、穴の中に入っていった。


 この広く浅い岩穴を見つけたのは、霧聴に来てそうしない頃だった。買いためた備蓄の中から二人は蝋燭ろうそく茣蓙ござなどを置いて、いざという時の避難場所として用意していた。奥には寝袋を置いて寝室にしたところがあるが、二人で精一杯の空間だった。でも仕方ない。寝室に彼女を寝せた。

 茣蓙を折りたたんで厚くしたところに、少女をそっと寝かす。


「掃除するわ」

「ああ」


 一旦戻って、入り口に置かれていた槍を持ってきたヨルザが、奥に行き、しゃがんで張り付いた苔などを取り始めた。

 シニエは名前もわからぬ少女の傍に座って、帯を緩めるなどして楽にしてやった。巫子は体が冷えると中の死の力__繋力が呼応し、体調を悪くしかねない。つまりは、巫子は体が弱いのだ。


(夜から熱が出るかもな)


 それはなんの根拠もない。けれどその勘が、当たることになった。

 



 日が落ちて、薄暮の白っぽい空の色がやがて、深い闇に沈んでいく。その頃、不意に少女が荒い息をし出した。


「ちょっ、ヨルザ! 彼女が熱出したから粥作れ!」

「はあ? どうした」

「今、俺、彼女の霊気がすごくて触れられないんだよ!」


 巫子が出すもやのような霊気は、繋力の暴走の前兆だ。体調が悪い時や、感情が大きく振り切れた時などによく出る。他の者がその霊気に触れようとすると、妙な抵抗がある。それで触れられないのだ。

 掃除していたヨルザが、寝室に出てきて足を止めた。

 シニエの傍に寝て苦しそうな彼女は、青いもやを発していた。

 

「火を頼む」


 ヨルザがごそごそと粥にする米と煮込む乳のそれぞれ入った壺を探している間に、居間にしたところに散らばっていた石片を組んでかまどを作ったシニエは、〈火〉の属である巫具の朱雀に頼んだ。何かの獣の角で作られた、古びた針に朱雀は巻き付くように佇んでいる。この魔霊が吐く息は炎になる。燃料もいらないから、二人は野宿生活をたいていこれで乗り切ってきた。


 かまどの中に火が入ると、シニエは針を懐にしまい、急いで穴の近くの小川に向かう。持ってきた瓶に、夜闇に冷たくなってきた水を入れて、またすぐに岩穴に帰った。もちろんそれだけでは湯は沸かせないから、また水を汲みに行く。娘のための濡らし布を作りに、もう一度汲んできて戻った時には、娘の周りを、小さな緑の馬が走っていた。ヨルザの巫具の小刀にいる、馬型の魔霊だ。属は〈風〉なので、こうして熱を冷ましているのだろう。青いもやも、馬の繋力とぶつかって打ち消しあったようで、もう見えない。


「悪い、米が俺らのにもこの子の荷にもなかったから、買いに行ってもいいか?」

「ああ、髪をちゃんと隠せよ。気をつけてな」


 ヨルザが髪を紐で団子にし、さらにそれを隠すための頭巾をつけ、少しの金を持って入り口を抜けていく。

 シニエは、自分の使い古した手ぬぐいを汲んだ水に濡らし固く絞って少女の額に乗せた。汗に濡れた前髪をかき分けようとした時、はたと気づいた。


「……よほど辛い目にあったんだな」

__泣いてるよ、こいつ。

呟きは、思ったよりも壁に反響して、よく響いた。

上げられるうちに上げておきます。

次回は、サキの夢です。

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