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8.私のために

この毒について全てを知りたい。

どこでつくられているのか、どのような性質があるのかをもっと知りたい。

だけど1番知りたいことは……お母様の死とグラシア家が関係しているのかだ。


確かに、いくら私がお母様のことを覚えているとはいえ、少なからず朧気に覚えているだけ。

鮮明に覚えているわけではない。


それでも、私はお母様のことが大好きだった。

お父様が言うには、痛い思いをしながらも、産んでくれた時、1番最初にお母様が見せたのは笑顔だったらしい。

そしてお母様が亡くなるまでの数ヶ月、お母様は忙しながらもいつも私のそばにいてくれた。


私が泣いた時、笑った時、転んでしまった時、初めて歩けた時、本当にいつも私のそばにいてくれた。


だからお母様が亡くなった時、私は多大なるショックを受けたのだろう。

産まれた時から数ヶ月間の記憶はあるのに、未だお母様が亡くなってから、物心がつくまでの記憶が無い。

いや、本当にないのだろうか?

もしかしたら、思い出したくないだけなのかもしれない。


その真実に少しでも近づくためにも、今すぐにこの目の前にいる男から全てを吐き出させる。


「おい……〜をして〜……」

誰かの声が聞こえる。

誰なのか、何を話しているのか分からない。

ただ一つだけ分かることは、この男……ランの元へ歩いて行く私を引き止めているのだろうということ。


それでも私は、歩みを止めない。

止められない。

意識的ではない、本能的に動いているから。

この男から全てを聞き出そうと。


「止まれ!何をしている!?」

思いきり腕を掴まれ、ようやくナルの耳に騎士の声が聞こえるようになる。

ゆっくり振り返るナルの顔は、まるで能面をつけているのかと間違えそうなほど冷徹な顔。

そしてその瞳は、心の中を全て見透かされているのかと不安になるような瞳。


実践訓練を積んでいる一国の騎士ですら、一瞬怯むほどだった。

ただ、さすがは騎士。

その動揺を一瞬にして顔から消し、キリッとした顔に切り替える。


「少し、この人と話したいことがあるの」

「ダメだ、この男は持ってはいけないものを持っている。君も近づけば何をされるか分からない」


その屈強な腕で掴まれているナルは、その細い腕で振り払うことなど不可能だった。

ただ、その時──

「おい、この顔、見たことがあるぞ」


騎士の1人が口を開く。


「確か……貴族間で噂になっている、笑わない操り人形のナル・レ・フォルンだ」

「笑わない操り人形?」


「いつも笑わないで、能面を被っているように冷徹な顔をしているところからつけられた二つ名ようなものらしい」


よくもまぁ、そのような話を本人の前で話せるわね。

……間違ってはいないけど。

その時、先程まで死んだかのように止まっていた影が動く。


「……ナル……フォルン?」

寝そべって背中を押さえつけられているランは、その血のついた顔だけゆっくりと上げ、ナルと視線を合わせる。

視線が合った瞬間、ランはニィッと口角を上げる。


「ナル……いや、ナル様!あの時は私が間違っていた!一瞬の気の迷いだったのだ!……」


ここぞとばかりに命乞いをするラン。

ただ騎士たちはランが私に対して敬称を使っていることに疑問を抱いていた。


「なんで敬称を使っているんだ?」

「そういえばグラシア家って爵位が降格したんだろ?それで伯爵よりも下の位になったんだろ」


都合のいい解釈をしてくれて助かった。


さて……あとはこの()()をどうしようか。


「ナル嬢!」

聞き覚えのある声が、どこからか聞こえてくる。

誰かは一瞬にして分かった。

私をそう呼ぶ人は、あの家の人たちしかいない。


「……カイル様」

振り返るとそこには、急いだ様子で執事と駆けてくるカイルの姿があった。

それに安心したのか、ナルはランを蹴り飛ばそうとした足を静かにしまう。


「あとは私たちに任せてくれ」

「……頼みます。あと……いえ、何でもありません。」


グラシア家とお母様のことについて調べてほしいと言おうと思ったけど、お母様のことを知る人は少ない。

もちろん、カイル様も知らない。

それに言ったとしても、ただでさえ忙しいカイル様に更に重荷を乗せてしまうだろう。


ようやく冷静になったナルは、慎重に頭を回すことができるようになっていた。


今でもこの毒について、お母様の死について、殺した人について、知りたいことは山ほどある。

ただ……それは今ではなくてもいいのかもしれない。


それに、お父様も言っていた。

お母様は私に自分のことをあまり引っ張らないで生きて欲しいと。

それでもいつかは、この真実に辿り着きたい。

それがお母様のためではなかったとしたら、私のために。


全てがひと段落着いたら、きっと。

私は、私のために、事件の真相を知ろう──────

この作品を読んでいただき、ありがとうございます!

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