表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

7.因縁と敵討ち

「ガーフ様」


影が短くなっていく中、ナルは中庭の手入れをしていたガーフに話しかけていた。

何を話そうかは、決めていない。

ただなんとなく、話したいと思った気持ちを貫こうとしていた。


「この屋敷の中では、敬称は要らんのだがね」


ゆっくりと立ち上がってくるガーフの背丈は、ナルにとって普通の身長よりも高く見えた。


「なにか用が……?」

まだ用件を伝えられていないガーフは、ナルに用件を尋ねる。

ただ、まだ何を話そうか決めていなかったナルは、少し間を置いてから口を開く。


「街に……出かけに行ってもよろしいですか?」

咄嗟に出てきた用とは、ただ出かけるということだった。……少し安直すぎたかしら?


本当は出かけに行くと言っても、特にしたいことはない。それでも何となく、街に出てみたいと思った。


街に出てから、今こう思った気持ちは、神様にでも操られているのかと感じた──


◇◇◇


──ガラガラガラ

街に出てみたが、何年間か過ごしてきたこの街はいつもと変わらない。

お祭りでもないのに、あちらこちらに屋台を開くものや、馬車をひいて通りを過ぎる貴族。


毎日のように開かれる屋台でも、毎回人が集まっているのだから、それなりに活気のついた国なのは確かだ。


……フォルティア王国も、もっと活気づいてくれると良いのだけれど……まぁ、それは今の私にできることは少ないし、また今度考えよう。


「……〜……!!」

その時、どこからともなく叫び声……いや、これは嘆きが混じっている。

嘆きは怒りよりも恐ろしいと私は思っている。

嘆く時の心の強さは、怒りの感情よりも強いと考えているから。


「……少し、様子を見るだけ」

そう自分に言い聞かせ、声のする方向へと気持ち足早にして向かう。

もしこれで殺人騒動にでも発展したら、目覚めが悪いし。



「離せ!離せって言ってるんだよ!!」

近づくにつれてはっきりと聞こえてくる声は、聞き覚えのある声だった。

それもつい最近聞いたことのある声。


大事に発展しないようにと来たけれど、既に街を巡回していた騎士の人達が居た。

そしてその騎士たちに抑えつけられている人間は……


「いい加減にしないと、お前らなんてすぐに潰せるんだぞ!」


「確かに公爵家だったら可能かもですが……もうあなたの家の爵位は下がっているのです。貴族で、しかも小さな子供でもないのですから、いい加減に現実を受け止めて下さい」


そう、騎士に押さえつけられていたのは、私をグラシア家から追い出したラン・フォン・グラシアだった。怒鳴りつけるようなラン様……いや、ランの言葉に対して、泣いた子供をあやすかのような声色で騎士の人は話しかける。


私を追い出して、国王から忠告を受けたのものだと思ったけど……まさか、爵位まで下げられていたとは。

グラシア家はそこそこ長続きしていた公爵家だったはず……この1人のせいでグラシア家の、歴史に亀裂が入ると思うと、なぜか私が先代の方達に申し訳なく思えてしまう。


「本当に……離してくれよ……」

さっきまでの怒鳴り声とはうって変わって、嗚咽を漏らすかのように懇願する。


ただ、そこで私は気がついてしまった。

先程までは角度的に見えなかった、ランが右手で掴んでいる()()について。


「いくら貴族といえど、()()を持っておいて、逃がすことは出来ない。それはそちらも分かっているだろう?」

「………………」


問いに対しての沈黙、それはつまり肯定を示唆していた。


……ランが持っていたもの、それは()だった。

それもただの毒ではない、()()()()()()()()、お母様を殺した時に使われた毒とそっくりそのままだ。


……なぜ、一介の貴族がそれを持っている?

王女である私ですら、それを見たことはお母様が亡くなった時に1度見たきり。

中身の入っている物は、初めて見た。


それを、ランが持っている。

それはつまり、その毒とグラシア家になにか()()()()()()()()()()()


その毒は発売所、製造場所、原料生産場所、原料、そのいずれもが不明で、謎に包まれている毒。

私が産まれてくるよりも数十年前に、この毒が使われた、貴族の晩餐会があった。

それは大規模なテロで、国の重役が数十人と殺されたらしい。


それからこの毒はどこの国でも、大陸中、いや、世界中で使用、所持は厳禁だ。

もしそれが発覚したら、極刑で済めば良い方だろう。


考えは冷静。

至って冷静。

見た目も冷静。


ただ……なぜだろうか?

私の考えとは裏腹に、心の奥底からなにかが込み上げてくる。


この感情は……憎悪?なぜ今私の心に?

憎悪をグッとのみこみ、1度心も冷静になる。


ただ、私は今すぐに、ここで騎士に押さえつけられている男を尋問したい。


自分の手で拷問してでも、全てを吐き出させたい。


少なくとも、その毒について知っていることは、全て吐き出させたい。



全ては最愛のお母様を殺して、最愛のお父様を今現在まで悲しませている、その小瓶の中身について知るために。


その毒をどのように使おうとしたのかは、気にならない。


私に使おうとしていることは、分かっているから。


ただ今は、この感情のままに体を任せたい、このまま、お母様の仇をうちたい、その一心だった──────

この作品を読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければブクマや評価、感想をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ