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5.過去と今を結ぶ糸

区切りが良かったので今話は1700字弱になっていますが、次回からはまた2000字前後に戻す予定です。

カイル様に屋敷内を案内された後、私は最後に案内された自室のベッドに横たわり、今日起きた出来事を整理していた。


突然の婚約破棄、そしてセントリア家への招待、

今思えば、とても1日の出来事だとは思えないほど、濃い1日だった。


そういえば……ガーフ様と初めて会った時、私の正体を知って尚、「貴族の娘方だったとは……」と言っていたのは、どうしてなのだろうか?


確かに初めてあの部屋に入った時、ガーフ様はあたかも私の正体を知らないかのように話しかけてきた。

ただ、今思えば疑問が残る。

だって、あの時には既に、ガーフ様は私の正体を知っていて、それでカイル様に私を探させたのでは……?


「まぁ……今そのようなことを考えても、結論は出せないでしょうし、大人しく寝ておきましょう」


流石のナルも、この少ない情報からそれを導き出すことは難しいようだった。

ひとまず考えを放棄したナルは、ゆっくりと意識を閉じていく。


最後に頭の中に浮かんだのは、なぜだろうか……?

それは、カイル・セントリアの美麗なる笑顔だった────


◇◇◇


ナルの夢の中



暗く広い空間の中で、私は過去を思い出していた。

……私が産まれた後、すぐにお母様は亡くなってしまっまた。

珍しいことだが、私は生後1ヶ月の時に亡くなったお母様の姿を、今でも鮮明に覚えている。


そう……鮮明に覚えている。

お母様が最期に言った言葉、


『人は選びなさい』


その言葉は、当時幼かった私には、理解できなかった。だが、その言葉の真実は、私が15をむかえた時に教えてもらうことになる。


その真実……それは、()()()()()()()()ということ。

……毒殺だったらしい。

それも巧妙に企てられた、日に日に衰弱していくようにできた毒で、毒を発見した時には既に手遅れだった。


ただ確実に、お母様は『人を信じるな』ではなく、『人を選べ』と言った。

それは、世の中そういう人だけではなく、お父様のような人もいる、つまりは世の中には悪い人だけではない、良い人もいるという意味を込めた言葉だったのだろう。



そこからナルは、人を見定めるようになった。

目の前の人の口調、佇まい、僅かな動作、日が経つにつれ、そこからこの人はどのような人かを大体感じ取れるようになっていた。


ナルは情報から結論を出す能力に優れている。

そう、皮肉なことに、それを手に入れるきっかけになるのは、とても思い出したくもない、苦く、そして悲しみに溢れた過去だった。


◇◇◇


「ん〜……」

欠伸をしながら、両手を交差させて大きく伸びる。

……何か、懐かしい夢を見ていたような気がする。

とても良いとは言えないが、そのことを忘れてはいけないような、大事な夢。


「どんな夢だったかしら……?」


──コンコン

その思考を遮るように、ナルの部屋の扉から伝わるノックの音が、部屋中に響き渡る。


「……はい」

「お食事をお持ちしました」


昨夜伝えられたが、セントリア家は貴族の中では珍しく、夕食以外は各自でとるようだった。

昨夜カイル様にどこで食べるか聞かれたので、自室で食べると言ったけど……本当に部屋まで運んできてくれるのね。


ナルは、グラシア家にいた頃は自分で食事を取りに行き、自室に運んで食べていた。

それも全て、グラシア家当主が滅多に帰ってこないことをいいことに、ラン・フォン・グラシアが指示したことだった。


ナルも、正直扱いが酷すぎると思っていたが、グラシア家を追い出されたら行く宛てがないため、渋々従っていた。


だが、今は違う。

たとえ1人で食事をとっていようとしても、心にぽっかり空いてしまっていた穴は塞がっている。

その1つの穴が塞がるだけで、ナルの気持ちは大分和らいでいた──


◇◇◇


食事をとった後、私は今日もまた、中庭へと歩みを進めていた。

だが、そこに映る景色は、昨日とは違った景色だった。


そこに映し出されていたのは、汗をかきながらも必死に草や花の手入れ、魚の餌やりなどを丁寧に行っているガーフ様の姿。

その腕は職人のようで、庭師でも真似出来ないほどの技術を持っていた。


この技術を得るために、どれだけの月日をかけたのだろうか……それは、私には到底想像ができないことだった──────

この作品を読んでいただき、ありがとうございます!

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