4.自慢の父上
「あ……」
私はカイル様に連れてこられた理由を2人に尋ねた。
しかしその時、2人はさっぱり忘れていた様子で間抜けな声を出していた。
だが、そのすぐ後、ガーフは頭をポリポリと掻きながら話し始める。
「ナル嬢……いや、ナル様と言った方がいいか……?」
その時、私が王女として暮らしていた時の呼び方をされ、私はすぐに警戒する。
だが2人は何も様子を変えず、「そんなに警戒しないでくれ」と言いながら、話の続きを話し始める。
「実は私は、君の父と知り合いでね。先程グラシア公爵家を追放されただろう?それを聞きつけた君の父が娘を匿ってくれと……」
ガーフ様の言いたいことは概ね理解できた。
つまりは、私のお父様が、追放された私を匿うところが無くなって、ここセントリア公爵家で私を匿って欲しいと頼んだのだろう。
ただ……1つ、疑問点が残る。
「情報が回るのが、早すぎませんか?」
「君の父のことだ、むしろ遅かった方だろう。」
その返答で、我ながら意味がわからないほど納得してしまった。
私のお父様は、私のことを溺愛してくださっている。
というか、自分の子供を……の方が正しい。
次期国王になる人、つまりは私のお兄様のことも、お父様は溺愛している。
お父様は家族を溺愛している……だが、私が産まれてくる時、私と引き換えにお母様は亡くなった。
だから、お父様は私に対して過保護だ。
……しつこいくらいに、ね。
まぁ、確かにガーフ様達が言うことは何も矛盾していないし、お父様と知り合いということも嘘ではなさそう。
「つまり、私はここに住んでもよろしいのですか?」
『あぁ、歓迎するよ』
「おっと……」と言いながら、同時に同じ言葉を喋った2人は目を合わせる。
親子を感じさせながら、人の良さが滲み出てる2人に、思わず私は笑みをこぼした──
◇◇◇
──コツ、コツ、コツ
ガーフ様の部屋を出た後、私はカイル様に屋敷の中を案内してもらっていた。
『こんにちは〜』
「こんにちは」
屋敷の中の人達は、誰も彼も人当たりが良く、とても居心地のいい所だった。
だが、このセントリア家の人達はメイドも執事も全員家族を失っていて、私のようにガーフ様に匿われている人達らしい。
屋敷の中の人達はセントリア家に忠誠を誓っている。
だから、この屋敷の中にいる人たちは全員私の正体を知っているらしい。
もちろん、私のお父様も承諾済みだ。
つまり、私はありのままの自分で居られる。
冷徹無比なナル・レ・フォルンとしてではなく、
一国の王女、ナル・レ・フォルティアとして。
「ここが、この屋敷で私の1番好きな所だ」
そう言って、カイル様は中庭を指さす。
ここに来るまで、色々な場所を案内されてきたが、こんなにも綺麗なところは初めてだった。
元気に育っている深々な緑、とても澄んでいて色のない透明な水が溜まる池。
そこを楽しそうに泳ぐ魚達。
山奥かと感じるほどの自然に、私の心は強く惹かれてしまっていた。
「ナル嬢も、綺麗だと思うかい?」
「……はい」
ナルは、あまりに綺麗な中庭と、ナルを王女と知って尚ナル嬢と呼んでくれたことに対しての驚きで、少し返事が遅れてしまう。
「こんなに綺麗なところ、私も他で見たことがないんだ。ここで働き出して何年も経っている彼らも相変わらず、仕事中だというのに見惚れてしまっているだろう?」
そう言いながら、カイルは箒や書類を手に持つメイドや執事のことを横目で見る。
「バレた」と言わんばかりに、中庭を見ていた人達はせっせと仕事に戻る。
「ここはね、私の父上が作ったんだ」
「ガーフ様が……?」
「あぁ、貴族だというのに、一から何まで、全て一人で作り上げたんだ」
自慢をするように、カイル様はガーフ様のことを誇らしげに語った。
こんなに綺麗な中庭、必ず毎日手入れされているはずだ。それを公爵家の当主としての仕事をこなしながら行っているなんて……ガーフ様がとても素晴らしい人だと知っているのに、更に素晴らしく感じる。
「僕も手伝うと言っているんだがね……昔から今まで、全部キッパリ断られているよ」
笑顔を見せながらカイル様は私にそう言う。
その笑顔だけで分かる。
カイル様がどれだけガーフ様を愛しているのかを。
「ガーフ様は、とても素晴らしい方なのですね」
考えていた言葉を、私は思わず口に出していた。
それに対して「あぁ、これまでも、これからも、私の自慢の父上だ」と、カイル様は目を瞑り、そして少し恥ずかしそうに笑いながら、その綺麗な水色の髪を触っていた─────
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