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2.噂とカイル・セントリア

「少し待ってくれ……」

その呼びかけに応えるように、ナルは歩みをとめてカイル・セントリアの美しく整った瞳と視線を合わせる。


「……私に、何か用かしら?」

驚いた……噂ではカイル・セントリアは人に興味は無かったはず、特に女性に対しては。


驚いても尚、ナルは平然を装うため、カイルから視線を外さずに表情も変えない。


「急で悪いのだが……少し我が家へ寄ってくれないか?」

「え……?」


突然の家への招き……まさか、私の正体がバレている?いや、そんなことはない……か。

それにしても、セントリア公爵家からの誘いは、受けておかないと色々と怪しまれてしまうだろう。

なら……


「えぇ、ちょうど今暇していたところなの」

「そうか?それなら良かった!」

とても人間と関わらない人間と思えないほど、カイル・セントリアは屈託のない笑顔を見せた。


噂と違う……これが特別な状況なのか、それとも噂が間違っているのか?


「噂なんて、あてにならないものね」

「なんか言ったかい?」

「いえ、何も」


グラシア家にいた頃だって、私には根も葉もない噂がいくつも立てられた。両手両足の指を使っても数え切れないほどに。

全く、この国の貴族は小さな子供同士の嫌がらせが好きなの?


そんなことを考えながら、ナルはセントリア家の馬車へと乗り込む。

その時、ナルはなぜかこの馬車にいつもと違う感じがした。


「これは……」

セントリア家の馬車は、見た目や素材こそ最高級の物を使っているものの、中は広くなく、3人でギリギリ乗れるかどうかの広さだった。

平民が乗る馬車では素材は質素だけど、5、6人は乗れたはずだ。


「狭いか?普段この馬車に乗るのは私達家族しかいないから、必要がなくてこんな広さになっているんだ」


「たしかに少し狭くはありますが……むしろ少人数の方が安心しますし、フカフカで座り心地が良いです」


「そう言ってくれると助かるよ」


やっぱり、何かおかしい。噂だと、カイル・セントリアは私よりも冷徹で無慈悲で、こんなに笑顔を見せてくれるなんて、聞いていない。

それに、よく誰かと話しているかのように、話し方もほかの貴族よりも数段上だ。


距離の詰め方も上手。いつの間にか、お互いに少し砕けた口調になっている。

それはつまり、私がカイル・セントリアと話す時に安心してしまっているということ。


なぜかは分からないが……この美しい顔の奥底には、何か深刻なことを抱えている、そんな感じがしてならない。


ラン・フォン・グラシアには一度も抱かなかった感情を、ナルは出会って間もないカイル・セントリアに抱いていた。

心配、という名の感情を──


◇◇◇


「さぁ、着いたよ」

その声と共に、ナルは窓の外へと目をやる。

そこに映し出されたのは、言葉だけで表すことが難しいほど、白と水色で構成されている屋敷だった。


「この色、珍しいだろう?」

私の心を読んだかのように、カイル・セントリアは私に問いかける。


「白と水色、この2色はこのセントリア家では大切な色でね」

「大切な色?」


「そう、髪って、神と同じ発音だから、神聖なものと言うだろう?セントリア家では代々、男の子が産まれたら水色の髪、女の子が産まれたら白色の髪を持って産まれてくるんだ」


「だから、セントリア家は代々白色と水色への思い入れが強いんだよ」と話し続けるカイル様は、どこか嬉しそうだった。


「外で話すと疲れし、そろそろ中に入ろう」

カイルの声に誘われるように、ナルはカイルの後を付いて行く。


その大きなドアを潜り、中に入る。

そこに居たのは、数人のメイドと執事だった。

その一人一人が、カイル様を信頼している様子で、振る舞いだけで忠誠心が高いことが分かる。


「信頼、されているのですね」

「屋敷の中では……なんだけどね」


セントリア家に生まれた者の宿命……なのだろうか。

(屋敷の外)では、周りからは避けられる、というか怖がられて、人間関係を築くのが難しいのだろう。


「屋敷の中だとしても、人の信頼を得ることは難しいことです」

「そうかい?それならありがたくその言葉を受け取らせてもらうよ」


シャンデリアに照らされる屋敷の中は、豪華さを感じる中に、どこか切なさを感じさせていた。

どこの部屋の入口を見ていても、どこからも活気というものを感じることが出来ない。

もしもこれがあの噂のせいだとするなら……


「少し対策を考えなければいけないかもしれません。」

「……?」


カイルには聞こえない程の小さな声で、ナルはそう呟いた。


だが、カイルはその噂をナルに感じさせない程に、普通の人間のように振舞っていた。

それがナルに()()()()()()()()なのか、それともただ普通に元からそういう人なのか……それはまだ分からない。


ただ1つ、ナルが確かなことだと言い切れることがあった。


「ナル嬢。とりあえず私の父の所へ行こう。

父上の許可なしに屋敷へ人を入れたとバレてしまったら、私が怒られてしまうからね。」


それは、本当に噂はあてにならない、

ということだった──────

この作品を読んでいただき、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
カイル様が意外と優しくてびっくりしました!噂とのギャップが面白くて、一気に好感が持てます。ナルも少しずつ心を開いていく感じが丁寧で、読んでいて温かい気持ちになりました。
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