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おやすみ前の短いお話

僕は平凡でいいのに

作者: 夕月ねむ
掲載日:2025/09/20

 僕の養い親は世界的な英雄だ。魔王を倒した勇者と聖女だという。両親は神の加護を受けて、人間の理というものを超越してしまったらしい。


 二人は二十代前半くらいの姿をしている。それが昔からずっと変わらないのだ。時々遊びに来る剣士と賢者も同じだ。年を取っていない。少なくとも見た目には。


 だからだろう。定住せずに引っ越してばかりいたのは。いつからか、僕と両親は親子には見えなくなった。一緒にいると兄や姉だと思われる。


 僕が成人し冒険者としてひとり立ちした時、父さんがペンダントをくれた。


「自分じゃどうにもならないくらい困ることがあったら、俺たちを呼べよ。ちゃんと『お父さんお母さん助けてー!』って叫ぶんだぞ?」

 そう言って、元勇者である父さんは魔王を討伐した時から変わらない姿で笑った。


 それがまあ、三年くらい前のことだ。

 そして僕は今、まさに『どうにもならない困った状況』に直面している。ワイバーンの群れから逃げて駆け込んだ洞窟が、フェンリルの巣だとは運がない。


 僕の隣では一緒に逃げてきた仲間が顔面蒼白でぐったりしている。今は岩の陰に隠れているけど、彼らを守れる誰かがいるとしたら、僕だけで。


 父さんに渡されたペンダントは、鑑定してみたら召喚の魔導具だった。『呼べ』というのは本当に『呼べ』だったのだ。『いつでも駆けつけてやる』ということだ。


 養い親からの愛情を感じる。感じはするんだ。でも……父さんの性格からして、召喚に必要な呪文は『アレ』だろう。


 僕は深々とため息をついた。大丈夫だ、死にはしない。ただ少し……いや、かなり、恥をかくだけで。


 僕は仲間たちに小声で言った。

「これからちょっと変なことをするけど、何も言わずにいてくれるか?」

「え? あ、あぁ……」


 呻くような声を承諾と判断して、僕は服の内側からペンダントを取り出して掲げた。どうせこれでだめなら僕らはフェンリルの腹の中だ。大きく息を吸って、叫んだ。


「お父さん、お母さん、助けてぇえ!!」

 もはや自暴自棄。顔は真っ赤である。しゃがみ込んでいた仲間が僕を見上げてドン引きしている。そりゃあそうだろうよ、幼児じゃあるまいし!


 案の定、僕の声に反応してフェンリルがうなり声を上げた。怖い怖い怖い……!


 ペンダントが光った。その光が真っ直ぐ伸びて、空中に魔法陣が浮かび上がる。やっぱりか。もう少しマシな言葉を設定してくれよ。


 魔法陣から人影が飛び出してきた。大剣を背負った父さんと、聖杖を抱えた母さんだ。


「呼ぶのが遅い!!」

 父さんに怒鳴られて思わず怒鳴り返した。

「無茶言うなよ! いい年した男が躊躇いなく言える言葉じゃないだろ!!」


「躊躇っていられる状況か!?」

「状況なんて、なんで知ってんの!?」

「見りゃわかるだろうがよ!」


「何やってるのよ、フェンリル来るわよ!」

 結界を張った母さんの声に、父さんが剣を抜き放った。


 魔王を倒した勇者がフェンリルに勝てないはずがない。父さんは獰猛に笑って、あっという間に一体目を屠った。仲間が先程とは別の意味でドン引きしている。


「誰……あの人」

「ええっと……僕の養い親というか……兄、みたいな?」

「え、アレ身内?」

「お前何者なの」

「僕はただの平凡な冒険者だよ……」

 少なくとも僕自身は、そうでありたいと思ってるよ……


「怪我を見せてくれるかしら?」

 母さんが僕と仲間にヒールをかけてくれた。流石は聖女様だ。治癒魔法の効果がすごい。


「終わったぞ」

 父さんが戻ってきた。ああもう、マジで瞬殺だったよ。けど……


「ええと、それは?」

「仔フェンリルだな」

 父さんは仔犬のような生き物の首の後ろを掴んでぶら下げていた。うわぁ、足が太い。いかにも大きくなりそうだ。


 そうか、さっきのフェンリルたちはこいつの親だったのか……


「どうすんの、それ」

「うまく育てれば良い従魔になる。お前が要らなくても売ればかなりの値がつくはずだ」


 父さんは「育ててみるか」と僕に仔フェンリルを差し出した。

 それはもふもふしていて、仔犬にしては大きいけれど、フェンリルだと思えば随分と小かった。


 こいつはたった今、親を失った。それも突然巣に侵入してきた人間によって。僕は仔フェンリルに触れることを躊躇した。


「……僕には無理だよ」

 従魔になると言われても、罪悪感が消えないだろう。

「そうか。じゃあ、適当な相手に譲るが、構わないな?」

「うん」


「そんな顔するな。この洞窟、奥に布の切れ端や錆びた武具があった。意味はわかるだろ?」

「……わかる」


 父さんが仔フェンリルを誰に渡すかは知らない。けど、その人がこいつを可愛がって大事にしてくれたらいいと思った。







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