第三十話 無礼な来客
投稿が遅れて申し訳ございません。
今回は短めですがよろしくお願いします。
――ホゥ、ホゥ
梟の鳴き声で目が覚める。窓掛けの間から差し込む光が目に眩しい。幾日か柔らかいベッドで眠ったことで、旅の疲れは癒えてきたものの、それでもまだ本調子には遠く、身体が重い。学院都市へ着いてからも、来たる魔法使いとの戦いに備えての情報収集や作戦立案、次の旅への物品補充。
これだけでも大変なのに、空いた時間には修行をしているためあまり休める時間はないからだ。
正直、過剰労働気味なのは否めない。
が、孤児院で朝から晩まで勉学や雑務で一日中働いていた自分としては、あまり悪い気分ではなかった。
むしろ、神官として出世し宮殿で働いていた時は雑務をしなくて良くなった分、時間を持て余して気持ち悪く感じていたくらいだ。
「行くか」
疲れが残る身体に鞭打って、毛布を抜け出し服を着替える。早朝ということもあってまだ気温が低いと思ったが、部屋の中は驚くほど暖かい。
アリスが誇る高級宿屋ということもあって、どんな季節、どんな天候、どんな時間帯であっても、居住者が過ごしやすいように室温を調整してくれているとのことだ。
何日も泊まっているはずなのに、いまだに慣れない自分に苦笑しながら身支度を整えていく。
髪を整え、顔を洗う頃にはわずかに残っていた眠気は吹き飛んでいた。
そして、そのままいくつかの食材を持って台所へ向かう。宿屋ではあるが、料理好きな客の要望にも応えるために台所も完備されている。別に自分自身は特段料理が好きということはないが、孤児院で幼い子供たちに料理を作っていた習慣は中々抜けない。
特に朝は、習慣がないとむしろ調子が悪くなってしまうほどだった。
深鍋に水と調味料、あらかじめ切ってあった肉と野菜を入れて煮込んでいく。
灰汁を取りながら弱火で煮込むと、肉と野菜が柔らかくなっていく。試しにナイフを刺しこむと特に力を入れずとも、切れ込みが入ってほろほろと崩れていった。
十分に火が通っている証拠だ。一口分のスープをすくい、味見をする。うん、悪くない。
「おはようございます」
「おう、ウィルか。すまん、起こしたか?」
「いえ、大丈夫です。僕も手伝います」
「いや、いい。朝早いし、まだ眠いだろ?」
「いえ、目も覚めましたしスネイルさんこそあまり眠れていないでしょう?顔が青白いです。休んでいてください」
「お前に言われたかねーよ。ま、お前頑固だしここは手伝ってもらうか。卵を焼いてくれ」
「はい!」
頼られたことが嬉しかったのか、笑顔でウィルが卵を取り出していく。次に鉄鍋を用意し、そこに卵と少量の調味料を入れ、ある程度火が通ったら蓋をして蒸していく。あとはこのまま時間を待って火からあげれば完成だ。
だが、卵料理というのは単純そうに見えて奥が深い。火にかける時間が短すぎれば食べられず、かといってかけすぎれば硬くなってしまう。
これをどれだけ上手くできるかで料理人の腕が分かるといっても過言じゃない。
ウィルはじっと待っている。
瞬き一つせず、ただじっと。互いに無言になり、パチパチと火がはぜる音だけが響いた。そして――
「できた!」
「合格だ」
出来上がったのは見事な半熟だ。食べずとも、卵の輝きで上手く焼けていることは一目瞭然だった。
上手くなったものだ。
元々、両親を亡くし一人暮らしだったということもあって、料理ができないわけではなかったが、味に無頓着過ぎて作る料理は良くも悪くも普通だった。
だが、少しでもルナに美味い料理を食べさせたいと思うようになったとのことで、料理を教えるようになった。そしてその中で少しずつ研鑽を積み、料理の腕は格段に上がっていった。
「……ぁよう」
「ルナ、おはよう」
それからウィルと一緒に野菜を刻んだり、パンを焼いているとルナが眠たそうに瞼を擦りながら現れた。夜遅くまで修行していたのか顔が青白い。
また、普段は美しく整えられている髪はあらゆる方向に好き放題に跳ねている。
片手には毛布を持ち、服は白い寝巻きのままでベッドから身支度を何もせずに来たのは明白だった。
仮にも男二人がいる場所にその格好はどうかと思ったが、この勇者は十四にもかかわらず情緒が子供のままから抜け出せていないことは、先日のウィルとの喧嘩からも分かっていたことだった。
ウィルがルナに駆け寄り、身支度をさせに説得するという普段の旅とあまり変わらない光景を見ながら、時間はゆっくりと過ぎていく……はずだった。
「ウィル殿。ご足労頂けますか?」
朝の食卓を囲み、今から食べようというそんな時。
そこに黒衣の男が一人ひっそりと影のように佇んでいた。
服はヨレヨレ。
髪はボサボサで清潔感がなく、その表情には覇気がない。
だというのに、その瞳だけはやけに鋭く、猟犬のように輝いて見えていた。
確か、名前は……
「セラムさん、でしたか?魔法警備隊の隊長の」
「元、とつけて下さい。つい昨日隊長職を解任されました。今はただの平隊員です」
セラムはそう言うが、全くこたえている様子がない。
あまり出世などに興味がある人間ではないのだろう。
それよりも気になるのが。
「どうしてここに?先日の誘拐事件の件でしたら、もうウィルへの取り調べは済んでいるはずです」
「その件で進展がありまして。誘拐事件の主犯格であるルシウスの意識が回復しました。尋問を開始したのですが、一向に口を割らないのです。最後の手段として、仲間を人質にするとようやく口を開いたのですが、その条件というのがウィル殿と一対一で会話できるならば答えるという奇妙なものでして」
仲間を人質に、とさらりと言っているのが恐ろしいとこの男は気づいているのだろうか。
セラムはウィルを見つめている。
「そのため、捜査にご協力いただけないか、と」
「駄目」
セラムの言葉を遮るようにルナが口を開いた。
そしてそのままウィルの腕を抱きしめる。
「誘拐犯なんでしょ?どんなことをしてくるのか分からないのにウィルと一対一で合わせるなんて駄目」
「ルシウスには拘束具をつけています。奴には何も」
「駄目ったら駄目!」
とりつく島もない。
駄々っ子のようだが、それゆえに説得することは難しい。
おまけに聖剣の力と魔力によって身体能力を強化しているため無理に引き剥がすこともできない。
どうしたものか、と思案していると突然セラムが膝をおり、両手を地面につけた。
「先日のことも含め、無礼は百も承知です。ですが、奴にはこれまで誘拐してきた子供達の行方を聞かなければなりません。今も子を失った親は悲しみに暮れています。一警部隊員としてではなく、同じ子を持つ親として、どうか。どうか、お願いします……!」
「!……」
ギリ、と苦虫を噛み潰したような表情でルナはセラムを睨みつける。
「ルナ。僕からもお願い」
「ウィル……でも」
「俺が行く」
「スネイルさん?」
俺の言葉にウィルが驚いたように声をあげた。
「会うのは一対一でも、監視部屋の外に俺が居れば援護できるし、最悪治療もできる。俺が行くなら、問題はないだろ」
「待って。なら、私も」
「お前は駄目だ」
「どうして!?」
「お前、昨日も碌に寝ずに無茶な修行したな?」
「そ、それは……」
「身体が伸び盛りのこの時期に過度な修行はかえって逆効果って言っただろ。リリィに負けて焦る気持ちは分かるが、休むことも必要だ。何より、いつも気を張っていると、いざって時に戦えねえ。今日は大人しく休むか、気晴らしにどこか遊びに行ってこい」
「っ……」
「ルナ。僕なら大丈夫。スネイルさんもいるし、警備隊の人たちだって守ってくれるよ。それに、誘拐されたまま行方不明になっている子供達を助けないと。だからルナは休んでいて」
「……勝手にしなよ」
ルナが部屋を出て行く。
せめて朝食だけでも食べさせたかったが、そんな雰囲気ではとうになくなっていた
後には、俺たちだけが残った。
「それではいきましょうか」
気まずい雰囲気の中、セラムは空気を読まずにそう言った。
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