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勇者の友達  作者: パン太
聖都 アネスト
13/25

第十三話 決着

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「スネイル、あんた……!」


 先生が驚愕していた。

 それもそうだ。

 何せ、黒焦げになりもう死にかけだったはずの男が傷一つもなく生きているのだから。


「……」


 指が動く、腕が動く、足が動く。

 これならば大丈夫だ、また戦える。


「行ってきます。先生は、アンナを頼みます」


 先生は新たにやってきた魔族たちから俺たちを守るためにここまで移動してくれていた。

 もう体力も、魔力も完全に底を尽きているだろう。

 次にアンナを見る。アンナはイルゾーストの魔法が切れたためかやはり、ピクリとも動かない。いや、それだけではなかった。アンナの身体は色を失った硝子のように色素が薄くなり、光の粒となって少しずつ消滅していっていた。まるで魔石を抜かれた魔族のようだった。

 

 自分が行けば、またアンナを一人にしてしまうだけじゃない。もう二度と会えなくなるかもしれない。

 本音を言えば、アンナの側に居たかった。自分が行ったところで、新たな魔族には敵わないだろう。勇者の力にもなれないかもしれない。

 

 けれど、それでも。


「アンナ、行ってくる」


 故郷を守るため、馬鹿なアイツを助けるために走る。

 その背を見つめるアンナがなぜか、微笑んでくれた気がした。










「貴様、イルゾーストの話していた神官だな。だが、今さら非戦闘職の神官が一人増えた程度で何ができる」

「お前、馬鹿だろ」


 スネイルさんがソールを挑発する。

 その言葉に、いつの間にかソールの横まで移動していたミナの額に青筋が浮かんだ。


「神官の仕事って言えば仲間の回復に決まってんだろうが!女神の極聖光」


 強い、けれど暖かな光が僕とルナを包む。まるで陽光に包まれているような暖かさだった。

 欠損した指がむず痒くなり、ボコボコと音を立て、そして――


「これ、は……」


 指が、切り落とされた指が元に戻っている。

 それだけじゃない。

 ルナの欠損した腕もまた、元通りに回復していた。


「馬鹿な、欠損した四肢の回復だと……?教皇クラスの奇跡をこんな奴が」


 ソールもその凄まじい奇跡の効果に驚愕の表情を浮かべ、スネイルさんを睨みつけた。

 その表情にもはや、侮りはない。


「だが迂闊だな。回復職は後方にいるのがセオリーだ。優秀であれば尚更な、風烈剣!」

「女神の聖蛇炎」

「!?……」


 ソールの風の刃が空間ごと断つようにスネイルさんに襲いかかった。その攻撃がスネイルさんに届く寸前、炎の蛇が刃を絡めとり、ギリギリのところでそれを防いだ。

 スネイルさんはこうなると分かっていたとでもいうように眉一つ変えない。反対にソールの瞳は驚愕したように見開かれていた。それは味方である僕たちも同様だった。

 

 こんな奇跡、さっきは使用していなかったのに。

 いや、それだけじゃない。何だ、さっきまでのスネイルさんとはその身に纏う雰囲気がまるで違う。落ち着いているというか、超然としているというのか、どちらかというとアンナさんの纏うソレに近い。

 

 ――あれ?

 

 スネイルさんの側にアンナさんが立っていた。まるでスネイルさんを支えるように、力を与えるように。だけど、近くにいるスネイルさんも、ルナも、敵対するソールとミナも、誰も気づかない。


 どうして、誰も気づかないんだ……?

 

 不思議に思っていると、アンナさんが僕の視線に気づいたように振り返った。

 暫し無言で見つめ合う。

 そしてほんの少し。ほんの少しだけ、アンナさんの唇が、薄く弧を描いたと思うと、光の粒となって消えていった。


「中級の奇跡で俺の技を凌ぐか。面白い」

「ソール様は勇者の相手を。ここは私が」

「お呼びじゃねえよ、チビ」


 ソールの前に立ったミナに対し、スネイルさんが言った。

 その言葉に、ミナは頬を引き攣らせ、額に太い青筋を作った。

 

「……………………………………殺す、のです」

「これで役者は揃った、かな。決着をつけよう。ソール」

「ああ勇者よ。お前を倒し、俺は更なる武の高みへ昇る」


 四者四様の様相を見せながら、いよいよ戦いは決着を迎えようとしていた。









 すごい。


「雷鳴剣!」

「風烈剣!」


 雷が地へと降り注ぎ、それを遮るように風が逆巻く。雷と風が混ざり合い、小さな嵐が生まれてその場を飲み込んでいく。そしてその中心で、二人の剣士が刃を交え、火花を散らしていた。

 

 ルナは片腕が復活したとはいえ、気力・体力共にもう限界に近い。対するソールは片腕の制限がありながらもまだ余裕を保っていた。しかし、魔王からの不殺命令とルナの狂気じみた殺意で絶妙な均衡を保っていた。

 

 もし、この均衡が破れるとしたら、それはもう一つの戦いによるものだろう。


「熱よ、高まれ。収束し敵を貫け『火炎槍(ファイヤーランス)』!」

「女神の聖光杖!」


 ミナが短剣で何もない空間を切り裂く。その軌跡から槍を模った炎がが何本も放たれた。先ほど繰り出した火球とは威力・速度共に比べ物にならない。それをスネイルさんが光を纏った杖を回転させ、的確に捌いていった。それだけじゃない。捌くと同時に炎を繰り出し、逆にミナへと反撃した。ミナもまた、炎を纏った短剣で、スネイルさんの攻撃をかき消していく。両者は一歩も譲る様子がなく、こちらの戦いもまた、完全に拮抗していた。


 戦いの次元が違う。


 援護したいのに、何もできない。

 僕とは、能力(レベル)が違いすぎる。


「ぼさっとすんな、ウィル……!!!」

「!……スネイルさん」


 攻防の途中にも関わらず、僕を振り返りながらスネイルさんが声を上げた。

 

「お前はお前に出来ることをするんじゃなかったのか?」

「っ……はい!」


 そうだ。

 落ち込んでいる暇も、絶望している暇もない。今できることをやるんだ!

 でも、何をすれば……考えろ、考えろ!


 これまでの戦いを振り返りながら、今できることを必死で思考する。

 スネイルさんとの戦い、イルゾーストとの決着、ルナとソールの攻防、ミナに完封されたこと。

 一つ一つを反芻しながらこの戦いを決するヒントを必死で探していく。

 

 ――そうだ、これなら……!


 その希望を見つけるために、全力で駆け出した。


 


 

「ったく、何か掴んだみたいだな。世話かけさせやがって……っと!」

「余所見をするな、お前の相手は私です」

「お前に構ってる暇はねぇ。どけチビ」 

「!……一度ならず二度までも。訂正するのです。私はチビではありません。ただ他の者よりも成長に時間が必要なだけです」

「悲しいな。そう言うのを人はチビって言うんだよ」

「………………ブチ殺す、のです」


 攻撃の速度が増していく。短剣の銀の光が炎に照らされて赤く反射し、それが無数の軌跡を描いた。

 

 短剣の二刀流と魔法攻撃の併用。

 

 流れるような二刀の連撃だけでも脅威だというのに、時折混ぜられる魔法攻撃にも意識を割かなければならない分、厄介この上ない。しかも無闇に魔法を混ぜるのではなく、魔法への意識が薄くなった瞬間にだけ呪文を唱えたり、逆に呪文だけ唱えて魔法を使わずにフェイントとして利用するなど小さな頭に似合わず小賢しい戦い方をしてくる。

 

 恐らく、ソールと同様に能力(レベル)に依らず、武術の研鑽や戦いの経験を積んで力をつけているのだろう。

 こちらが非戦闘職ということを差し引いても、強い。今は対神官の経験が少ないのかやや動きがぎこちないこと、そして復活後の謎の能力進化(レベルアップ)によって何とか拮抗しているが、それもどこまで持つか。


「無駄だな!あんな口ばかりのガキに出来ることなど何もない!勇者よ、お前もそう思わないか?」

「……」

「実力もなく、努力もしない奴ほど口ばかりは達者と相場は決まっている。奴もそうだろう?」

「っ……それはどうかな?」


 ミナを振り切り、光杖をソールに叩きつけた。ソールは勇者の剣を振り払うと、杖を剣で防いだ。押し込もうとするが、ビクともしない。まるで根を張った巨大な樹木を相手にしているようだった。片腕で剣を握っているくせに押し込むどころか、押し返されそうだ。こんな化け物と隻腕でやり合っていたとか勇者もヤバすぎだろ。


「何だと?」

「確かにあいつは口が達者でムカつくし、無茶ばかりして手間もかかる。けどな」


 杖越しにニヤリと笑う。


「あいつは自分の実力不足を理解してもなお諦めずに喰らいつく根性がある。舐めてると、痛い目を見るぜ」


 それは、誰よりも俺が理解していることだから。



「ルナ!」


 そして今、希望が降り注ぐ。







「!?……させないのです!!!」

「邪魔させねぇ!『女神の蛇炎』」


ソレを撃ち落とそうとしたミナの攻撃をスネイルさんが防いでくれた。

そして今、ソレは――イルゾーストの魔石はルナの元へと舞い降りた。


「ウィル、まさか本当に……」


 聖剣から光が溢れ出した。それはルナの身体へと入り込み、やがて大きな光となって全身を包み込んでいった。

 神々しさすら感じるほどに眩い光。それは、新たな力の発現の兆。


 能力進化(レベルアップ)


 魔王との戦いの後にルナに聞いたことがある。

 人類は、魔族や魔物と戦い、勝利することで崩れた彼らの体や魔石から霧散した魔素を吸収し、それを取り込むことで身体の成長とは比較にならないほどの能力の上昇が起きると。古の英雄たちは、そうやって魔族や魔物達を狩って強大な力を手にしてきた。

 本来、魔石から溢れる魔力は人類には毒であるため、普通の人間は摂取できる量に限界がある。しかし、勇者は違う。


 聖剣の力によって毒を中和し、純粋な魔力を吸収することで常人とは比べ物にならない力の上昇が可能になるのだと。


「ありがとう」


 聖剣から雷が迸る。今までの雷鳴剣とは比べ物にならない出力。雷すら滅するほどの光の剣。

 その名は――


「雷滅剣……!」


 雷が、ソールとミナに襲いかかった。








 眩い光と空気を揺らす音。そして地を揺らす衝撃にようやく慣れ始め、周囲を確認できるようになった。

 やったのか?








「……やってくれたな、貴様ら」

「ソール樣……腕が」


 !……信じられない。

 あれほどの雷撃でも二人は立っていた。

 ミナを庇うように抱えたソールの腕は焼け焦げてしばらくは使い物にならないだろうが、それ以外はほとんど無傷のままだ。


能力退化(レベルダウン)――解除」


 瞬間、先ほどのルナの能力進化(レベルアップ)すら遥かに凌ぐほどの爆発的な力の増大を感じた。まるで力そのものが渦を巻いてソールへ結集していくような感覚。見えない竜巻がソールを中心に展開していくようであった。

 単に能力(レベル)を元に戻した程度じゃない。

 これは……これは、なんだ?

 もはや立つことさえままならない。天が恐るように雷を降らし、地がソールを支えきれないとばかりに胎動していた。

 ソールが魔剣を前方に突き刺すように掲げる。剣が赤熱し、ナニカが解き放たれようとしていた。


「『真名解――』」


 ――ドォン!!!


 大きな衝撃音が響く。

 それと同時に、あの爆発的なまでの力の高まりが嘘のように止んでいた。


「……すまなかった。俺としたことが怒りで我を忘れてしまった。この勝負、俺の負けだ」

「!!!ソール様、そんなことは」

「使わないと誓ったはずの片腕を使い、あまつさえ能力退化(レベルダウン)まで解除してしまった。自ら課した誓いを破ったのだ。言い訳しようもない敗北だろう」

「違うのです!ソール様は私を庇って――」


 いい、と言わんばかりにミナの口をソールが手でそっと塞ぐ。


「敗者は大人しく退こう。だがその前に……お前たちの名を聞かせてくれ」


 剣を地面に突き刺し、姿勢を正す。

 潔いその姿勢は誇り高い武人か、偉大な王のようで。

 スネイルさんもその意気を汲んだのか、一歩前に出て名を告げる。


「スネイル。スネイル・サーペンティア。神官だ」

「……ルナ。ルナ・ライトロード。勇者」


 スネイルさんに倣って渋々といった様子でルナも名を告げる。

 ライトロード……?

 ルナに家名があるということは貴族なのだろうか。

 スネイルさんは孤児ということだから、神官として出世した際の箔付で姓をもらったのかもしれないが、ルナもそうなのだろうか。いや、文字の読み書きや植物の頒布場所の知識、剣術の腕前など貴族と考えれば色々と合点がいくのも事実だ。

 それにライトロードという名前もどこかで……


「貴様は?」


 ソールが僕にも聞いてくる。

 それが意外で答えに一瞬詰まってしまうが、意を決して前に出た。恐怖ではなく、覚悟を抱きながら。


「僕はウィル。家名はない。特殊な職能(ジョブ)もない。僕は――僕は、勇者の友達だ」

「……そうか」


 僕の答えにソールは一瞬、何かを思い出すように目を閉じた。

 そして目を開き、告げる。


「こいつは従者のミナ。そして、俺は――俺は、七魔第二柱、剣魔ソール。いずれ魔王となる男。いずれまた会うその日まで、研鑽を積んでおけ」



 風が吹く。

 そして次の瞬間には、二人の姿はどこにもなかった。

 こうして七魔二柱の襲撃は終わりを告げたのだった。


※ミナ

 七魔第二柱ソールの副官。基本的に七魔は個人の軍の所有を認められていないため、彼女が個人的にソールの右腕を主張している。小柄であるため、膂力はないがソールに鍛えられた武術と他の七魔から教わった魔法を使い、魔王軍の中でも頭角を表し始めている。普段は冷静沈着だが、敬愛するソールを侮辱されたり、身長のことを指摘されると途端に激怒するため、軍内部でこの二つは禁句とされている。

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