8 無音も、また音なり
夕方ではあるが、日が暮れるのは早くなってきていた。そして、誰もいない。
周りは、人の管理がされなくなった山奥の、向かうのは廃旅館である。
誰もいない細い通路を歩いていく。
曲がり角の先には何があるか分からない。
わからないことが怖いのか・・・。
その先へと、スマホのライトを頼りに歩いて行く。
繁盛していた当時は、ここを観光バスが何台も往復したのだろうか。
今では背丈まで伸びた雑草が道路の左右から、遠慮もなく伸び放題だ。
所々、アスファルトの割れ目から雑草が顔を出している。
満月の明かりに、目が慣れたのだろう。
いろんなもののシルエットは、わかるようになってきた。
崖上から落ちてきたのであろう、小石も散在している。
まったく手入れされることなく、放置されているのがわかる。
どのくらい歩いたか、廃旅館へ到着した。
一応は、わきまえているので、中へ潜入することはしない。
周囲から、ぐるりと見て回ることにする。
入口は木の板で封鎖されて、その上から落書きがされている。
その脇には、黒板が用意されていた。
『歓迎 ○○○様 御一行』と書かれている。団体客で当時は賑わっていたようだ。
当時の賑わいが想像出来て、その寂れた今とのギャップは、怖さよりも侘びしさが感じられる。
はたして、この侘びしさ、寂しいという感情は、怖さを邪魔しないだろうか。
今回の発注は、恐怖の演出であるので、この感情は割愛すべきか。
今気が付くが、全部分析しようとすると、あまり怖さは感じないものなんだな。
二階の窓ガラスは割られている。鳥が出入りしているのだろう。
じっと耳を澄ませて、ゲームのイメージと重ねてみる。
終電の時間もあるので、この辺で引き返すことに。
遠くから聞こえていた、車の往来の音も、夜遅くなると、聞こえなくなっていた。
無人駅で待つ間に、スマホに録音していた先ほどの環境音に耳を立てていた。
自宅に戻ると、忘れないうちに、簡単に打ち込んで、その日は就寝する。
それから数日かけて、イメージを固めながら打ち込みを進め、とりあえずの音が完成となる。
著作権は自分にあるとのことなので、怖気なイメージ画像と曲をセットにして動画にアップしてみた。
一応、発注先の小塚さんにも一言添えた上で、ご自身でも見てみるよ、との了承を取り付けたので、大丈夫だろう。
どんな反応があるかと、待つこと数日。
いろんな書き込みある中に、常連のアンチを見つける。
@ezweb.ne.jp
怖いと聞かされているから、怖いとは思う。
予備知識無かったら、微妙。
@tjmgtwm
恐怖ゲームは、所詮演出次第
しかし演出を殺すも生かすもサウンド
@586まな
good
@ハムスター1919
予定調和だから、それなり
予定に無いことをされるから怖い
やり直し
@userw w w
お前も予定に無い
@ハムスター1919
今までの書き込み、私じゃありません。
こんなの私のメッセージじゃない。
主さんパソコン関係のこと詳しいって言ってたから
きっと自分で書き込んだのよね? きっとそうよね。
?
ね。
ねぇ。
でんわ でろ
スマホの着信を確認する!
誰からも着信は無い。
・・・くっそ。
予定される恐怖は、恐怖を感じないか。
ん~~、まぁ正論か。ムカつく。
それからしばらく経ち、DMが届く。
恐怖でしかなかった。
送ってきたのは、アンチの奴だ。
中を読むのも怖い。
恐怖を作ろうとする中で、恐怖を感じさせる外野のアンチに、徐々に腹が立ってきた。
音を手伝ってやるという内容だった。
こいつのどこに、音のなんたるかがわかるのか。
こいつ、何者? ずいぶん上から目線じゃねーか。
「チキンを自称するなら、忘れてくれ」
挑発されて、無視するのもイラつく。
一度、直接バチコーン!してやるか。手は出さないけど。
粘着するなら、他所でやれ。
表、出ろ!みたいな事を書いて返信する。
すぐに、返ってくるDM。中身は、
『上等♪ 』
後日、とあるイベントに参加するように指示を受ける。
とある日、呼ばれたイベントに行ってみることにした。
やられないように仲間を呼ぼうかとも思ったが、コミュ障がイベント行こうぜなんて、言えるわけがない。
第一、仲間を連れて行こうものなら、昭和の映画のカチコミと変わらないし、チキンと思われるのも腹が立つ。
とあるライブ会場に到着すると、指定された場所にいる人間に声をかけるように言われていた。
そこでは何人か集まって打ち合わせのようなことをしていた。
コミュ障に声をかけさせるつもりかと思ったが、意外にも簡単に解決する。
「お、チキンか? ちょっと待っててくれ」
声をかけてきたのは、細ヒョロな男だ。お前こそチキン食えと思うくらいモヤシのような奴だ。
こいつらは、楽器やれるのか。
楽器が出来ない自分が見ると、まぁ、つまりはカッコイイな、腹が立つ。
「このバンドのアレンジやってんのよ。自分が演奏はしないけど、終わるまで見てってよ」