6 クラシックの利点
基本的な概要は、小塚さんから説明を受ける。
「じつは、面白い仕掛けを考えていてね。
最初は、3和音のファミコン風、次にスーファミ風、最後だけフルオーケストラみたいに出来ないかな?」
なるほど、徐々にエンジンを回していく感じですね。
「鳴る音に制約をあえて設けるんだけど、メモリの制約は無いから、無理にループさせる必要はないよ」
その上で、ストーリーやキャラクターの説明を受ける。
「ちょっとプレイしてみない?」
さっそくゲームシステムを聞いて、プレしてみる。
普段は、職場ではラジオが流れているらしいが、この時だけ止めてもらう。
「わぁ、本格的だね」
「じゃあ、やってみます。途中で、会話が入って構わないので、都度イメージを聞かせて下さいね」
ゲームをスタートさせると、謎解きホラーかな。全体的に暗く、犯人を追い詰めるテイのゲームだ。
シナリオは、主人公がある古いゲーム機のスイッチを入れるところから、始まる。
「なるほど、このあたりは3和音でってことですね?」
「そうだね、ゲーム機がメインテーマでもあるので、それに合わせた音が欲しい。
でも、逆に制約があるから、今の我々からするとむしろ難しいところかもね。ファミコン風に聞こえればいいので、ガチガチに3和音ってわけじゃないよ」
「当時の人は凄いですわね。あんな冗談みたいなメモリで」
ほかには、なぜホラーなのかと言えば、一定の需要がある。ホラーは、開発スペックよりシナリオで勝負出来る。
驚かす系ではなくて、あとで気が付いた時に、背中をゾクッとさせたい
目立つとこに力を入れて、他は暗くして、人的、時間的リソースを節約する
3和音は、遠くで鳴っていると、聞き慣れない今の世代は少し怖く感じる
途中まで音や色数を少なくして、解決したらフルカラー、フルオーケストラで差別化させたい、などを聞いた。
戦わないバイオなハザードと、かまいたちのよる的なものをイメージしたらいいのかな。
一通り、ゲームをしてイメージしたものを二人に伝える。
効果音なんかは、フリー素材を加工で行ける。
他にも、鼻唄を歌ってみる。時々、お二人の鼻唄を聴いてみる。
あとで、ガッチャンコさせればいいかな。
鼻唄をスマホアプリにぶち込んで、即興で鳴らしてみた。
「うう〜ん、ここはもっと怖くしたい。導入部だからね。
怖いけど、見てみたい、先へ行ってみたいと思わせたいんだ。
最後のフルオケも楽しみだけど、この導入部で気持ちが入ってくれないと、最後のフル演奏まで来てくれない」
「なるほど、じゃあ、こんな感じで、少しスローで、強弱は弱め、後半で少し強めにメリハリをつけましょう。こんな感じで・・・」
スマホアプリでEQ調整して、近い領域でフラットまで各音を近づける。
「ああ、なんかイメージ出来るわ」
「うん、こんな感じ。
全部、こんなイメージとか、こんな感じとかいう言い方で申し訳ないんだけど(笑)」
なるほど、直接やり取りするメリットは、こういうところにあるんだね。
その後も、二人は、身振り手振り、時には身体を動かして説明してくれる。
中野さんが、コーヒーを淹れてくれた。
「ゲーム音楽は、実際には初めて?」
そうですね。
「例えば、従来の音楽と決定的な違いがあるんだ、なんだと思う? たぶん、言われたら、ああ!確かにってとこだと思うよ」
うう〜ん、なんだろう。システム的なことですか?
「システム、うん、間違ってはいないね。
普通の音楽は、曲の流れを作曲者が決定出来る。当然だよね、作曲してるんだから。
でも、ゲーム音楽って、プレイヤーが決めるんだ。プレイヤー次第で抑揚のタイミングが変わる」
抑揚ですか?
「バトルシーンで、やっと倒せそうだぞ、ってとこで、曲を最高潮に盛り上げたい。
しかし、その時間は、プレイヤーによって違う。システムとして、メインが用意されてるならフェードインさせちゃうんだけど、なかなかね。
チマチマ遅い人だと、曲終わっちゃう。仕方ないから、適当なとこで切ってループさせちゃう。いよいよとなると、もう飽きちゃう」
プレイヤー次第で、曲の未来がわからないということ。
「そう。条件が発動した際に、プログラムで強引に直近の小節から入れ替えたりするんだけど、慣れてる作り手さんは、どこの小節からインしても、さほど不自然にならないとか多少意識したりするのかな」
小塚さんが、付け足す。
「これは、僕らはプロの音楽には疎いんだけど、昔のゲームの名曲って、フレーズがクラシックからパクッてるのも多いように感じててね。お金無いし、時間も無い。
ほら、クラシックだと、著作権が発生しないからさ。
ので、省エネでいくんなら、クラシックからパクるといいよ。怖いクラシックってないの?」
やがて、小塚さんと中野さんは最後に顔を見合わせて、小塚さんから最後にギャラの説明を受ける。
「ギャラなんだけど、使用料という形が理想なんだけど、どうだろう」
初めてギャラの説明を受けるも、確かに大事なことなんだけど、自分は初めてのことなので相場が分からない。
「僕らは、曲の使用料を払う形でお願いしたい。ご覧の通り、十分な金額を払うほどの予算はないんだ。
そこで、今回きもと君が作った楽曲の永続的な使用許可をもらう。対価として使用料を払う。
使用許可をもらうだけなので、楽曲の著作権はきもと君に属する。我々は、楽曲の一切の権利を主張しない、
という形にしてくれるとありがたいなと」
「ギャラは、お気持ちだけで結構です。代わりに勉強代として差し引きすれば、十分見返りがあります」
「わぁ、ありがと!ってわけにはいかないよ。ビジネスだからね。こういうとこで主張しないのは、日本人の悪いクセだよ」