一章 四
幽霊(と言う表現が正しいのかは分からないが)になって2日目。私たちは依然として何をすれば良いのか分からずにいた。
私はお姉ちゃんと池尻大橋の自分達の家に向かう事にした。
「堕天使は渋谷から離れるなって言ってたけど、一駅くらい大丈夫だよね」
とお姉ちゃんは言っていた。
電車はかなり混んでいて、霊体が避けるスペースがないためか、私たちもかなり圧迫される。息苦しさを感じながら窓の外を見てみると、私たちが住んでいる街が見えてきた。こうして街を見ていると、余計に自分が死んだという事に実感が持てずにいた。
「降りるよ」
お姉ちゃんに手を引かれて我に帰る。人混みをかき分けてホームに出ると、横を全身真っ黒のスーツの男の人が駆け足で通って行った。右手に花束を持ったその人をなんとなく目で追いかけていると、駅の出口を出たところで私たちとは反対側に行ってしまった。
家に着くと私たちの通夜の準備をしていた。今時、自宅で通夜なんて珍しいと思うけど、うちのお父さんとお母さんはそういうところが少し変わっている。私たちは自分の部屋を見たり家族(お父さん、お母さん、おじいちゃん、亀の陸雄)を眺めたりして、2時間くらい経ってから家を出た。
「私大学の方を見に行こうと思うんだけどすずは中学校の方見に行ったら?」
「うん。そうする」
お姉ちゃんと駅の前で別れると、私は中学校の方向に向かって歩き始めた。小学校の時からほとんど変わらない通学路は、普段は自転車で走っているが、別に遠い訳ではないので風景を楽しみながら行くのも良いだろう。そうして普段じっくり見ることの無かった風景を見ながら歩いて行くと、昨日私が事故に遭った通りにが前に見えた。私とお姉ちゃんを跳ねた車は、あの後奥の建物に突っ込んだらしく、ガードレールは破れ、建物の壁は崩れていた。
「別の道に行ったほうがいいかな…」
そう呟いてから、信号が青になるのを待ってから右に曲がる。その道は小学校3年生の時以来だった。
(前はこの道沿いに空手道場があったんだよね)
そんなことを考えながら飲食店になっている道路沿いを眺めて歩いていると、足が何かに当たり、カサッという音がした。下を見てそれが何かを確認する。
…花束だった。
それに気づいた瞬間、激しい頭痛と吐き気に襲われ、私はその場に倒れ込んだ。