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一章 二

渋谷に来たのはいつぶりだろうか?

歩きながら紗はそんなことを考えていた。また来たいとは思っていたがまさか死んだ後に来るとは思いもよらなかった。道の横には新作映画の広告が並んでいた。ここは映画館だろうか?広告の中には今度家族で見たいと思っていた映画シリーズの最新作もある。見ちゃダメだろうか?幽霊だからお金とかいらないだろうし。そう考えたが、お姉ちゃんが先へ進むので声をかけるのはやめた。

数時間前、私たちが息を引き取ってから言われるがまま渋谷まで来たが、この後何をするかは具体的には言われていない。ただ「罪を償う」とだけ言われてもどうしていいかわからない。とりあえず、お姉ちゃんがみんなについていくって言うからついてきたけど。

あの人、大野さんって言ったっけ。みんなあの人について言ってるけど、大野さんはどこかいく宛があるのだろうか?ここからあんまり離れるなとは言われているからそこまで遠いところには行けないけど…………

交差点から離れ、騒がしさもおさまってくると八人の中の重たい空気がより一層強く感じられた。私はお姉ちゃんの手を握る。右手だけが安心感に包まれる。

大野さんが立ち止まったのはそこからまたしばらく歩いた後だった。

「つきました」

大野さんが指した方向にあるのは、少し年季の入ったホテルのような建物だった。

「ここ、いい旅館なんですけどいつも空いてて、部屋空いてると思います」

大野さんが説明する。なるほど、幽霊だから普通にホテルの部屋を借りることはできない。空いてる部屋に入るしかないのか。

「まぁ、いいんじゃないですか?」

大野さんの隣にいた女の人が言う。他の人も別に反対はしていなさそうな雰囲気だ。私は隣にいるお姉ちゃんと小声で相談する。

「どうする?」

「いいと思う」

「わかった」

お姉ちゃんがいいんならここにしよう。他の人たちはもう建物の中に入ろうとしている。私とお姉ちゃんも、手を繋いだままホテルのフロントへ入る。外観はそこまできらびやかではなかったが、フロントに入ってみるとあっちこっちで装飾が輝いていて、まるで都会の高級ホテルみたいだった(実際そうなのだけれど)。大野さんはいつもの癖で、チェクインしようとしたけれど、フロントマンに無視されてしまい、自分が幽霊だと言うことを思い出して苦笑いしていた。

「空いてる部屋を探しに行きましょうか」

エレベーターは反応しなかったので非常階段を使う。古びた外付けの階段は私たちが歩くたびにギシギシと音を立てる。自分の立つ足場は揺れているのに目で見てもその揺れはわからない。大野さんは三階へと入っていく。他の人と姉がそれに続く。私も姉に続く。ドアの先には廊下があって、右側に301、302、エレベーター、303、304と部屋が並んでいる。大野さんは303のドアを開けようとして、何かに気づいたように私たちの方へゆ向き直った。

「ああ、女性と男性で部屋を分けないとですね。多分四階に空きの部屋があると思います」

「ありがとうございます」

隣にいた女の人がお礼を言った。

「それじゃあ、四時にロビーで集まりましょうか」

そう言うと、大野さんは他の男の人と一緒に部屋に入っていった。私たち女性のグループは四階へと上がる。四階も三階と間取りはほぼ同じで、404が空いていた。私たちはその部屋に入る。

一人客向けだと思われるその部屋は人が四人入るには少し狭かった。私たちの体は人はすり抜けても物はすり抜けない。厳密には物の霊だ。他の人たちがどう解釈しているのかはわからないが、姉の解釈によると私たちが触れることができるのは霊のみだということだ。机の上のガラスコップを取ってみても私たちが取れるのは本体から分離した半透明の「霊体」だ。だから現実にいる人からは見えない。じゃあなんで人間はすり抜けることができるのか?。ここからは私の考えだけど、おそらく人間のように生きている物の場合は霊体にも反射神経などがあり、本体は避けていなくても霊体は私たちのことを避けている。だから混雑した場所だと霊体が見えずにすり抜けているように見える。私はこう考えることにしている。

「それじゃあ、まず自己紹介でもしましょうか」

あの時堕天使に反発した女の人が言う。歩いている時は随分ショックを受けたような感じだったけれど、もう立ち直ったのだろうか?

「私の名前はアリア。よろしくね」

そう言うとアリアさんは軽く会釈をした。

「私は霜月紲那です。よろしく」

大野さんと話していた人だ。

「私は天利弛。よろしくお願いします」

お姉ちゃんも立ち上がって挨拶をした。私もそれに続いて立ち上がる。

「天利涼音です。よろしくお願いします。」

自己紹介を済ませるとまた話すことが無くなる。普段のお姉ちゃんならここから話を膨らませていくようなこともできたはずだが今日はそれをしない。4時までの30分程の時間は、ポツリポツリと言葉が紡がれていって、何とか少しだけ仲良くなれたようなそうでないようなと言う状態になった。

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