二章 六
俺たちは、大野に呼ばれ、明智のオフィスの中にいた。大量の資料に囲まれ部屋は、現実とこちら側の物が重なりながら散乱していて、実際よりもとても狭く見えた。
「あ、二人とも!」
大野がこちらの方を見て手を振る。
「大野さん、なんで明智さんの居場所がわかったんですか?」
霜月がそう言う。それに対し、大野は少し顔を顰めながら答えた。
「それが…アリアさんが手伝ってくれたんですよ」
「アリアさんが⁈ホテルで寝込んでるんじゃなかったんですか?」
大野は、霜月の反応を予想していたのだろう。落ち着いて説明をした。
「昨日、明智さんを探すのを手伝って欲しいって天利さんにお願いしていたら、突然私も手伝うって言い出して、手際よくこの事務所を見つけ出してくれたんだ」
大野の話を聞いてアリアのことを不思議に思いつつも、俺はここに来た本来の目的を思い出し、大野に聞く。
「そうだ!明智は?」
大野はそれを聞くと、部屋の奥にある扉を開けた。
「明智!」
俺は慌ててその扉の中に入る。奥に座っていた明智は少しこちらに顔を向けたが、またすぐに手元の資料へと視線を戻した。俺も、明智が持つ資料を見る。10年前の、恵比寿事件の資料だった。
「なんで今更…」
理由はなんとなくわかったが、だとしても明智が10年前に諦めたはずの事件に手を出そうとするのは、考えられなかった。
「なんで今更あの事件のこと調べてんだよ…」
俺はついそんなことを呟いた。自分の語彙のなさを悔いる。明智が俺のためにやっていることも、10年間ずっとこの事件を調べ続けていることも知っていた。でも、もう死んでいる人間のためにそこまでして、なんになるのだ。
明智はもう一度こちらに顔を向けた。今度ははっきりとこちらを睨んでいた。
「ほっといてくれよ…自分の罪を償おうとしてるだけだ。お前の冤罪を晴らせなかったという罪を…」
明智は言いながら手元の資料をめくる。
「罪?どこが罪なんだよ、あの時もお前は全力で俺を守ってくれたじゃないか…何も悪いことなんてしてないだろ」
「けど…!お前は死刑になった。冤罪を晴らせないどころか、お前の罪を軽くすることすらできなかった。…何もやってないのと同じだよ」
「…でも!」
「うるさいな」
明智は突然立ち上がり、こちらに歩いて来て、俺の目の前で止まった。
「お前に俺の何がわかるんだよ」
それだけ言うと、明智は俺の横を通り過ぎていく。
「明智さん!」
振り返ることもできずに、明智を止める大野の声と、それに構わず歩く明智の足音を聞く。その後に、出口の扉を強く閉める音が聞こえた。
「おいおい、止めてくれよ…あいつにこれ以上離れられると困るんだけど」
「空気読めよ…」
「ホンット、お前らバカだよな。お前の冤罪を晴らしたって地獄行き確定するだけなのにな」
「…は?」
明智にあんなことを言いつつも、明智は俺の冤罪を晴らせば天国に行けると思っていた。と言うより、思いたかった。
「じゃあ、このままじゃ明智は…」
「だから言ってるだろ。地獄行きだって。ほら、さっさと止めにいってよ。あいつにはもっと大切なやるべきことがあるんだよ」
「やるべきこと…」
俺は改めてその部屋を見回す。俺の事件の資料に紛れて、明智が死ぬ前に出したであろう最近の事件の資料もあった。そうだ、あいつ俺との面会の時だってその時自分がしている裁判の話をしていた。死ぬ時だって、やり残した裁判があったはずだ。
俺は、走り出していた。
「ちょ、レオさん⁈」
「霜月、明智がどっちいったかわかるか?」
「お前の事件現場だよ」
後ろから堕天使が言う。
「さっさと行けよ、明智の気が変わらないうちにさ」
「…わかってるって」
右拳に力を込めて、俺はもう一度走り出した。




