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第2話 改革の第一歩(2-8:世界の一端を知る 2)

 「次に、南にあるカストリナ公国よ。ここはリヴィオネとは違って、商業を中心に発展した小さな公国で、首都カストリナはエルディア随一の交易都市として有名なの。商人たちが集まり、毎日のように取引が行われているわ。」


「交易都市か。それなら、効率的な物流が必要だろうな。」

 

 シロウは目を輝かせた。


「そうなの。だから、カストリナ公国には商人ギルドという強力な組織があって、彼らが荷物の運搬と商品の取引のすべてを管理しているわ。彼らは既得権益を守ろうとして、新しいシステムや改革に対しては非常に保守的なのよ。カストリナ公国の公爵 ラミアス・ベルトンも商業の発展を最優先にしているけど、ギルドと貴族の間で微妙なバランスを保っているわ。」


「つまり、商人ギルドが強すぎて改革が進みにくいのか。でも、システムを改善すれば、もっと商業が発展する余地はありそうだな。」


 シロウはテーブルの端を指先で軽く叩きながら、眉間にしわを寄せた。


 その仕草には、思考を巡らせる真剣さが滲み出ていた。

(確かに、既得権益を守ろうとする勢力が障壁になることは現実の世界でもよくある話だ。だが、どこかに突破口があるはずだ。)


 彼の表情には、課題を前にした決意と、それを解決するための方法を模索する意欲がはっきりと表れていた。


「ええ。ベルタリウムでは、製造業と農産品の輸出が盛んに行われているわ。でも、物資の輸送に関する問題が原因で、取引が滞ったり、価格が高騰したりすることがあるの。」


 レイラは一瞬視線を落とし、テーブルの端を指でなぞるような仕草を見せた。

 その顔には、カストリナの抱える課題に対する憂いと、シロウへの期待が入り混じっているようだった。


「シロウが提案する管理方法を導入できれば、経済はもっと発展するでしょうけど……」


彼女は一瞬言葉を切り、遠くを見るような目つきになった。


「商人ギルドがどう反応するかが鍵ね。」


「それから、北方に広がるヴォルカン自治領。この国は他の国と違って、領主や貴族がいないの。自治領内の村々や都市は、それぞれの長老が代表となり、『長老会議』という形で統治されているわ。彼らが話し合って自治領全体の方針を決めているのよ。」


 レイラは少し微笑みながらも、その目にはわずかに感慨深い色が浮かんでいた。

 彼女の手は膝の上で静かに重ねられていたが、その指先が少し動いているのが目についた。


「長老会議……それは珍しい統治方法だな。どんな特徴があるんだ?」


 レイラは軽く背もたれにもたれながら、話し始めた。


 「ヴォルカン自治領はね、まず地域ごとに長老が選ばれて、彼らが集まる『長老会議』で方針を決めるの。皆が平等に発言できる仕組みがあって、どんな決定も全員の合意が必要なのよ。」


 彼女の声はどこか感慨深げだった。


「ただ、その合意を取るのに時間がかかることも多いわ。意見が割れると何日も議論が続くこともあるけれど、それでも彼らは決して多数決に頼らないの。」

 

 レイラは目を細めて微笑みながら、テーブルの端を指でなぞるような仕草を見せた。

 シロウは真剣な表情で耳を傾けながら、心の中でその仕組みを考えていた。

 (全員の合意が必要……効率は悪いかもしれないが、その分、決定に対する納得感があるのかもしれないな。)


 「でも、それだけ慎重に話し合って決めたことだから、村人たちもそれをしっかり守るの。だから、自治領全体での秩序はしっかり保たれているわ。」


 レイラの言葉を聞きながら、シロウは彼女の説明に頷き、さらに深くこの統治方法に興味を抱いていった。


 彼はその制度の特徴に惹かれつつも、現実的な問題についての疑問も感じ始めていた。


「でも、そんな合意制の仕組みが、全ての決定を遅らせてしまうことはないのか?特に緊急性が高い問題では。」


レイラはシロウの疑問に軽く微笑みながら答えた。


「ええ、それがヴォルカン自治領の抱える課題の一つでもあるわ。だからこそ、色々な問題が起こることがあるの。」


「確かに……、多数決よりも時間がかかるからね。」

 シロウは考え込むように腕を組み、少し俯きながら呟いた。


 レイラは続けて、ヴォルカンの特徴を話し始めた。


「ヴォルカン自治領は厳しい氷雪地帯に位置しているから、気候は過酷だけど、その分、他国では手に入らない希少な鉱石である『ブルーム鉱』や『アイスクリスタル』を産出しているの。ブルーム鉱は高強度の工具や武器の製造に不可欠で、アイスクリスタルは特殊な冷却材として使われているのよ。ただ、輸送インフラが未整備で、物資を他国に届けるのが非常に難しいのよ。」


 レイラは少し間を置いて微笑みを浮かべながら続けた。

 「でもね、ヴォルカンには独特のシステムがあるの。それぞれの村や都市が自給自足に近い生活を送りながら、必要な物資を『交換市』という定期的な市場でやり取りしているの。長老会議がその開催日や交換品の内容を調整するから、秩序はしっかり保たれているわ。」


「交換市?」シロウは首を傾げた。


「ええ、ここでは貨幣の使用が少なくて、主に物々交換が行われるの。例えば、ある村から木材を持っていれば、隣村から魚や毛皮を得るためにそれを交換するの。ちゃんとした輸送インフラは整備されていないけど、このシステムが地域の生活を補っているのよ。ただ、それでも他国との商売が難しい反面、外部からの影響が少なく、独自の文化や生活様式が発展しているの。」


 シロウは感心したように頷きながら、心の中でその仕組みを思案した。

 (効率的とは言えないけど、こうしたローカルな仕組みがしっかり機能しているのはすごいことだ。それに、中央集権的な管理がない分、地域ごとに柔軟に対応できる利点もあるのかもしれない。)


 レイラは、そう語ると少し肩を落とし、テーブルの端を指先で軽くなぞった。


「ただ、隣国のリヴィオネ王国と鉱山資源を巡って対立していて、緊張が高まっているわ。」


 その声には、不安と同時に、この問題に何とかしたいという思いが感じられた。


「どの国も物資の流れに問題を抱えているんだな。それがこの世界全体の安定を妨げているのか。」


 シロウは腕を組み、視線を遠くへ向けた。

 その表情は険しく、眉間にわずかなしわが寄っていた。

(物資の流れを改善できれば、各国の問題にも影響を与えられるはずだ……。)

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