第2話 改革の第一歩(2-2:異世界の村へ)
歩みを進めるごとに村の輪郭は次第に明確になり、木造や石造りの家々の屋根が並び、瓦の隙間に草が生えているのがわかるほどの古びた趣が視界に広がってきた。
シロウは足を速めた。この村で自分が置かれた状況について何かしらの情報を得られるかもしれない。
そして、この世界での生き方の手がかりを見つけるために第一歩を踏み出した。
村へ近づくと、道端には農作業をする人々の姿が見えてきた。
遠くからは鍬が土を打つリズミカルな音や、収穫物を籠に入れる際の乾いた音が聞こえる。
風が吹くたびに、耕したばかりの土のほのかな匂いや、野菜の青々とした香りが鼻をくすぐる。
村人たちの間には時折笑い声が響き渡り、忙しい手元とは対照的に穏やかな空気が漂っていた。
男たちは肩まで巻き上げた袖口からたくましい腕を見せ、布のシャツと革製の腰ベルトで動きやすい格好をしている。
一方、女性たちは質素ながら丁寧に織られたリネンのスカートにエプロンを重ね、髪をスカーフでまとめていた。
その脇では、子供たちが簡素な布製の服を着て、草の中で遊んでいる。
笑顔を浮かべながら畑の収穫物を手押し車に運ぶ人々や、静かに作業に集中する姿が、村全体の平和で規律ある暮らしを物語っていた。
彼らの活気に満ちた動きがこの世界の豊かさを感じさせる一方で、シロウの胸中に不安が生まれた。彼が着ている服は、異世界のこの村にはあまりにも場違いなものだ。
深い紺色のジャケットに白いワイシャツ、シルバーのネクタイという現代的なデザインのビジネススーツだった。
革靴はピカピカに磨き抜かれ、シャツの袖口には小さなカフスボタンが光る。
その都会的で洗練された雰囲気は、村の土埃が舞う素朴な風景には全く馴染まず、見る者に強烈な違和感を与えていた。
道端で農作業をしていた男が手を止め、奇異の目でシロウをじっと見つめる様子をシロウは感じ取った。
その男は隣にいた仲間に小声で話しかけ、
「あの服、どこかの貴族の使者か何かか?」
「いや、それにしちゃ変わりすぎてる。あんな靴、見たことがないぞ」
と言い合いながら、興味深そうにシロウを観察していた。
子供たちの視線も興味と警戒心が入り混じり、近づくことをためらっているようだった。
この場違いな格好のせいで、村人たちにどのように受け入れられるのかという不安が、シロウの胸をさらに重くしていた。
(彼らに自分の話を信じてもらえるだろうか? それとも、ただの変わり者として追い返されるのだろうか?)