けだるい午後に、真実の愛を讃える王女殿下
それは、それは、けだるい午後の出来事でしたわ。
私、エリザベート・フォン・ザァルツは、令嬢たちと、修道院に視察に訪れましたの。
罪を犯した令嬢たちが追放される『グリュール修道院』ですわ。名前の通り。穏やかな田園風景に囲まれ、緑が豊かな修道院ですわ。
今日は、中庭で、イベントが行われますの。
題して、加害者と被害者の『真の和解』ですわ。
「皆様、お集まり頂き有難うございます。私は、当修道院長、シスター、グリュールでございます」
さて、当修道院は、罪を犯し。追放された令嬢たちが集まる場所でもございます。
修道院と言えば、厳しい戒律に、罰則で、縛るのが、原則でございます。
しかし、
果たして、それで、良いのでしょうか?
過度な刑罰は、憎しみの連鎖を生み。世の中に、負のスパイラルを巻き起こします。
それではいけません。修道院は、更生を目的にするべきです。
午前中は、祈りや、軽作業、その後は、面会や、許可を受けた者は近隣の村の散歩まで出来ます。
夜は、料理、祈り、自由時間、就寝、令嬢たちも、個室を与えられ、修道院内は、自由に、行動できます。
「自らの罪と向き合い。懺悔し、新たな人生を歩むのです。歩みは、ムチではなく、友愛を持って行うべきです」
え、では、被害者の遺族の気持ちは・・・どうなるかと?
ですから、今日は、あの事件。
「『ビアンカの決断』と吟遊詩人にまで歌われましたビアンカ嬢と、その遺族を対面し謝罪と赦しの儀式を行います」
「ビアンカ様とロニー様です」
パチ!パチ!パチ!パチ!
「まあ、ビアンカ様、震えているわ。お義兄様のロニー様ね」
「如何に、相手が、評判の悪い殿方でも」
「一生懸命に贖罪をしているのね」
・・・「ビアンカの決断」とは、婚約者、カイラベルト様を、ビアンカ様が、初夜に、ナイフで刺したのよね。
カイラ様は死亡、朝、震えているビアンカ様が発見され、この修道院に、収容されたわ。
あまりにも、可憐で、弱々しかったから、何か理由があると判断され、北の修道院ではなく、緑の修道院と言われるここに収容されたのね。
望まれない結婚、カイラベルト様が、粗暴の、いわゆるヤカラで、ビアンカ様は決断したと噂は広まったわ。
現在は・・・確か。義兄のロニー様が、熱心に心のケアをしているそうよね。
ビアンカ様が嫁入りされるから、一族から養子に迎えられた方で、王宮の上級官吏試験に合格をされている秀才ですわ。
「皆様、私はロニーと申します。王宮役人です。仕事が忙しくて、ビアンカのケアをする暇がなくて・・・このようなことになりました。
今日は、ビアンカと作った花壇をお見せします。償いの花壇です」
パチ!パチ!パチ!パチ!
「私は・・・ビアンカを引き取り。物心両方面から支えます。
生涯、二人で、償いの日々を送ろうと思います。共に、頑張っていこうと思います。彼女の心が晴れ、被害者の方が赦すまで・・・結婚はいたしません。寝室は別にします」
パチ!パチ!パチ!パチ!
「これこそが、真実の愛ですわ」
「まあ、ビアンカ様とロニー様、お似合いですわ」
「さて、カイラベルト様のご両親は、病で来られませんが、妹様に、来て頂きました。さあ、リーラ様、ご登場下さい!対面です!」
パチ・・・パチ・・・パチ・・・パチ!
拍手がまばらだわ。
シスターに両脇を抱えられて来ましたわ。
銀髪の子ですわ。
まあ、泣いていらっしゃるのかしら。
「・・・グスン、グスン・・・もう、いや」
かなり、やつれているようですわ。
そう言えば、ご両親は、社交界の評判が原因で、お病気になられたとか。・・・痛ましいですわ。
「さあ、償いの花壇で作ったバラですわ。15本です。花言葉は、『謝罪』です。ビアンカ様、手渡して下さい」
「う、受け取って・・・下さい」
「い、いや!」
パチン!
何と、リーヤ様は、花束を振り払いましたわ。
ロニー様が、ビアンカ様を背の後ろに隠しましたわ。
場は静まりかえりましたわ。
修道院長が諭しますわ。
「リーヤ様、人族のみが、赦すことができるのです・・・赦さなければ、煉獄の中で永遠に苦しむことになるのです。さあ、花を拾い。謝罪を受け入れなさい・・」
「いや、お兄様が、不良になったのわ。私のせいですわ。私の髪は、幼い頃、白髪にみえました・・・からかう子を、お兄様が、懲らしめて・・・それで、不良の名が広がりました。
優しいお兄様ですわ・・・ウグ、ウワワワワワワワーーーー。私、知っていますわ。お兄様と婚約中に、この女狐は、ロニーと恋仲だってことを・・・」
まあ、リーヤ様が、泣き出しましたわ。
ここで、やっと、私、エリザベート・フォン・ザァルツが、声をかけましたわ。
「リーヤ様、ハンカチですわ。お拭きになって・・・」
「グスン、グスン、王女殿下・・」
「ええ、憎しみも悲しみも消すことはできないわ。でも、今は、ビアンカ様とロニー様の決意だけは、受け入れて赦しては如何ですか?」
「そ、そんな。王女殿下まで・・花を生けるだけじゃないですか?お兄様は、15カ所もさされましたわ。お花を15本なんて、気を使ってもおりません。
お酒の中に、睡眠導入剤を入れて、寝ているところを刺したのです!検死の記録を見て下さい!・・・苦しみながら、亡くなりました・・・グスン!グスン!」
私は、少し、語気を強めて言いましたわ。
「まあ、何を仰っていますの。ロニー様は、王宮の職を辞してまで、ビアンカ様を引き取ると仰っていますわ。
その決意だけは、受け止めては如何ですか?」
「「「エッ」」」
あら、ロニー様も意外な顔をしましたわ。
「まあ、内規では、重犯罪者の妻、内縁を持った者は、辞職の措置ですわ。王宮ですもの。重犯罪者の身内の者がいてはいけませんわ」
「そ、そんな規則は・・・」
「ありますわ。ですから、内規ですわ。アンリ、手紙を書きたいですわ。机と、椅子を用意して」
「畏まりました」
カチャ、カチャ
と速やかに、メイドたちが、机、椅子と、レターセットを用意しましたわ。
「真実の愛は急げですわ。お父様に、知らせますわ。ロニー様の一族、全員、解雇と・・・」
「ヒィ、やめてくれーーーーー」
シャキン!
「王女殿下に近づいてはいけません!」
アンリは戦闘メイドですわ。
私の近くで、鉄爪を出して、守り。
「無礼者!」
その外縁で、護衛騎士のフランクが、剣を抜きましたわ。
「「「「キャアアアアアーーーーー」」」
「フランク、ここは、修道院ですわ。『ここでは』、殺してはいけませんわ」
「御意!」
私は、速やかに手紙を書き。
従者に、お願いしますわ。
「ものすごく急いで、盛大に急いで、一秒でも早く届けるのよ」
「畏まりました!」
ヒュ~ンと、俊足魔法で、急ぎますわ。さすが、王族の従者ですわ。
「ヒエ、やめてくれーーーーー。引き取るのやめるから!」
とロニー様が、従者の後を追いましたわ。間に合わないでしょうけども、諦めたら、死合いは終了ですわ。
「王女殿下、そこまでされなくても」
「私は、たんたんと業務をしているだけですわ」
「そ、そんな!無責任な役人みたいな口癖はお止め下さい。慈愛と友愛こそが、犯罪をなくすのです」
「ムカついたから、寄付をやめますわ」
「ヒィ、じゃあ、ビアンカ様を、北の修道院に・・」
ヒドいわ。皆、ビアンカ様を、見捨てますわ。
ビアンカ様は、ブルブル震えて、怒っていますわ。
だから、言って差し上げましたの。
「真実の愛に試練はつきものですわ。試練ですわ。試練を乗り越えてこそ、真実の愛ですわ!私は見たいのですわ!」
「・・・王女殿下、それは、あんまりではございませんか?」
「そうですわ・・・ビアンカ様が可哀ですわ」
「ビアンカ様にも将来がありますわ」
見学に来ていた令嬢たちが、口々に意見しますわ。
「まあ、そうですわ。貴女たちが、身許引受人になっては如何ですか?
ビアンカ様は、行動のリミッターが外れ、人を刺す行為まで及びますが、悲劇の令嬢ですわ。
皆様の友愛を期待しますわ」
「ヒィ、それは、お父様に聞かないと」
「相談しなければ・・・」
「王女殿下、メイドを募集していましたわ。ビアンカ様を雇って頂ければ・・・と」
「「「そうですわ!」」
「王女殿下がお手元で観察して下さい!」
「犯罪者は、王宮で雇えませんと言いましたわ。そのような進言をする者達は、絶交ですわ!フン!」
「「「ヒェ」」」
「お父様に怒られますわ!」
私は、ビアンカ様のケアも忘れませんわ。
「ビアンカ様、おそらく、多分、きっと、何とか、大丈夫ですわ。ロニー様は、無職でも、戻って来ますわ」
プルプル震えていますわ。怖いですわ。
「まあ、刺さないで下さいませ。フランクが、すぐに、真っ二つにしますから、私に飛びかかってはいけませんわ。修道院でも、これは、殺していいですわ」
「御意!」
そうだわ。私は金髪、銀髪の子と並べば、金銀になるのかしら?
善は急げですわ。
「メイド、募集中だったわ。リーヤ様、私についてきなさい」
「え、グスン、グスン、はい・・私は・・・」
「被害者ですわ。それは、変わりませんわ。被害者を雇用するなと言う規則はございませんの」
「あ、あの、ありがとございます」
・・・・・・・・
数日後、婚約者とお茶会をしましたわ。
公爵子息のハインリッヒですの。
「・・・知っていますか?何だか知らないが、グリュール修道院の修道院長、ビアンカ受刑囚に、滅多刺しにされたそうだ。
何でも、身許引受人がいなくなったからだそうだ。北の修道院に行かずに、死刑になるそうです。
王女殿下が視察に訪れた日の夜です。危なかった。これからは、どこにいくにも二人で行きましょう」
「まあ、大変ですわ」(ポッ)
何でも、ロニー様から、別れの手紙が来たので、修道院長を刺したそうですわ。
刺したら、また、ロニー様が来てくれると、期待したのかしら?
「おや、新しいメイドの方か?」
「新人ですわ。そう言えば、ロニー様の一族が解雇になりましたから、彼女の一族から採用しようと思いまして、その連絡も兼ねていますのよ」
「あ、有難うございます。王女殿下・・グスン」
「まあ、ダメですわ。胸を張り。目は前を向いて頂かなけなければ、私たち、金銀コンビが、目立ちませんわ」
「は、はい?!」
「王女殿下は、たいがい善い人ですね」
「意味は分かりませんが、エヘンですわ」
後に、この事件は、ビアンカの教訓と言われるようになった。
評判や顔に、惑わされてはいけないとの教訓になり。心ある貴族たちは心に刻んだ。
当日、視察に来た令嬢たちは病気により総入れ替えになったと伝えられる。
最後までお読み頂き有難うございました。