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5.幸せの道とは


 自分の甘さ、何度も転生しておいて姉のマリアとソフィアの呪縛対策のために動いていたら、そんな抜け穴がと猛烈に反省。

 プシューッと全てのエネルギー抜けていくような脱力感に見舞われる。

 それはそれは卒倒するほどの出来事だったので、その衝撃はたった数日で昇華されるものではなかった。


 ──ああ、本当に詰んだ。今までの苦労の全てがとは言わないけれど、計画が倒れてしまった。


 くてんと力なく呆けていたら、ルイが私の髪をすくいとりこてんと首を傾げて見つめてきた。


「ねえ、エリー。疑われて傷付いたんだけど。慰めて?」


 甘えるような声と耳に髪をかけられるくすぐったさに、はっと我に返りルイを見上げると、むっと眉間にしわを寄せ悲しげな表情で私を見ていた。


 男性にしてはつるつるの肌は、隙を見ては外に出ている私より色が白いのではないだろうか。

 顔立ちは八歳で出会った頃よりも大分しゅっとしてきて男らしくなってきた。

 だけど、まだ少しだけ少年らしさも残る可愛らしい顔立ちでうるっと滲んで見える瞳に、ひどいことをしたと責められては平常心ではいられない。


「うううぅっ」


 ああ、本当に混乱中。

 ルイはルイでもできるだけ避けたかった王子の一人で、でも大事な友人。

 五年間王子であると知らされていなかったことにショックを受けて怒っていたが、ルイという名前と、王家の家系図を知っていたらすぐにわかることだと言われ、自分の不甲斐なさにも打ちのめされたりと、今日だけでも感情の振り幅が大きい。


 確かに、確認もせず騙されたと疑ったのは悪かった。

 私自身もまさかと思いながらも裏切られたようでショックだったのだから、そう決めつけられたルイがショックを受けるのは当たり前だ。

 八歳で出会ってから、いろいろ、本当に私のいろいろな言動に嫌な顔もせず根気よく付き合ってくれた友人はルイだけだ。


 王子であるが、王子であるが、ああ、王子であるが、友としての謝罪はすべきである。

 反省モードの私は、情けなく眉尻を下げてルイに視線をやった。

 出会った頃は互いの身長は対して変わらなかったのに、いつの間にか差をつけられて見上げてしまう。


「ねえ、エリー」

「わかった。慰めって、どうしたらいい?」


 この際だからルイが納得するまで付き合おう。

 澄んだ眼差しを前に、私は神妙に頷いた。


「手、指絡めて繋いで?」

「ん」


 すかさずかけられた言葉に、疑問も持たずに手を差し出しされるがまま指を絡め合う。


「とっても傷ついたから、それを忘れるために、目を見て好きだよって言ってほしいな」

「……好きだよ」

「名前もつけてね」

「ルイ、好きだ、よ」

「僕も好きだよ」


 そう言って、ぱあっと表情を輝かせて嬉しそうに笑うものだから、私の頬は熱くなった。


 ──いやぁぁ~、ちょっと聞きました? 見ました?


 申し訳ない気持ちで言われたことを言われた通りにしていたが、最後のにっこりはヤバかった。

 第三王子オソルベシ。性格を知らないと思っていた王子の一人はとっても優しくて、そして可愛らしさの中に色気まであるようだ。


 そっとメイドのペイズリーに視線をやると、顔を赤らめてそっぽを向いていた。年上キラーか。

 第三者もいると思うと、さらに顔が熱くなっていく。ゆでだこのようになっていないか心配だ。


「ルイ、ちょっと恥ずかしいのだけど」

「エリーでも恥ずかしいと思うことあるんだね」


 正直に言うまでもなく、転生を含めた人生で恋愛未経験。

 これまで男性にふわふわと甘くなるような扱いを受けたことがなく、結構テンパっている。必死も必死。一応、自分も乙女なのだと再確認さえした。

 だけど、返ってきた言葉は失礼で、一体ルイには自分がどう見えているのか。


「ちょっ、それどういう意味?」

「そのままの意味だけど。まあ、良い方向ではあるかな」


 ふふっ、とそこでルイは密やかに笑った。

 機嫌が直っているようで何よりであるが、勝手に何かを納得しているそれはちょっぴり面白くない。


「意味がわからないわ」

「わからないなら、わからなくても大丈夫。それでね、ここからが本題」

「慰めると言う話の?」

「うん。そう。もう諦めて一緒(・・)に王立学園に行ってくれるよね?」


 機嫌も直っているようだし、口調もいつも通りだしと思っていたら直球がきた。


「えっ、それは嫌だ」


 思わず速攻で返す。嫌なものは嫌だ。それを口にするのは自由だろう。


「でも、魔力があることはサミュエルにバレたでしょ? 王族は十四歳になったら入学しなければならないし、どうせなら一緒の年に行くほうがいいと思わない?」

「……やっぱりバレたんだ」

「うん。いろいろ仕出かしたみたいだね」

「仕出かしたというか、不可抗力というか」


 急に言葉の爆弾投げてきたのは相手だし、仕掛けてきたのは相手だし、追いかけてきたのも相手だしとぶつぶつ言っていると、ルイの取り巻く空気が下がる。

 おのずと私は口を閉ざした。


 嘆息したルイが、口調を和らげてゆっくりと諭すように告げる。


「エリーは隠したかったみたいだけど、あれだけのことをしたらもう隠せないよ。まあ、身から出た(さび)だよね」

「ううぅぅ、やっぱりいけなかったのかぁ」


 ぽんぽん、と繋いでいないほうの手で頭を撫でられたが、相変わらず自分たちの周囲の空気は緊張感を孕んでいた。

 五年の付き合いの中で本当に数えるほどだけど、ルイは決めたらテコでも動かない頑固さを見せる時があった。まさしく、今みたいな空気の時だ。


「それはそうだよ。相手に風をぶつけてその間に逃走を謀ろうなんて。あとは、水たまりも作ったって?」

「ちょっとよ。ちょっと。少しでも時間を稼ごうと思って。あとは、滑って頭を打って忘れてくれないかなぁなんて」


 しどろもどろになりながら、最後に可愛い子ぶって、てへっとごまかすように笑ってみる。

 けれども、ルイの呆れたような眼差しと、ペイズリーの頭を押さえた姿が目に入り、表情を改めて押し黙った。


「エリー」

「はい、ごめんなさい」


 相手の記憶喪失を狙うのはちょっとまずかった。乙女として、可愛げなさすぎた。

 申し訳ありません。反省いたします。


「今更、そんなことでは驚かないけどね。よく考えたら先日のような天気で突風は不自然だし、晴天続いているのに水たまりって、普通に考えたらおかしいよ。魔力が低くて鈍いものなら騙せたかもしれないけど、サミュエルはそんなことでは騙されないよ」

「そっか。そこまで考えてなかった……」

「ちょいっと指を動かしただけでできるそれは、もう基準越えすぎてるよ。エリーはサミュエルの憶測を、自分で勝手に披露して肯定しちゃったってことだね」


 冷静な指摘にぐぅの音も出ない。うっかりミスすぎた。

 今まで能力を隠すことばかり考えていたので、うまく使うタイミングとかを考えたこともなかった。


 これは由々しき課題である。こんなところでも詰めの甘さが発覚だ。

 そして、当たり前のように魔力の話をしているルイをちらりと見る。


「って、ルイは知ってたの?」


 おずおずと尋ねると、何を今更と目を細められ、雄弁に語るその眼差しを目の前にしょんぼりする。


「エリーの魔力のこと?」

「うん」

「もちろん、知ってたよ。あまり知られてないけれど、王族はその高い能力ゆえに相手の魔力を大体だけど推し量ることができるんだよ」


 ──ええーっ!? そんな能力があるなんて初耳だ。何それ? 反則だ。反則すぎない?


「なら……」

「エリーに魔力があることは知っていて黙っていたよ」


 おお、神様だったのか。ルイさま、神様。仏さま。

 なんて、素敵な友人だ。


 それにしても、王子と言う立場でそうするルイの心境とはどのようなものだろうか。

 王族の立場なら、もっと早く必要性を説いて私を説き伏せることもできたはずだ。


「どうして?」

「言ったよね。僕はエリーの味方だって。エリーが知られたくなさそうにしていたから、僕もそれを守ろうと思っただけ」

「そ、うなんだ」


 まさか、まさかの回避すべき王子にバレており、その上で思いを汲んで守ってくれていたとは頭が上がらない。

 なのに、自分は騙されたと怒って、薄情な友である。

 傷付いたと言われたことを思い出し、改めて私の良心はずきずきと、本当にずきずきと痛んだ。


「本当にごめんね。そんな風に考えてくれているなんて知らなくて」

「そうだよ。だから、もう諦めて一緒に行こう。というか、これはもう避けられないことだから。サミュエルにバレて自然と上層部にも話が回ってしまった。王立機関に知られて、今更逃げられないよ。来年度、僕とエリーはともに学園に入学することが決定された。今日はそれも告げに来たんだ」


 その言葉とともに差し出されたのは、国家の紋章が押された入学許可証。


 さすがにこれは見慣れている。ああ、また今回もかってほどに見てきた。

 もう、逃れられない。

 王立機関に知られてしらばくれていられる立場ではない。何より、王子二人が直接知っている。言い逃れなんてできなかった。


「だから、一緒に行こう」

「ああぁぁぁ、今までの努力がぁぁ」

「だから、それを潰したのはエリー自身なんだって。それにエリーの魔力は徐々に高まっているようだったから、露見するのも持って一年くらいだったと思うよ。もう諦めて行くと決めて楽しもうよ」


 ルイが心地よい声で誘う。

 私は、窓から青く広がる空を眺めた。


 耳を澄ませば鳥たちのさえずり、薄っすらと流れゆく雲の自由さが気持ちを大きくさせる。

 まだ繋がれた手から、優しい温もりが伝えられる。


 確かにルイの言う通りだ。

 人生設計を練り直さねばと実際思っていたので、入学することが決まれば対策するしかない。

 それに避けなければと思っていた王子は、今生では友人だ。味方が増えたと思えば心強い。


「わかった。父様たちは?」

「伝わっているはずだよ」

「やっぱり逃げ道なし」

「今更足掻(あが)かない」


 もしかしたらと期待がにじみ出る私の言葉に、ルイが笑う。

 ふわりとルイの周囲の空気が柔らかく動き、新緑のような落ち着く爽やかな香りが漂った。これはルイの持つ魔力の影響なのだろうか。

 それはわからないけれど、だいたい機嫌の良いときはこの匂いがしていて不思議と心が休まる。


「ルイ、機嫌がいい?」

「うん? そうかも。本当なら一年入学するのを先延ばしにしようと思っていたのだけど、エリーも入学するとなればその必要はないし。もう結果オーライかな」


 私の言葉にルイはどこかおもしろそうに笑ったあと、ひょいっと肩を竦めた。


「先延ばし?」

「そう。エリーが入学したくなさそうだったから、もう一年は一緒にのんびりするのもいいかなって。それで交渉していたんだ。さすがに不服に思ったサミュエルがテレゼア公爵家に突撃するとは考えもしなかったけど」


 水面下で何してるの?

 爽やかに告げられるそれに、私は目をまん丸にする。


「……いろいろ言いたいことがあるのだけど、そもそもルイは陛下やほかの殿下たちをどうやって説得しようとしてたの? 第二王子が突撃するような内容って……」


 何を言ったら誑かすという話になるのかわからない。むしろ、先ほど私がルイに誑かされそうになったくらいなのに。

 しかも、勘違いしてマリア姉様だと思っていたらどうやら自分だというのだから、内容は気になる。


「んん? まあ、それは内緒」

「ええ!? なんで?」

「だって、エリーもなぜ入学したくなかったのか言わなかったでしょ。だから、今は僕もこのことは内緒にする」


 これまた爽やかに笑ってぎゅっと繋いだ手に力を入れてくるルイに、開いた口が塞がらなかった。

 今までのふはふはしたいほどの平穏はルイによって守られていて、もしかしたらルイの言動によって破られたのかもしれなくて。

 でも、結局は隠し通せないだろうと言われてしまって、感情が定まらず視線を彷徨わせた。


 その晩、私はふとあることに気がついた。

 失ったものは違うもので満たすのみ。薬草をたっぷりとってきて新たな薬の調合に(いそ)しみ、気持ちを沈めないとやっていられないと集中している時のことだった。


 この時間、匂いもだけど独特のワクワク感がたまらないのよねぇぇぇと、私はニンマリしていたが、ふと思い至る。

 やっぱり、ルイと、王子と関わったからこうなったのかもしれないと。


 だけど、何度も自問自答したが、ルイは友人だ。もう、今更それは変わらない。絶交なんて無理だ。

 なら、次にすることはといえば、学園に入学し関わるかもしれない騒動の回避だ。


 十七歳の呪縛に関わるソフィアとの関係も考えていかなければならない。

 今回の結果を見ると、私がどう足掻こうとも学園に入ることは決まっているのかもしれないとさえ思う。


 ――ここまで頑張ってもこうなるのなら、もう潔く諦めよう。


 終わってしまったことをぶつくさ言っても何も変わらないので、切り替えは大事。

 どんなイベントが待っているかもまったく知らないし、回避努力は怠らないが国家規模のことに巻き込まれることもなきしにもあらず。

 すでに王子であるルイと関わっていることで何が起こるかわからないこの先は、自分で自分の命は守るべきだろう。


 非常に残念で悔しいけれど、滅入っていても何も変わらないし、まだ何も起こっていない。

 そう思うことにした。


 それでも、今まではソフィアと出会う以前に王子との関わりなんてなかったことが気になった。

 今回の転生は、何かがおかしい。今までとまた違う。


 ――うーん。いや、深く考えまい。


 うんうんと自分に言い聞かせるように頷く。


「とにかく、ひっそり、ひっそりと学園でも目立たないようにするのが一番っ!!」


 それが一番の幸せの道、のはずだと、私はまたごりごりと薬草を擦った。




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