表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/76

1.ループを繰り返す


 そもそも私が『ひっそり』にこだわる理由は、何度も生を繰り返すヘンテコな人生のせいである。


 これで何度目だろうか。もう数えるのもバカらしいくらい同じ時、同じ国と同じ家に生まれ落ちる。

 そして、どれも十六歳くらいまでの記憶しかない。死んだのかさえもわからない。ただ、それまでの流れとこれが最後だろう記憶は覚えている。


 その人生は、少しずつ違いいろいろだった。

 まず、忘れもしないこの世界の記憶にある一番最初の人生から五度目くらいまでは、蝶よ花よと育てられた美しい姉に関わることであった。


 私は、公爵家と恵まれた家柄以外は目立つところのない貴族の娘である。

 容姿も能力も可もなく不可もなく、ゲームなどの世界でいうならモブというやつなのだろう。


 そう。お察しの通り、モブだとかそんな言葉が出るということは、もともとはこの世界の住人ではなかった。一番初めの前世の記憶は地球という星の日本の女子高生だ。

 その生の時代では、転生とか悪役令嬢とか、魔王、聖女とかそういう異世界ものの小説が流行っていた。

 そういった話を含めた本を読むのが好きであったが、ゲームはからっきし。


 だから、ゲームのシステムはわからない。異世界系の本の世界から、ぼんやりと知識を得るだけであった。

 なので、一度目と二度目は気づかず、三度目の転生でここは乙女ゲームの世界ではないかとようやく思うようになった。


 もしその予想が当たっているなら、ヒロインや悪役や脇役やらと配置されているのだろうが、それっぽい人はいるがどうしたい、どうなりたいかもわからない。だろうな、くらいで全てが憶測。

 知っていたなら、こういう時はどうすればいいともっと的確に予測を立てられていたことだろう。そして、こんなに何度も何度もなーんども転生していないと思う。


 そもそも、そういう世界と仮定するなら、ヒロインは姉であるマリア・テレゼア、もしくは後ほど出てくる平民出身のソフィアなのではと思っている。

 そして、対象はやはりこの国の王子たちで間違いないだろう。ほかにも側近や先輩や教師と、それっぽい人はいるが正解はわからない。


 なら、悪役でもないモブの自分はひっそりとマリアやソフィアの恋路を応援し、目立たずそれなりの人生を全うすればいいはずだ。

 とにかく、主役級の彼女ら、彼らに積極的に関わることさえしなければ、平凡と書いて幸せな人生になるはずなのだ。


 だから、三度目の転生で五歳の時に強く頭を打っていくつもの前世を思い出した私は、なるべく地味な服を選び、姉となるべく関わらないようにした。

 一度目と二度目は、美しい姉と一緒にいるがために目立っていたことに気がつかなかったため、どこか浮世離れした姉の世話をしていたらいつの間にか姉の恋模様に巻き込まれていたのだ。


 とにかく姉のマリアはモテた。

 多くの男性に言い寄られ、自由な時間がなくなるほど声をかけられることが日常茶飯事であった。


 マリア曰く、誰もが優しくて素敵な人なのだそう。そのため、誰か一人を特別にひいきにするようなこともなく、言い寄られるとちょっと困ったように眉尻を下げて微笑を浮かべては皆平等に接していた。

 その結果、儚げで美しい姉の前では争いは起きないが、裏では熾烈(しれつ)な戦いが繰り広げられていた。


 誰もが素敵ならどの人でもいいということであり、結局マリアは誰一人として特別な関係を持たなかった。

 それに対して、心が広くて優しすぎるからだと思えたのは最初だけ。


 すぐに水面下の争いも公になってきて、確実に姉の日常が壊れつつあった。

 それを見かねて、平等も良いことばかりではなく毅然とした態度も必要だと諭すようにしたが、そのたびにマリアは「だって、エリー以上に素敵だと思える人がいないんだもの」と言い放った。


 うるうると瞳を潤ませ、ぎゅっと妹の手を握り真剣な顔で訴えるマリア。妹の私がそばにいるだけでいいのだと本気で告げてくる。

 男性たちのことはどっちでも良いらしく、話したいのであればどうぞくらいなのだそうだ。

 そう。姉は自他ともに認めるシスコンであった。


 だからか、マリアに振られた男性が私に寄ってくることも多々あった。

 妹の私を取り込めば姉を取り込めると考えるのか、下心丸出しの男が多くてうんざりするほど、彼らは姉の周りから離れない。


 こちらが必死になって追い払っているのに、とうの姉は可愛い可愛いと育てられたお嬢様なので、のほほんとのらりくらりとしながら私を構い倒してくる。

 構われれば構われるほど、マリアを落とすなら私からのほうが攻略しやすいだろうと男性たちに絡まれる。


 なので、前世を思い出した三度目は、ぷちんと堪忍袋とまではいかないが何かの糸が切れるのは必然だった。

 姉は美しさ以外の罪はなく、男性たちに期待を持たすようなことを言っているわけでもない。

 ただ、男性たちがやたらと姉に熱を出すこととシスコンの合わせ技の弊害に、私はうんざりした。


 そこで両親の反対を押し切って家を出ていければ良かったのだけど、やはり公爵家の箱入り娘なのでそんなことが許されるはずもなく、なんとか理由をつけてマリアと距離を置いた。

 そうやって獲得した時間を、これ幸いと外へと視野を広げさらに距離を置く理由を作った。


 気に入った商人にノウハウと商業魂を学んだり、実際に売る現場に付き合わせてもらったりとそれなりに充実していたのだが、それはあっけなく終わりを迎える。

 実地とばかりに宝石の交渉をしている際に、なぜか向かいの野菜売り場からカボチャがものすごいスピードで飛んできて頭を打ってそこで記憶は止まり、気づけば四度目の生を受けていた。


 四度目はやはり同じことを繰り返しそうな姉に早めに見切りをつけて、両親をうまく丸め込んだ。

 ひそかに見つけた魔女に弟子入りし、これまたひそかに魔術に(いそ)しんだ。

 五度目は庭師のトムさんの(つて)を得て農業を学んだ。そして、どれもしょうもない理由で頭に何かが飛んできて記憶をなくしたのか死んだのか。


 どれも最後に、マリアの「エリーが相手してくれない~」とぼやきがこだました。

 意識的に避けることもあったので、シスコンの姉にはそれが堪えられなかったのかもと考えてしまうような最後である。

 違うかもしれないが、シスコンの姉から逃げるようにほかに打ち込んだことが、死に(記憶飛ばしに)急いだのかもと考えるには十分だった。

 もはや、これは姉の呪縛か。


 六度目でそれに気づき、まったく改善されていないことを憂いた私は、深く関わるのも思いっきり拒否するのも駄目だと反省し、姉と程よく付き合うことと姉に群がる男性に絡まれても適当に流すよう心がけた。

 相変わらずマリアはシスコンであるが、相手をしてほしそうなときは実に根気よく付き合い()でられることを受け入れると、私の意思を尊重してくれるようになった。


 あと、逃げようとする私に、転生の最初はほよほよするだけの姉であったが、転生を重ねるごとにグレードアップしていてうまく私の隙をついてくるようになった。

 美しいのは変わらない。だけど、妹の愛で方が露骨になっていると思うのは決して気のせいではなかった。


 放っておくと地味なドレスばかり着てまったく着飾ろうとしない私をひっ捕まえて、可愛くしようとメイド任せにせずマリア自ら髪をいじったり、お揃いの宝石を身につけさせようとしたりと手間を惜しまない。

 当然、目立ちたくないので隙を見て着替え直しているけれど、ある程度は付き合うことにしていた。


 マリアの愛はそれはそれは重かった。

 ある日のこと、姉は条件と年齢が満たされ学園に行くことになったのだが、「エリーが行かないなら行かない」と、自身の美貌を有効に使った儚き泣き落としで断固拒否。


 私は仕方がなく、「マリア姉様、エリーも寂しいですが活躍なさる姉様を見てみたいです」と熱の入った眼差しを向け、彼女が折れるたびに励ました日々。

 普通そういう駄々は反対じゃ……、と皆思った。


 ここまで露骨に妹ラブなんですといった態度で私を構うマリアの様子に、姉を落とすついでのように私に絡んでくる男性たちは減った。

 逆に姉の不況を買うと理解したのだろう。


 考えもせぬ方向で収束したが、結果オーライである。

 やっと余計なトラブルも減り心身ともに負担は減りだし、気持ちも楽になった。

 もともと、私もマリアのことは好きで自慢の姉であったから、関係をうまく築けて良かったとさえ思う。理由はあれど、少し蔑ろにしていたことは心を痛めていたのだ。


 そうやって、やっと姉の呪縛から抜けられ魔の十六歳の誕生日を突破した。

 それまでは十六歳を超えることはなかったのだ。よくやった、私。


 家族に盛大に祝われた誕生日。

 ほっこりしながら部屋に戻り、「ばんざーい。ばんざーい。やっほーい」とこっそりベッドの上で一人万歳三唱したものだ。

 だけど、それもまた遠い昔の話。私の万歳三唱を返してもらいたいと後々涙することになるのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ