ハロウィンパーティーへようこそ
ふかーいふかい森の奥。ここはおばけたちの住む森。おやおや、なんだかさわがしい声が聞こえてきました。
「今日はみんな大好きハロウィンパーティー。今晩のイケニエはだれかなー?」
魔女やかぼちゃのおばけ、コウモリは辺りをクルクル飛び回っている。すると一人の女性が、木の陰にいる者に声をかける。
「こら、ミオ。いつまでそんなところに隠れているの。さっさと出てきて、イケニエを探してきなさい!」
女性は猫耳の生えた女の子の首根っこを掴むと、ポイッと森の外へ放り出した。
「ちょっといきなり何するんですか!」
ミオという少女は、わたわたと慌てたがもう誰もいないことに肩を落とした。
「はぁー、これからどうしよう……」
とぼとぼとミオが歩いていると、一人の男性とぶつかる。
「あっ、ごめんなさい。怪我してませんか?」
「大丈夫です。ありがとう」
それだけいうと、彼はスタスタと行ってしまった。ミオはまたため息をついて歩き出した。
その様子を電柱の上から見ている者がいた。ミオを放り出したあの女性である。
「まったく、心配して来てみれば案の定ね。ここは私が一肌ぬぐしかないわね」
さきほどの男性が路地裏に入ると、白く長い髪の女性が話しかけてくる。
「ちょっとお兄さん、お話があるんだけどいいかしら?」
「はい、なんでしょうか」
「実はあなたにお願いがあるの。私のかわいい子のためにイケニエになってもらえないかしら」
「一体何を……」
男性が言い終わる前にゴォーという音とともに吹雪が舞い上がった。吹雪はだんだん強くなり、男性の膝から下を凍らせた。
ところかわって、ミオは辺りをキョロキョロした。
「この気配は……まさか!」
ミオははっとした顔になり、走り出した。
「お願い間に合って!」
路地裏にいる女性は空を見上げた。そして目の前の男性を見る。
「私は雪女。もうすぐあの子が来るかしらね」
「一体何をするんですか! 早くこれを解いてください!」
「だめよ。イケニエは黙ってなさい」
「つらら姉さん! やめてその人は関係ないでしょ!」
「あら、ミオ遅かったわね。関係はあるわよ。あなたと少しでも関りができたんだから」
「私にただぶつかっただけでしょ。それだけでこんなことするなんて」
「だって、あなたずっとイケニエを探す気がないんですもの。だから私が少し手を貸したんじゃない」
「だとしてもそれは私がやること。早くその人を離して」
つららという雪女は無表情になり、ミオの頬をバシッと叩いた。
「いいかげんにしなさい。もういいわ、なら私が見本を見せてあげる」
「お願いやめて!」
スタスタと男性につららが近づく。すると、男性は困ったような顔になり、二人に話しかけた。
「すみません、さっきからイケニエとか雪女とか言ってましたけど、俺はイケニエにはなりませんよ?」
男性は深く被っていた帽子を脱いでみせた。そこには小さなツノがあった。
「だって俺、小鬼ですから」
「「はぁ?」」
2人してハモっていたら、つららの術が解除された。
「しまった!」
「待って、つらら姉さん。相手が小鬼さんだったら意味ないんじゃない?」
「意味?」
「だって私たちおばけはトモグイしたらだめなんでしょ? 小鬼さんも私たちと同じおばけなんだよ」
ミオはそう言いながら、小鬼を庇うように前に立った。
「だったら食べちゃだめじゃない」
つららはぽかんというような顔になり、次にわなわなと震えだした。
「あんた、なに勘違いしてるのよ。イケニエは恋人にするってことなのよ」
次はミオがぽかんとした顔になった。そして顔を赤くした。
「姉さんはそれを小鬼さんにしようとしたの!?」
「だってあれが雪女のやり方なんですもの」
つららは呆れながら小鬼に振り返る。
「それにしても小鬼って絶滅したものだと思ったわ」
「あぁ、俺のじいちゃんが最後の生き残りだったんです」
つららは、はぁーとため息をついてミオに向き直る。
「これで1からやり直しね。これから森に戻って徹底的に修行してもらうわよ」
ミオはだんだんと青ざめてその場から逃げようとしたが、つららに捕まってしまう。
バタバタと暴れるミオをほっといて、つららは小鬼に振り向く。
「じゃあね、小鬼さん」
そして二人の姿はフッと消えた。
「なんだったんだ、一体……」
それからミオは地獄のような日々をむかえていた。つららからは徹底的にしごかれ、時には逃げ出してまた怒られたり、それでも少し救いはあった。
たまに街に出て小鬼と会ったりもした。そしてかぼちゃたちがまた歌いだす。
「ハロウィンパーティー。次のイケニエはだれかな?」
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