春 それは追放の季節
「弟子、おまえは追放だ!!」
「うっす、了解っす!!」
春、それは追放の季節。
「よし、よくやった。おまえは今日で追放だ!!」
「はい、お世話になりました!!」
魔王を倒し隠居した勇者が開く道場。
そこでは毎年勇者が自身の全てを教えた弟子を追放する様子が風物詩となっていた。
「俺に教えられるのはここまでだな。よし今日で追放と……」
「嫌です、私はもっとここに居たいんです!!」
しかし、どうやら今年は様子が違うようだ。
「どうした? 追放が嫌だっていうのか?」
「嫌です! 私はもっと……もっと師匠に教わっていたいんです!!」
泣きじゃくる少女の頭を勇者はポンポンと撫でる。
「そうだな、追放されたくない気持ちは分かる。でもな追放は悪いことばかりじゃないんだ」
「ぐすっ……」
「追放は別れだ。でもな新しい出会いの始まりでもある」
「……」
「このまま追放されなかったらおまえはここにずっと留まってしまう。腐ってしまう。おまえには素質がある……だから追放されてくれないか?」
「師匠……」
見上げる少女を安心させるようにニコッと笑う勇者。
「さあ、笑おうぜ! 輝かしい追放の時だ! 最後におまえの笑顔を見せて追放させてくれ!」
「はい!!」
「よし、おまえを追放する!!」
「今までありがとうございました!!」
少女は笑顔のまま道場を去っていった。
「また一人追放したのね」
はい、これ。とタオルを手渡す勇者の妻。
「ああ。魔王は倒した。だがまたいつあのような危機が訪れるか分からない。俺に出来ることは一人でも多くに俺の全てを教えて備えることだけだ」
「分かってるわよ。私も反対しないわ。ただ……」
「ただ?」
「どうして送り出すときに追放って言うのかしら? 普通に卒業でいいんじゃないの?」
「いや、違うんだ。俺にとって追放は悪いことじゃないんだ。俺はあのとき追放されたからこそ魔王を倒すことが出来た。だから俺から出来ることはやっぱり追放なんだ」
「うーん……そこだけは分からないわね」