Amour raison d'art
「愛とは何か」
そう君に聞いた瞬間、二人の間を双子宮からの閃光によって縁を焼き絶たれてしまった。
死を嗤う夜空。気紛れな一撃。
空を舞う私。気付いたときには生きる糧であった足場を失っていた。
私の左手は血も流れず綺麗に切断され、痛みも感じぬまま空白の海に堕ちる。
彼の姿は見えない。
自分の姿さえ見えない。
……私は誰であるのか?
そもそも、私は9年前に出血多量で死んだはずの人間。
そうだ、私は5年前に過剰服薬をして死んだはずの人間。
何を言う、私は1年前に首を吊って死んだはずの人間。
そんな者が、愛を知ろうなどおこがましいにも程がある。
遠い遠い太陽のような優しい光であれど、人を等しく救えるわけではない。
霜の降りた心は、踏み潰した方が手っ取り早い。
悪しき信念に囚われた心は、無視するのが正しい。
そう扱われてきたから、同じ目を合わせたいのだろう。
それが、世の理で有るのだから。
「愛……そんなの知らないよ」
知らないことを知っている君の方が一枚上手だ。
なぜなら、君が答えたくないものははぐらかすか、ただ黙りこむだけであることは分かっている。
唇を頻りに舐める仕草も、心置きなく愛撫しているときも、それは君にとって愛ではないのだろう。
あんなにもエロティックなのに、愛ではない。
そうか、そうか。私を壊すためだけに君は在るのか?
あぁ、なんと由々しきことか……!
私が何もない愚者であると見透かしているのだな!
アデュー、我が愛しき人よ。
君の側で一筋の涙を流しながらフルートのラの音を吹きたかっただけなのに。