幽霊を見た時に叫ぶと怖くなくなるセリフをコメント欄で大募集
「おはよう、こんにちは、こんばんは、タケDです」
「どーも、けんすけです。タケスケチャンネルを見てくださりありがとうございます」
「さて、なんだかんだやってきました心霊企画ですが、今回でなんと5回目になります。けんすけ、少しは怖いのに慣れましたか?」
「いや、慣れとかないでしょ。怖いものは怖いし」
「はいでました。すぐ怖いとか言う。怖がりですか?」
「怖がりだよ」
「そんなけんすけに今回の企画はぴったりな内容になっております」
「それはありがたい」
「ただいま深夜2時。今から後ろの廃墟に突撃します」
「ほう」
「こちら、なんと出ることで有名な心霊スポットです」
「え? まじで?」
「まじです」
「どこが怖がりのおれにぴったりな企画なんだよ」
「まあまあ焦らないでください。今日のために前回の動画のコメント欄で募集していたんです」
「何を?」
「『大募集! 幽霊に遭遇した時に叫ぶと怖さがぶっ飛びそうなセリフ』ってタイトルで、視聴者のみなさんにコメントを募集していました」
「まじか」
「みなさん、たくさんのコメントをありがとうございました。集まったコメント数は666。ちゃんと全て確認しました!」
「なんだか縁起の悪そうな数字だな」
「今日はその中で、私タケDが『これは効果がありそうだ!』と思った上位3つをご紹介します。そして! この後廃墟に突撃してから実際に叫んでみようと思います」
「なんで叫ぶのが決定事項なんだよ、幽霊がいなかったら叫ぶ必要ないだろ」
「叫んだ方が楽しいからいいんです」
「いいのか?」
「いいんです!」
「そうかなあ……」
「いいんです!」
「わかった。わかったからじゃあ進めてくれ」
「お任せあれ。原稿とってくるから少しお待ちを」
「あいよ」
「では、行きましょう。タケDが選んだ、幽霊に遭遇した時に叫ぶと怖さがぶっ飛びそうなセリフ第3位は……
『これだからゆとりは』」
「うわ、嫌な言葉。ばっちりおれゆとり世代だから刺さるわー」
「おれもおれも。だからこれ幽霊にも刺さると思うんですよね」
「え、幽霊っておれらと同じ世代なの?」
「どうなんでしょう? でも、ゆとり世代じゃなくても嫌な気分にはなるんじゃないですか?」
「たしかに嫌な気分にはなりそう。それから『ゆとり』って言葉でなんだか雰囲気も緩くなりそう」
「でしょう。なので第3位にランクインです!」
「続いて第2位は……
『見せてやろうおれの本気を!』」
「うわー。痛いなー」
「簡単にやられるボスキャラみたいなセリフですよね」
「たしかに。でも、それならこのセリフはダメでしょ。言う側が負けるんだから。これ叫んでたら幽霊にやられるじゃん」
「たしかに。これはじゃあランク外にしてもう一つ同系統で悩んだやつを2位にしましょう」
「なにそれ?」
「『何度でも蘇るのさ!』」
「同系統か?」
「私の中では同系統です」
「……そっか。でもそれ幽霊側が言いそうなセリフじゃない? もしくはゾンビ」
「楽しい気持ちになれそうだからいいじゃないですか」
「そういうもんなの?」
「はい。今回は私が基準なのでOKです」
「……そっか」
「はい!」
「では、第1位の発表です。第1位は…………
『お前もし今スルーされたら恥ずかしいやつやぞ?』」
「煽るな煽るな。これ、もし言われたら言われた側赤面するやつだから。赤面不可避だから。恥ずかしすぎるから」
「でしょう? それに、もしこのセリフを言って幽霊がノーリアクションだったとしても、それはそれで面白くないですか?」
「たしかに。なに無視してんの? ってなるもんな」
「なので1位はこれしかないなと思いました。どうです? けんすけもこの3つの魔法の言葉があればもう幽霊が怖くないでしょう?」
「怖くない訳ではないけど、マシにはなったかな……」
「ほら! じゃあ早速廃墟に行ってみましょう。何も出なかったとしても、とりあえず撮れ高のために叫びまくってから帰りましょう」
「廃墟で叫びまくる男二人組、それはそれで怖すぎるだろ。普通に考えて通報案件だし」
「大丈夫です! 事前に撮影の許可はとってあるんです」
「叫ぶ許可は別だと思うけど」
「小さいことは気にしない。さあ、行きますよー」
「これでいいのかな……あ、ちょっと置いて行くなよ」
「はい、到着しました」
「きちゃったなー。タケDはどうしてそんなに元気なの?」
「怖くないからですね」
「なるほど、それは羨ましいな」
「でしょう。あー、いい感じに玄関のドアがぶっ壊れてますね。二階建ての朽ち果てた一軒家。あ、この家の中の階段って登っても大丈夫だと思います?」
「と言うと?」
「途中で階段が抜け落ちちゃったらどうしようかなあと思いまして」
「それは幽霊とか関係なく怖いな」
「流石に怖いですね。ここで死んだらおれが幽霊になっちゃいそうですよ」
「縁起でもないことを言うなよ」
「まあいいや、とりあえず入りましょう」
「そうだな」
「お邪魔しまーす」
「礼儀正しいな」
「そりゃあ、他所様のお宅ですから。うわー、荒れてますね。ゴミだらけでなんか不衛生って感じがすごいです」
「うお、本当だ。割れた瓶も転がってるし転けたら危ないな」
「けんすけ、足元に気をつけてくださいね」
「ああ、ありがとう」
「ここはリビングですね。かなり物が散乱してます。あれ、最近誰か来たんですかね? あんまり汚れてない服とか雑誌とかもあります」
「たしかに、なんだか少し生活感があるよな。廊下の向こうってどうなってるんだろう。…………ん? なあ、あれ何?」
「え? 何かありましたか?」
「ほら、廊下のあの隅っこに何か変なのがある」
「……あ、本当ですね。白い大きなゴミ袋ですかね? あ、動いた……」
「え、ちょっあれ……女の……人?」
「……いや、あの肌の青白さは人間じゃないでしょ」
「……と言うことは?」
「出ましたね」
「どうする? どうしよう? え、タケDやばいってこれ早く外に出た方が……
「おい! そんな所にいてもおれらがスルーしたらお前は恥ずかしい人になるぞ!」
「は? 何言ってんだよ、煽るなよ!」
「おいおいおい! 本気出すぞおら!」
「煽るなって!」
「ああん? 無視かこら。これだからゆとりは」
「もうやめろや……あ」
「あ、こっち見っ……うわああああああああ!」
「やめろ押すな、危なっ! うわああああ!」
「うわあああああああ!」
「あああああああああ!」
ダダダダダダダダダダダダダダダッ
ダダダダダダダダダダダダダダダッ
「いやー怖かったですね。私、生まれて初めて幽霊が怖いと思いました」
「タケD、お前煽りすぎな! やばかったって今のは。マジでやばすぎる」
「でも撮れ高があったから良かったですね」
「あるけど。あるけどやばすぎたって」
「まあ、ここまで来れば大丈夫でしょう」
「たしかに」
「次回はもっとやばそうな物件に行ってみましょっか」
「お前一人で行け!」
タケスケチャンネル。
チャンネル開設は2015年。毎週土曜日の午後6時に動画を投稿。ノリでやってみたホラー企画がバズり、2019年になってから知名度が急速に上がった。
2019年5月、大人気ホラー企画第5弾と銘打った動画が投稿された。しかし、その動画は終始画面が真っ暗で音声しか再生されないものだった。
投稿された当初は奇を衒ったネタ動画だと、多くの視聴者に判断された。コメント欄は賛否両論の内容で溢れかえった。
しかし、動画が投稿された日の深夜にタケD、けんすけ2人のSNSアカウントが全て、何の前触れもなく削除された。そして、その後新しい動画が投稿されることもなかった。
2人ともそれなりのフォロワーがいたため、あの動画が原因で何かがあったのではないかと、いろんな考察が飛び交った。しかし、動画が投稿されなくなってから2ヶ月が経つ頃には大半の人が2人のことを忘れていた。
彼らの動画チャンネルは今も残っており、当然ながら再生回数は2019年からほとんど伸びていない。しかし、何故か5月に投稿された最後の妙な動画だけは、今も再生回数を緩やかに伸ばし続けている。