ダゴ村②
1章の2話目です。少しだけ先の展開が読めるのではないでしょうか。
「はい、これ今日の収穫。」
トウヤは、二人で採取した木の実と果物をサクじいの前に広げた。村でのトウヤの役割は森に出て食料を調達することだった。収穫した食べ物はサクじいとトウヤの二人で仕分けをして村の人々に分けることになっている。森に出られるのはトウヤぐらいのため、森で取れる食料は貴重だった。
「もうこんな時間だ、みんなお腹を空かせているだろうし、早く仕分けよう。」
「こんな時間になったのはお前が遅いからじゃろうが!」
「あ、そうだった…。あはは…。」
殻のついた木の実は若い村人の住む家に、甘い果物は全員に均等になるように、と袋の中に食料を仕分ける。
仕分け作業をしながら、トウヤはどこか落ち着かない様子だった。どうやら、サクじいをチラチラと見ては何かを言い出すタイミングを伺っているようだ。サクじいはそれに気付いていた。
「なんじゃ、様子がおかしいぞ。」
トウヤは意を決し、サクじいに打ち明ける。
「なあ、じいちゃん、俺、村を出て森を探検したい。森の外がどうなっているのか、見てみたいんだ。」
それを聞いたサクじいは仕分けの手を止め、怒ることはなく黙って目を瞑った。
「じいちゃん、このままだと村は無くなってしまう。分かるだろう、人は減り続けていて、冬は手に入る食料も少ない。この森の中で暮らしていても、死ぬ時まで平凡な生活を繰り返すだけだ。誰かが何かしなければ、この村は…。」
トウヤは森に出るための口実を探した。村の未来を思う発言が、本音なのか建前なのかは分からない。トウヤの言葉が止まってから、サクじいは薄く目を開いた。
「森の外に何もなかったらどうする?」
「何かあるまで探すんだ。何もないならそれでいい、それで満足するさ。」
本当に森の外に何も無かった場合、トウヤが満足しない。サクじいはそれを分かっていた。しかし、それでもトウヤに強い意志があることが伝わってくる。サクじいは続けて聞いた。
「森には凶暴な動物もいる。複数の動物に襲われれば、お前1人の手には追えんぞ。」
「大丈夫だ、キバがいる。それに、今までも凶暴な動物達に勝ってきた。俺たちは負けないよ。」
トウヤが諦める様子はない。
「お前が村を出たら、村の住人はどうなる?特に食糧はたちまち維持できなくなるじゃろう。木の供給も半分になって、火が弱まってしまう。村の灯りが弱まれば、それだけ村は危険になってしまうぞ。当然、キョウもじゃ。」
「それは…。」
キョウの名前を出され、トウヤは一瞬たじろいだ。キョウが危険に晒される怖さと、森へ出たい意志がぶつかる。少し俯いたが、答えはすぐに出たようだった。
「それもなんとかする。冬までに食糧を集めて、木も毎日切って貯めればいい。そうすれば俺が出て行ってもしばらくもつだろう?それでも食糧が足りなければ、作物係の仕事も手伝う。できることはなんでもするさ。」
サクじいは、先程と同じく諦めたような顔をしていた。
「はぁ…。そうか…。どうしても森の外に、のう…。お前は小さい頃からそうじゃったの…。」
トウヤの我儘を一通り聞いたサクじいは、どこか懐かしさを感じているようにも見えた。
「お前が森を出たいなら止めん。わしが止めても、そのうちお前は出ていくじゃろう。」
トウヤの表情が明るくなる。
「じゃが、村を見捨てることは許さん。森に出るのは、食糧と木を貯蓄し、村が不自由なく生活を送れるようになってからじゃ。分かったな。約束じゃ。」
「分かったよ。ありがとうじいちゃん。約束する。」
二人は再び木の実や果物の仕分けに戻った。仕分けをしながら、サクじいはある話をトウヤに聞かせた。
「お前の父親は ——」
―「おーい、みんな!森の収穫だよ!」
中央広場から大声を張り上げるトウヤ。総数が二十にも満たない数の家から、ゾロゾロと焚き火の周りに人が集まる。トウヤは集まった村の人々に仕分けた食料を渡した。
「はい、これがイタジさんとこの分。はい、ラオさんのとこはこれ。袋はまた返しておくれよ。」
食糧の入った袋を受け取った村人達は皆嬉しそうな顔をトウヤに向ける。村人達に食料を渡し終わる頃、ゴツい顔のお婆さんがやってきた。
「トウヤ、ご苦労さま。今日は遅かったらしいね。」
「あ、村長。」
トウヤは村長と呼んだお婆さんの方を振り向いたものの、普段とは違って目を逸らしてしまった。村長は構う様子なく続ける。
「いつも食べ物を集めてくれて助かっておるよ、トウヤ。孫のキョウも世話になっておるしの。」
二人は中央の焚き火を見つめている。
「今日も全部の家に食べ物を渡せたよ。みんな元気そうにしてる。」
「そうか。それはええことじゃ。」
そこに、サクじいが現れる。
「ズガロク、話があるんじゃが。トウヤも一緒に聞くんじゃ。」
サクじいは村長の方を向いてそう言った。村長の名前はズガロクというようだ。
「トウヤが村を出たいと言い出してな。お前さんにも話しとこうと思うたんじゃ。」
トウヤは村長の様子をチラッと見て、先程と同じように目を逸らす。村長に拒否されてもトウヤはいつか村を出て行こうと思っていたが、今まで育った村を出ていくことに少なからず抵抗があるのかもしれない。しかし、村長の言葉は想像していないものだった。
「そうかい、ついにそう言い出したんだね。」
「え…?」
「お前の父親も村を飛び出して行ったからの。いつかはお前も村を出て森を巡りたいと言い出すと思うておったわ。…本当なら、村のためにも行って欲しくはないんじゃがの。」
先程、トウヤはサクじいから初めて父親の話を聞いたところだった。村長もまたトウヤの父親のことを知っていた。
「お前の父親が森に出たいと言い出した時、多くの人たちが止めた。しかし、お前の父親は皆の反対を振り切り、お前の母親…サクの娘と村を出て行ったんじゃよ。結局、二人は今日の今日まで帰ってきておらん。」
「うん…。」
サクじいから聞いたのと同じ話だった。
「あやつはサクの娘を連れて出た。二人がどこで生きとるかは分からんが、二人一緒なら問題ないじゃろう。しかし、お前は違う。キョウはお前のことを慕っておる。」
村長であり、キョウの祖母でもあるズガロク。何か、思うことがあるのだろう。
「必ず生きて帰ってくるんじゃ。その意志が無ければ、村を出ることは許さん。いいな。約束じゃ。」
「うん…。分かったよ。」
トウヤは、キョウの話が出てきても動揺することは無くなっていた。既にトウヤの中で外の世界に出る意志が固まっていた。村長と再び村に戻ってくることを約束したものの、あまり深く考えていないようだった。トウヤはただ、森の中を冒険できる高揚感に包まれているような表情をしていた。
次回の投稿は4/9(土)を目標にします。




