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第7話「晴れた日のお茶会」

 騎士としての仕事終わりに、ティタニアに呼び出されたスノウとユージンの二人は、どことなく緊張している様子だ。


 遊学中という触れ込みの二人だが、騎士団で割り振られた任務をこなしているらしく、仕事が終わる頃で構わないと伝えておけば、勤務時間を終えてすぐにティタニアの元へと来てくれた。


 彼らは、公には初めて入るティタニアの部屋の大きなバルコニーにある女性向けの優雅な意匠の椅子に大きな体で窮屈そうに座っていた。


 イグレシアス家お抱えの騎士団の制服、緑の騎士団服を身につけていた。


 スノウとユージンくらいの美形になると、ともすれば田舎くさくも見えてしまうその色でも、何を着てもお洒落に見えてしっくりとくるのだなと妙なところでティタニアは感心してしまった。


「あの、何か僕達にお話があるんですか?」


 ミアが特別にティタニアが用意していた鼻の良い獣人にも好まれるという花の匂いのするお茶を淹れている間に、さりげなくユージンは話を切り出した。


 ティタニアはゆっくりと目の前にある紺色のティーカップを取ってにっこりと微笑んだ。


 それを見た無表情にも見えるスノウが、何故か嬉しそうにしたような、そんな気がした。


 スノウの表情の動きは、わかりにくかった。完全に無意識な状態で彼が言ったことを思い出せば、そう見えるかもしれないと言った程度だ。


「はい。良ければ少しお話がしたいなと思いまして。あの、私たち……」


 ティタニアが話し出そうとした、その時。


 いきなり女性の高い笑い声が響いた。下品な高笑いとも言える、遠慮のない笑いだ。


 それを聞いたティタニアは、この声を耳にするのは、久しぶりだとそう思った。


(ジュリアン……今日は、例の彼女をここに連れてきていたのね)


 特にそれをどうとは思わなかったが、彼らが遠ざかるまではとても会話出来そうになかった。


 笑い声の主はジュリアンが城下のある自分の館に住まわせている、胸の大きな妖艶な金髪美女だ。


 次期イグレシアス伯爵の地位を約束されているはずの彼は、この領地を受け継ぐための知識を学びに来ているはずなのだが、父カールがいつも苦笑いしている様子からしても、ジュリアンは真面目に話を聞く気はなさそうだ。


 寄り添いながら歩くジュリアンと美女の二人は、はしたない程に体を密着させて城館前の門に向かう大きな道を抜け、自分達が乗ってきた馬車の場所まで行くつもりなのだろう。


 大きな笑い声に驚いて、言いたい事が遮られてしまった。


 仕切り直すには同じことになるとも限らないし、原因となった彼らが立ち去るのを待ってからでも良いだろうとティタニアは冷静に考えた。


 婚約者の浮気を目の当たりにしているはずなのに、何の感情も見せずに無言でお茶を飲みながら、それを見送るティタニアを見て、スノウは苛立たしげに眉を顰めた。


「どうして……なんであんなことが、許されるんだ!? ここはティタニアの父親の城のはずだろう? いくら次期当主になる予定とはいえ、まるで今から我が物顔じゃないか」


(スノウ様が初めて面と向かって私の名前を呼んだわ)


 ジュリアンの非常識な行いに、自分の代わりに怒ってくれている彼が、初めて自分の名前を口にしたことが嬉しくてティタニアはふふっと微笑んだ。


 無邪気な笑顔を垣間見せた彼女に、怒っていた様子のスノウは勢いを削がれたようにぽかんとなってから、恥ずかしそうにして口を尖らせた。


「……男性は、やはり女性の胸が大きいのは良いものですか?」


 ティタニアは思わず、前々からどうなのだろうと思っていた疑問を口にしてしまった。


 ティタニアは細身で先ほどの金髪の美女と違い、胸が大きいとは言い難い。それを理由にジュリアンから嘲るように指摘された事もあったのだ。


 この話題なら先程のようにまた遮られたとしても惜しくないし、それに、ティタニアにとっては彼ら二人がどう思うかも興味深いのは事実だった。


 世の中にはジュリアンのように女性の身体的なことを問題にするような失礼な男性ばかりではないと、信じてはいたけれどその確証を得たかったのかもしれない。


「どんな体型の女性でも、魅力的であることは何も変わりませんね。もしそれを比べるような下衆が居たとしたら、相手にしないのが一番です」


 思慮深いユージンは、そつなく無難に答えた。それを聞いた誰もが傷つくことのない、貴族の返しのお手本のような答えだ。


「好きな女の身体的なものに、大きさなんて関係あるのか」


 スノウはますます眉間の皺を深くして、むっとした様子で言った。


 不機嫌そうに見えるが、彼は決してその質問をしたティタニアを嫌っている訳ではない。何かに対してとても怒っているのだ。


(スノウ様は、怒っている。もしかして……私のために、ジュリアンに怒っている?)


 ティタニアは、やっとその事実に辿り着いた。


 この前の晩餐会でも、ジュリアンの無礼な振る舞いはことある毎に目についただろう。


 きっとスノウはティタニアがバカにされていたり、軽く見られていることに対して、あの時もずっと怒っていたのだ。


 そうやって感情を露わにして怒ってくれている彼は、裏表のない素直な人なのだと知れた。


「あら、スノウ様は恋人の胸がちいさくても構わないんですか?」


 くすりと笑って揶揄うように首を傾げたティタニアに、スノウは片眉を上げると真面目な顔をして頷いた。


「胸は出産をすると母乳が出てくる、性感帯のひとつであるとは承知している。ただ、その用途でいくと、むしろちいさめのほうが良いんじゃないのか。赤子も咥えやすいし、神経の問題を言うならちいさな方が感度も高……」


 いかにも王子様のような綺麗な顔をしてとんでもないことを訥々と語っていたスノウの口を、途中でユージンが力任せに引っ張った。


 その顔には、何とも形容しがたい笑顔が張り付いている。


「にゃにふる……」


 口を引っ張られたまま喋ろうとするスノウの頭を一度強めに叩くと、ユージンは捲し立てるように早口で喋り出した。


「本当に申し訳ございません。大変失礼を……ティタニア様。このバ……スノウは、末っ子でまわりに甘やかされたせいか、どうも鈍感で、貴女のようなうら若き乙女に聞かせるべき言葉を選ぶことも出来ない粗忽者なんです。親族の一人である僕が代わって謝罪致しますので、どうかご容赦ください」


 そうして睨み合う二人を見て、ティタニアは吹き出し声を上げて笑った。


 こんな風にして笑ったのは、久しぶりだった。


 ティタニアは母がいないため、父の仕事を手伝ってイグレイシス家の女主人の役目も出来るだけ担当していて遊んでいる暇はないに等しい。


 手伝ってくれるはずの時期後継者婚約者のジュリアンはあんな調子であったので、彼女は息つく間も無くいつも気持ちが休まる暇がなかったのだ。


「ほら、ティタニアが笑った」


 してやったり、と言った様子でスノウは嬉しそうに言った。


 彼の隣に座っているユージンは、呆れたように頭を抱える。


「いや、そりゃ笑うだろ……今まで交わしていた会話ちゃんと理解してる? お前バカだな? バカだよな? あー、バカだった。元からだった。なんか最近、大人しくしているから、都合よく忘れてた。言っとくけど、ティタニア様が女神みたいに優しいから、お前の考えられない無礼が許されているんだから、そこのところをちゃんと理解しとけよ。バカ」


「ティタニアの前でバカバカ言うなよ」


「本当のことを言って何が悪い。騎士団で男同士で猥談してるんじゃないんだぞ。若くて未婚の女性に聞かせる話題じゃないことくらい流石にわかるだろ……ティタニア様だから、笑って許してくれたんだぞ。本来だったら、もう会ってくれなくなっても仕方ないくらいの事なんだよ」


「そのティタニアが笑ったんだから良いんだ。他に許される必要はない」


「まずい。僕の従兄弟って本当にバカだった……それ胸はって偉そうにするところじゃないだろ。質問されたティタニア様に恥をかかせる可能性も考えろよ……」


 その掛け合いを聞いてまた笑ってしまったティタニアを見て、顔を見合わせた二人も声をあげて笑いだした。


 青い空に、楽しそうな三人の笑い声が響く。


 三人が声をあげて笑っているのを、用事を済ませて戻ってきたミアが見て不思議そうに首を傾げた。

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