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第27話「物語るもの」

 自分が生まれ育ってきた城館をこうやって見下ろすことが出来るなんて、今まで思ってもみなかった。


 長い歴史を感じさせる古めかしい様相の灰色の屋根の上に、何匹かの白い小鳥がやって来て、すぐに青い空へと飛び去った。


 今まで下から見ているだけだった巨木の上部ある枝はそれだけで丸太のように太く、ティタニアを背に乗せ、大きな雪豹に獣化しているスノウはその上にそろりとした危なげない動きで身を伏せた。


 この前、何かしたいことがあるのかを聞かれて、獣化している彼に乗って森を駆けてみたいと言ったら、驚いた顔をして微笑むと二つ返事で引き受けてくれた。


 貴族としての責務を持ち自由に出来る時間が少ない二人が、今日ようやくノーサムの森へと来ることが出来た。


「こんなに高いところから見ると、あんなに遠くまで見通せるのね。向こうの街まで見える。すごく綺麗」


 まるで雲の上に住むという神様の視点のような、一生に一度も見ることが出来る人があまりいないであろうその光景は美しかった。


 目を細めてはしゃいだ声を上げるティタニアを振り向いて、スノウは言った。


「こんなに喜ぶなんて思わなかったな。そうとわかっていたなら、もっと早く連れて来てあげていたのに。女の子は高いところは怖いのかなと思ってた」


「私が初めてスノウを見た時、ここにユージンと二人で居るのを見たの。あの時はもしかしたら落ちてしまわないかと心配だったけど、こんなに綺麗な風景を見ていたのね」


 スノウとユージンの二人がじゃれあってこの木に登って行くのを見たのは、ついこの前だったような気がする。


 どう考えても幸せになれそうもない道を歩いていくしかないとそう決め込んでいたあの時から、一年も経ってないのに。


「あー。あの時か。俺はいよいよティタニアに直接会って話せると思って、すごく緊張していた。だから、ユージンが気晴らしでもしようと言い出したんだ。あれを見ていたんだね」


「ふふっ。何でか私、あの時にスノウと目が合ったような気がしたんだよ。こうやって城館を見ると絶対にそんなはずないのに」


 城館を見下ろすと、窓自体が本当に小さく、その中に居る人間などは見ることは出来なさそうだ。


「俺も、あの城館にティタニアが居るんだなってそう思って見ていたよ。そうか。あの時、お互いのことを考えていたんだな」


 言い終わるとすぐスノウは隣の枝へと飛び移り、ティタニアは短い悲鳴をあげてから、信じられないくらい軽々とした動きで飛び移っていく彼の身にぎゅっとしがみついていた。



◇◆◇



 しばらく走ってから、深い森の中。


 開けた場所にある花畑にたどり着くと、ティタニアはスノウの背に自分の身を固定出来る革のベルトを慎重に外した。


 彼女が地面へと降りたのを確認すると、スノウはぶるぶると身をふるわせて一気に人化した。


 どさりと落ちた荷物から慣れた手つきで下履きを取り出すと、すぐにそれを履いた。季節的に気温はかなり蒸し暑くなってきていたので、上半身は裸のままで良いと判断したのか、振り返ってティタニアに聞いた。


「ティタニア。お弁当すぐに食べる?」


 かなり朝早くに出発したので、昼食にするには少し早い時間だ。首を振ったティタニアに頷いて、スノウは大きな敷布を取り出すとなるべく緑の多い部分へと敷いた。


 先に敷布の上に座り込んだ彼に促されて、ティタニアは靴を脱ぐとそこに腰掛けた。


「綺麗だね」


 色とりどりの花が咲き誇る花畑は、なんでも地元に住む領民たちには有名だそうで、話を聞いてからいつか自分も来てみたいと思っていたティタニアは、スノウに向かって微笑んだ。


 徒歩で来ると何時間もかかってしまうそうなのに、雪豹に獣化出来るスノウと一緒だとそう時間をかけずに来ることが出来たのだ。


「……待って。ティタニア」


 スノウはティタニアの背後に居るものに気がついたのか、ぽかんとして驚いた顔をしている。


「え?」


 スノウが呆気に取られたような、そんな表情を見せることは少ない。


 慌てて後ろ振り向いたティタニアは思わず息をのんだ。そこには、ノーサムの森に住むという気難しいといわれている妖精が居た。


 幼い可愛らしい女の子のような妖精は、ふわっと蝶のような青い羽根を動かして舞い上がり、驚きで固まってしまった二人に悪戯っぽく微笑み、花畑の中心へと辿り着いた。


 そうして妖精は踊り出して、そのダンスに誘われるように森の中から、たくさんの妖精たちが現れた。


 世にも珍しい妖精たちのダンス。このノーサムの伝承にも残っていない、誰にも聞いたこともない稀有なものだった。


 どんな魔法なのか、目の錯覚なのか、不思議に空気がきらめいている。


 幼い頃に読んだ御伽噺の中に迷い込んでしまったようなそんな気がして、ティタニアは瞬きも忘れて目の前の光景を食い入るように見つめてしまった。


 ひとしきり妖精のダンスを楽しんだ後、ティタニアは隣に居た彼の方を見て名前を呼んだ。


「スノウ」


 世にも珍しいそんな光景が広がっているというのに、彼はそれよりも、それを見ているティタニアの方を、じっと見て微笑んでいた。その目には一人だけしか映っていない。


 その視線の物語るもの。



 私の運命の人は、自己紹介もせずに諦めちゃう早とちりだし、黙ったまま私に向けての愛を語る困った人で目が離せない。


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