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第26話「結婚式」

 澄み渡るような青空の下、華やかな色の花びらが舞った。


 スノウとティタニアが連れ立って城館に別棟として作られている教会の結婚式用に飾られた階段から降りると、拍手で大勢の招待客が迎えてくれた。


 微笑み合う二人に祝福の声が方々からかかり、その様子を見ていたカールは喜びで泣いてしまっているようだ。


 高級なレースで出来た長いヴェールや、きらめくちいさな宝石を数多く縫い付けられた白いドレス。


 初めて見た時、あまりに素敵でティタニアは感動のため息をついてしまった。それを身につけて今、彼との結婚式が出来たことが嬉しい。


 スノウの母オルレアンはこの日より娘となるティタニアの身につけるものには、妥協を許さないようだ。式直前まで、細かい直しなど拘っていた。


 三人居る息子たちを愛しているのは間違いなく確かなのだろうが、娘も欲しかったという気持ちも隠せないようだ。


 幼い頃から母と呼べる人が傍にはいないティタニアにとっては、その可愛がられようがとてもくすぐったく嬉しいのも事実だった。


「ねえ、ティタニア」


 涙を拭っている父カールの様子が気にかかり、視線を向けていたティタニアに、スノウが耳元で囁いた。彼の方を向くと間近に見えたその青灰の瞳は美しく、やっと待ちに待ったこの日を迎えられた喜びできらきらと輝いていた。


「どうしたの。スノウ」


「俺はね、こんな時が来るのが、心のどこかでわかっていた気がするんだ。遠い未来のその先で、こんなに嬉しい日を迎えられるのも。着飾ってこんなに可愛いお前の隣に居られるのも」


 彼の式用の黒い正装の姿は凛として爽やかでいて、それで居てどこか可愛らしくも見える。


 それは、彼のとっても甘え上手な中身を知っているティタニアの気持ち次第のことなのかもしれない。


「未来がわかるのって、なんかこわいな。わからないままの方が良い。良い未来だけだとは限らないもの」


 このまま大広間での披露パーティーへ向かう道中で、隣を歩きながらティタニアが声をひそめてそう言ったので、スノウは不思議そうに首を傾げた。


「もし未来がわかれば、それを変えられる機会があると俺は思うけど。どんなに進む道が固まってしまったとしても、そうならないように懸命に動けることが出来る。後悔のないように、必死になることが出来るだろ? もしそれが出来たなら、どんな結末になっても悔いはないと言い切れるよ」


「どうしても変えられない暗い未来が分かってしまうと、もしかしたら絶望する時もあるかも」


 意思の強い彼らしいその言葉に肩をすくめながらティタニアがそう言うと、スノウは微笑んだ。


「そうだな。でも、暗い未来のその先は、誰にもわからない。思いも寄らない不幸が襲ったとしても、絶対にずっとその状態のままじゃないよ。雨が降ったらいつか止むんだ。傷を負ってもいつか癒えるように。俺は一番大事なティタニアが本当に辛かった時に自分勝手に勘違いして、傍にいてあげられなかった事を本当に後悔している。けど、今隣に居られることに感謝もしているんだ。もし、変えられない未来の一場面を見えてしまっても、その先は何かが待ってるよ」


「……それが運命?」


「そう。俺が決めた俺の運命」


 陽光が降り注ぐ古めかしい城館にはたくさんの笑い声がさざめき、幸せな二人の未来を後押しするような涼しい風が吹いた。



◇◆◇



「本当にすみません……」


 ユージンは非常に申し訳なさそうな顔をして、なんとも言えない表情のティタニアを見た。


 披露パーティーを終えての、結婚式後の初夜だ。


 オルレアンが気合を入れて選んだ可愛いらしいネグリジュでは、流石に彼の前には出られなかったので上にはゆったりとしたガウンを着込んでいた。


「大丈夫。なんとなく予想はついていたから」


 ティタニアとユージンは、苦い顔で笑い合った。


 お酒に弱いはずなのにお祝いしてもらう立場の主役なこともあり、お酌をされる度に機嫌よく呑んでいるからこうなるのかなと予想してはいた。


 大きなベッドの上で大の字になり既にぐうぐうと大きな寝息を立てて熟睡してしまっているスノウは、もう夢の中だ。


 初夜を楽しみにしていたのは以前から何度も何度も聞かされていたので、こんなに正体をなくしてしまう程になるとは流石に思ってはいなかった。


 値段の張る正装をまだ着たまま寝ているので、皺になってしまう前にユージンに手伝ってもらってなんとか下着一枚までに脱がした。


「これで良いわ。手伝ってくれてありがとう。どうせ、朝にはお風呂に入ると思うし」


 一仕事を終えて息をつきつつ、そう言ったティタニアに微笑んでユージンは言った。


「気候もだいぶ暖かくなってきましたからね。そのまま転がしておいて大丈夫ですよ。知っての通り、寒さには強いので風邪はひきません」


 その言葉にくすっと笑ったティタニアに手を振ってから、気の利くユージンは灯りを消してから出て行った。


 ティタニアはガウンを脱ぐと、まじまじとスノウの整った顔を見下ろした。


 新しく夫婦となるからと用意された真新しい大きなベッドの上に、すやすやと眠る花婿といろんなところが透けている色気たっぷりな下着みたいなネグリジェを着た自分。


 なんだか、すごく間抜けな状況だった。


 上掛けを被ってそっと彼の横に潜り込むと、スノウの腕がいきなりティタニアの腰に巻きついた。


「……っスノウ?」


 眠ったままの無意識の行動なのか、ぎゅっと手放さないとばかりの力を込めて両腕は緩むことはない。くうくうと響く、可愛らしい寝息は憎めない。


(そういえば、彼と初めて会った夜も一緒に寝たわね。あの時もすごく酔っていたわ)


 何度も何度も同じような光景を見ているような気がするけれど、それでも飲むのをやめないということは、彼はきっとお酒を飲むのが好きなのだろう。


 ティタニアはこの前成人したばかりでここまでの飲酒をしたことがないけれど、一度ここまで酔っ払ってみたいような気もする。


(そうしたらスノウはすごく慌てそう。一回やってみようかな)


 お酒にすごく弱い甘えん坊の夫。この人と過ごすこれからの日々が楽しみだった。


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