第1話「プロローグ」
たとえば、運命というものがあるとして。
この世でただ一人だけ。
それをねじ曲げることの出来る人がいるとしたら、君は何を願う?
そもそも運命とは何か?
んー、そうだなぁ。
この先そうなると定められたもの。
人のような矮小な存在には、とても抗えぬ大きな流れ。
説明するには難しいね。
そう。
君が数年前にお父さんとお母さんから生まれたことすら、何もかも決まっていることなんだよ。
そんなの、おかしい?
おかしいよねえ。
僕も前にそう思ったこともあるんだけど、その流れに逆らおうとする
と必ず手酷いとばっちりが待っていることに気がついてね。
それ以来、出来るだけ逆らわないようにしたんだ。
長い物に巻かれるのって楽だし、何より疲れないからね。
上手く生きるための処世術ってやつだよ。
幼い君には、まだ早いかな。
今生きている人生の中。
君自身が自ら決めることが出来るのは、実はあまり多くない。
そのことには気がついていたかな。
生まれもそうだし……容姿もそう。
それに育つ環境に伴い形成されていく性格だって、そうだね。
何もかも好んで選んだものでは、ないだろう?
君が君として生まれ落ちたその瞬間。
この後の人生が、ほぼ決まっていると言っても過言ではない。
人が生きている短い時間の中で、どんなに足掻いても選べる道には限界がある。
極端な例だけど、王様は庶民にはなれないように、庶民は王様にはなれない。
……だが、どんな概念をもすべてぶち壊す、何もかもを攫うような奔流。
数多くの紆余曲折を経たとしても、いつか必ずたどり着く場所。
まだ遠い未来の中で、君を、君だけを待っている。
それこそが、運命と呼ばれるもの。