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明るい島  作者: 雨世界
6/12

6 幽霊と私

 幽霊と私


 プロローグ

 

 こんにちは。幽霊さん。


 本編


 大丈夫。ほら、怖くないよ。


 暗い闇の中、光さす場所で。


 私が目をさますと、そこには一人の小さな幽霊がいた。

 真っ暗な世界の中でぶるぶると震えて、一人でうずくまって泣いている、小さな幽霊がいた。

 私は、そんな幽霊の泣いている姿を光の中から見つめていた。


 世界は真っ暗だったけど、なぜか私の目覚めた場所にだけは、天上からまるで溢れるように、光が差し込んでいたから、私はその光の中で体を起こして、真っ暗闇の中にいる幽霊のことをじっと見ていた。


「あなたはどうして泣いているの?」私は言った。

 その幽霊はあまりにも、悲しそうに、あまりにもか弱く、ずっと泣き続けていたから、私はどうしてもその幽霊に声をかけることを、止めることはできなかった。(本当は、きっとこんな場所で、幽霊に声をかけたりしてはいけないのだろうけど……)


 すると、その幽霊はなにも言葉をしゃべらずに、ただその顔を小さく横に二回だけ動かした。(それがなにを意味している合図なのか。それを私は理解することができなかった)


「こっちに来ない? ほら、なにもないけど、そんな真っ暗なところにいるよりは、こっちの光の中にいるほうがきっと安心できるよ?」と幽霊を安心させるようににっこりと笑いながら私は言った。


 すると幽霊は私の言葉の意味がちゃんと理解できたのか、顔を上げて、私の顔をじっと見つめた。


 幽霊は真っ赤な目をしていた。(きっと、ずっと泣いていたのだろう。……かわいそうに)

 その幽霊の顔は、なんだかどこかで見たことがあるような気がした。(でも、暗くてよく幽霊の顔は見えなくて、誰の顔なのか、それをはっきりと思い出すことはできなかった)


「ほら。こっちにおいでよ」

 私は言った。

 にっこりと笑って、幽霊に手を差し伸べてそう言った。


 幽霊はゆっくりと座っていた闇の中で、立ち上がると、ふらふらとした足取りで(きっと何日もきちんとした食事をしていないのだろう)光の中にいる私のところ向かって歩き始めた。


「うん。そうだよ。一人よりは二人のほうがずっといいよ」私は言った。


 私は、その真っ暗闇の中で泣いている幽霊と友達になりたいっと思った。

 小さな幽霊さんと友達になって、この今、二人のいる不思議な世界のことについて、ゆっくりと話がしたいと思っていた。


 もし仮に、私が話しかけた幽霊が本当は悪い幽霊で、泣いていたのも、震えていたのも、私を食べるための演技だったとしても、別にいいと思った。(そのときは、そのときでしょうがないと思った)


「ほら。こっちにおいで」

 私は言った。

 笑顔で、小さな幽霊にそう言った。


 すると小さな幽霊は本当に嬉しそうな顔をして、にっこりと私の顔を見て笑うと、両手を伸ばして、私の体に思いっきり抱きつこうとするようにして、私のいる光の中にまで、その体を入れた。


 もっとよくその顔を見せて。

 あなたはいったいどんな顔をしているの?


 私がそんなことを思いながら、幽霊と同じように両手を出して、私に抱きつこうとしている小さな幽霊の体をぎゅっと、(安心できるように)抱きしめてあげたい、と思っていると、その光の中で、小さな幽霊の体は、まるで闇が光に浄化されるようにして、一瞬で灰になるようにして、私の眼の前で、……消えてしまった。


 ……私の伸ばした両手は空を切った。


 幽霊は光の中で消えてしまった。


 そして私は、幽霊がこの世界から消えてしまったことについて、その事実があまりにも悲しくて、その光の中で、ぎゅっと自分の体を自分で抱きしめるようにして、丸くなって、泣いた。


 泣いて、泣いて、泣き続けた。


 でも、消えてしまった幽霊が私の元にもう一度、その姿をあらわすことは、二度となかった。


 その名前もない幽霊に、私はもう一度会いたいと、思った。

 あって、その子に名前をつけてあげたいと、……そう思った。


 幽霊と私 終わり

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