089:訪問者3
ティムとリーゼが新しい武器を試す為に、蜂に向かっていった。二人は攻撃手段を持たなかったので、今までは補助的な立場だったが、この武器の威力次第では、単独でも探索者としてやっていけるかもしれないのだ。
「いくわよ~」リーゼが盾を構えながら蜂に接近し、杖を構えた。蜂が警戒するような動きを見せる。
(リーゼの魔力を危険な物と認識しているみたいだ……)
構えた杖の先に渦ようなものが見える、今まで何度も見た風魔法【風刃】だった。放たれた【風刃】は一撃で蜂を打ち落とした。
「やった! 私一人でもやれたよ!」興奮しているリーゼの隣で、ティムも同じく【風刃】を放ち蜂を仕留めた。
「僕にも出来た……僕が魔法を使えるなんて……」興奮しているリーゼとは対照的にティムは感慨深げに杖を見詰めている。
短杖の射程距離は弓の半分にも満たないようだ、だが武器を扱う訓練をした事の無い者が、距離を取りながら攻撃するには十分に思える。
「弓には射程で劣るでしょうが、使い物にはなりそうね。領営工房は装填式にして誰でも直ぐ使える武器にするつもりのようだけど……素人が、あの距離からレッサーワイバーンに魔法を当てる勇気を持てるのかは疑問ね」
「僕はワイバーンを見た事がないですけど、蜂を相手にするのとは訳が違うと思います」巨大な空飛ぶ魔物に怯えて逃げ出す可能性が高そうだ。
「そう考えると弓なんだけど、弓の弦に使う[レッサースパイダー]から採取する糸が、他の素材程には安価に入手出来なくて、魔法弓の量産の障害になっているそうよ」
話してる間もミリアさんは、渡した短杖をティムとリーゼが十分使いこなしている様子を眺め、満足げに頷いている。
そして突然、僕の方を振り向く事もなく、ティム達の戦う様子を見つめながら、ミリアさんが此処に訪れた時から僕が、ずっと気になっていた事について話し始めた。
「精霊石の事は心配しなくて良いですよ、我々エルフィーデ女王国の者は、精霊契約を神聖な物と考えています。精霊石を取り上げたりはしない事を約束します」
僕はミリアさんの話を聞いて、正直ほっとしていた。精霊石を回収すると言われれば、今の僕の力では抗う術がないのは明らかだった。
「但し、その精霊石が何なのか見極める必要があるのも確かです……サラとフィーネは今後、ユーリさんのダンジョン探索に同行なさい。それがサラ、貴女の修行になるでしょう。期待していますよ」
「はい! ミリア様、お任せ下さい」「は~い、サラの事はお任せ下さい」
サラとフィーネが良い返事を返した。フィーネの返事が気になったのかサラがフィーネを何か言いたげに睨んでいる。
どうやらこの件に関しては、事前に取り決めされていたように思える。そして、僕の了解も必要無く決定事項らしい。
だが僕はこれがエルフィーデ側の譲歩なのだと理解したので……「サラ、フィーネ、これからよろしく」と声をかけた。
「あら~ 素直なのは良いことよ、私に任せて~」フィーネが分かってると言いたげにウンウン頷いている。
「これから宜しく。私は少しでも早く強くなりたいの、協力お願いね」
サラも今回の役目に異論は無いらしく、普段と変わる所はなかった。寧ろ強くなるのに好都合と喜んでいるようにも見える。
依然としてティム達の戦いぶりを見つめていたミリアさんだったが、
「子供達の今後は、彼等に話し合いで決めさせるのが賢明でしょうね。貴方が心配するより、あの子達は大人だわ……どうやら、ここに来た目的は済んだようね、撤収します」
ミリアさんは、そう告げると他のエルフ達と共にこの場から去っていった。




