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007:猪鹿亭1

 中央道りには、武具を扱ってそうな店や、雑貨屋、服飾店等が軒を連ねている。


 今まで行商人のコナさんが村で開く市でしか、そういった商品を見た事がなかった。


 僕は、ついお店の商品に目がいって店の前で立ち止まりそうになった。


 (ああ、すごく品揃えいいな……お店一軒分すべて武具なんだ、僕が使えるような手軽な防具とかもあるのかな……ダメだ寄り道厳禁……)

 

 僕は、お店の誘惑を振り払うように、一筋目の通りに入り、真っ直ぐ歩きだした。


 暫く歩くと街の喧騒も弱まり、さらに歩くと、とても静かな場所に出た。僕はとても驚かされた。


 想像していた都市のイメージと、かけ離れた場所だったからだ。


(城壁の内側なのに森がある……なんだろうここは……)


そして、その森と街との境に、目的の[猪鹿亭]は建っていた。


◻ ◼ ◻


 猪鹿亭は二階建ての石積みの建物で、周囲に庭があり、季節の花が植えられている。


 周囲の森も良く見ると、鬱蒼とした森林という訳ではなく、木々の隙間の向こうに柵に囲まれた牧草地がみえた。


 どうやら猪鹿亭の周辺にのみ、小さな森が残っているようだ。


 この不思議な場所を、ずっと眺めている訳にもいかないので、僕は開け放たれている入り口に向かう事にした。


「‥‥すいません、宿を借りたいんですが……」


 僕は宿の入り口から、あまり大声にならないように、呼び掛けてみた。


 なんだか騒がしいのはここの雰囲気にそぐわない気がしたからだ。


一階の部屋には誰もいないみたいだが、「はーい、すぐまいります」と二階から返事がかえってきた。


(どうやら聞こえたみたいだ……あ、下りてきた……)


左手の階段付近から、トントントンと音がして、女性が下りてくる


「あら珍しい、お客様かしら? 猪鹿亭にようこそ、女将のラナです」

 

 下りてきた女性は、老夫婦と聞いていたイメージとは違い、随分上品な感じで目尻のシワと髪の毛に混じった白髪で辛うじて、年齢を感じさせるくらいだった。


「あの、ユーリと言います。すいません。知り合いから薦められて、静かな良い所だと聞いて……」


 こんな年上の上品な女性と話すのは初めての僕は少し緊張していた。


「あら、嬉しいですわね。でもここはかなり街外れで不便だし、若い方には静か過ぎないかしら?」


 (宿屋なのになんだか、下宿人の面談みたいだな……それとも、あまり歓迎されてないのかな?)

 

「僕は、コルネ村という山村出身なので、この森のある静かな場所が、少し村みたいで落ちつきます」僕は、今の正直な気持ちを伝えた。


「そうですの、猪鹿亭は宿屋に過ぎませんが、私達夫婦は静かに暮らしております。お客様もここの環境をおきに召して、長期でご逗留頂いている方がほとんどです」


 僕は黙って頷いた。


「この場所を大切にされているんですね」


「ええ、とても……ささ、気を挫くような事ばかり言って申し訳ありません。よろしければ、お部屋にご案内致します」


 そう言うと、二階への階段を上り始めた。

 

 僕は展開に着いていけず慌てて後をついていく事になった。


 猪鹿亭の外装は石積み壁だったが、内装は木造らしく建築に詳しくない僕にも、とても凝った作りに思えた。


 一階の入り口のある部屋は食堂スペースらしく、とても落ち着いた雰囲気だ。


「こちらのお部屋です。朝食付きで、一晩で大銅貨四枚となります」


 案内された部屋は豪華というわけではないが、清潔で落ち着いた雰囲気の部屋だった。


 コナさんから、宿屋の相場を聞いており、個室だと安宿でも大銅貨三枚だと教えてもらった。


 それより安いと、雑魚寝部屋がほとんどらしい。場所の不便さを差し引いても割安だと思われた。


 僕が、少し考え込んでいるのを見て、ラナさんは遠慮がちに「提案があるのですが……実はもうひとつ部屋とも呼べない場所があるんですが……」


 そう言って、案内された部屋は廊下の一番奥だった。


「古い寝台を置いただけの元は物置部屋なんですが、掃除はしております」


 そう言ってドアを開けた、部屋は奥に寝台を置いただけで半分以上場所が取られていた。


 寝るには寝台の枕側から乗り込むしかない感じだ。ドアと寝台の間は、多少の空きスペースがあり、座って多少なら持ち物の整理などの作業場所は取れそうだった。


 そう文字通り物置部屋だった……


「こんな部屋をご案内するのは失礼かと存じますが……このお部屋でしたら、元々誰かにお貸しするつもりもなかったですし、朝食付きで大銅貨一枚でどうでしょう?」


 僕が考え込んでいるので、かなり僕の懐事情を心配されたようだ……でも事実だった。


「失礼なんてとんでもない! ぜひお願いします!」


 僕は望外の幸運に感謝した。


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