044:蜂蜜の依頼2
猪鹿亭に戻ると、ルナとキャロの二人が帰る所に出くわした。
僕がルピナスを召喚すると、喜んでキャロの頭の上に飛んでいき、同じくキャロの頭の上に乗っていたシルフィーに撫でて貰って嬉しそうだ。
見送りに出てきていたラナさんにウサギを渡すと、嬉しそうに受け取ったラナさんが早速、猪鹿亭に入りウサギを運んで行く。
それを追いかけながら、もう一匹を孤児院に提供するので処理する場所を貸して貰いたいと頼んでみる。
するとルナが「もし提供して貰えるなら自分達でなんとかします!」と勢い込んで言った。
どうやら孤児院では、子供達に少しでも出来る事を増やすように、エルフィーデ女王国から人が時々派遣されてきて様々な教育を施しているようだ。
「あの、ウサギの皮で小物や手袋を作りたがる子がいるんですけど……」
僕は提供した物は自由にして構わないと言うと、安堵したような笑顔でお礼を言われた。
ルナは遠慮しながらも提供を断らず素直に受け入れた。
食料は畑で取れた物で最低限は何とかなっているとはいっても、かなり厳しいのだろう。
二人の煮物を食べている姿から現状の厳しさが透けてみえていた。
キャロが「ウサギにく~、お肉~」と言いながら、はしゃいでいる姿を見て微笑ましく感じながらも、僕の胸は少し痛んだ。
じいちゃんに引き取って貰わなければ、僕も同じ孤児だったのだ。だから何か少しでも出来る事がないかと考えたのが今回の獲物の提供だった。
(もっと強くなりたい……)
僕は初めて、他人の為に強くなりたいと思ったのだった。
◻ ◼ ◻
ルナが今日、猪鹿亭で場所を借りに来たのは、薬草が新たに手に入るようになり入手した物を早速、粉末にする為だった。
取引を持ち掛けられていた行商人の奥さんの雑貨屋に、納品に行った所、行商人が村を巡回して仕入れた薬草を、安く提供して貰える事になったのだそうだ。
ルナも無理なく相場より安くポーションを提供できるし、材料の調達にも目処が立つようになる。ルナが元々持っていた薬草は既に使いきってしまっていて、残りは僕が渡した薬草粉末のみだったのだ。
「それじゃあ、もう露天売りの必要は無くなったのかな?」
安定して納品出来る場所が出来たのだ、子供二人での露天売りはなかなか大変だろうし無理する必要もない。
「元々そんなに数も提供できる訳でも無かったので、雑貨屋さんで数本引き取って貰えれば十分だったんですが……」
ルナは少し恥ずかしそうに「実はこの前の露天でポーションをその場で作って売ったのが、少し評判になったみたいなんです」
(随分人も集まってたし、水属性の錬成魔法は派手で綺麗だからな)
「それで商店街の責任者の方が孤児院に訪ねてこられ、今度の商店街の販売会で場所を出すので実演販売をやって欲しいとお願いされたんです」
僕は自分が係わった事の成り行きに驚いていると……
「こんばんわ、お邪魔します」猪鹿亭に一人の女性が訪ねてきた。
「あらミレさん、こんな時間に珍しいどうなさったの?」どうやらラナさんの知り合いの人らしい。
「あの、ここにユーリさんという探索者の方が逗留されていると探索者ギルドで聞いて訪ねて参ったのですが……」
有名でもない僕に人がわざわざ訪ねて来た事を不思議に思いながら
「はい、探索者のユーリというのは僕ですが何か?」と少し困惑ぎみに答えた。
ミレさんは少し緊張したように「突然お訪ねして申し訳ありません。私は、この近くでパン屋を営んでいるミレというものです。実は、今日受けられた蜂蜜の依頼を取り消して頂こうと、お邪魔した次第です」
彼女はそんな事を突然、言い出したのだった。




